戯言使いの"着地力"に唸る。 伝説シリーズ(全10巻) 西尾維新 周回遅れの文庫Rock

全巻読み通すのに、7月下旬から9月上旬にかけて

およそ1カ月半もかかってしまった。

並行してSFアンソロジー(折りたたみ北京)とか

エッセイ、ルポ、コミックなどをサンドイッチのように挟みながらだったが

ここまで特定の作品(シリーズ)に集中したのは、10年以上なかった気がする。

 

こんなにも時間がかかった最大の理由は

なんといっても、一冊あたりの"分厚さ"に起因する。

知る人ぞ知る上下二段組の新書サイズで、一巻あたり約500ページ。

そんな"辞書レベル"の鈍器じみた本が、合わせて10巻。

つい"ロング・アンド・ワインディング・ロード♪"などと口ずさみたくなるほど

ひたすら長く曲がりくねった物語なのだから。

 

もちろん〈西尾印〉の作品だから登場人物はアニキャラそこのけのキテレツ揃い。

負けじとストーリーも読者の予想の遥か斜め上で炎を噴き上げる。

しかもその炎にさらなる油を注ぐのが

限りなく無駄話に近い会話シーンと、ダジャレすれすれ?の連発ギャグ。

ある意味、坊主の御経にも似た心地よい"リフレイン沼"にはまって

正直、何度"寝落ち"を繰り返したことだろう。

 

しかし、今回強調したいのは、そうした"戯言テクニック"ではない。

実はこの作者、シリーズものの"風呂敷の畳み方"がメチャクチャ巧みなのだ。

 

新本格魔法少女りすか』(完結するまで十数年かかった)のときもそうだったが

"こんなに色々引っ張り出して話を広げて、ホントにちゃんと終わるのか?"

と、他人事ながら3巻終了時に心配したものだが

決して「夢オチ」などに逃げることもなく

最終第4巻ではきっちり見事な"着地"を見せてくれた。

 

一般に、あらかじめ結末が用意されている「歴史ネタ」以外の創作物語の場合

(長期連載を続ける人気マンガシリーズも含む)

巻を重ねれば重ねるほど話の枝葉は四方八方へと広がりまくり

しまいには作者本人にも収拾が付かなくなるケースが、決して少なくない。

(不慮の事故や病で中断を余儀なくされた方には、心からの合掌を)

 

本「伝説シリーズ」も、著者自身が最終巻に記したところによると

約三百万文字(≒四百字詰め原稿用紙七千五百枚分)という長大すぎるストーリーを

――細かいことをいえばあちこち破綻しているけど――

きっちりかっちり締めくくってみせた荒業に

"すごいなぁ!"(何が"凄い"のかはうまく説明できない)と、感激してしまった。

 

うーーん、もっと色々と書きたいことがあったけれど

たぶんそこらへんは、まっとうな「書評者」の皆さんが文字にしているはずだ。

投げっぱなしで悪いが、そっちを当たってほしい。

ともあれ全10巻を通し読みした結果、なによりも強く印象に残ったのは

西尾維新は希代の"着地名人"だ!!

という、書いてる本人以外にはまず伝わらないだろう、大発見!?だったのだ。

 

そんなわけで、我が「西尾維新読破事業」は

これ以降も、「忘却探偵シリーズ」「物語シリーズ」と続いていくーーつもり。

しかしその前に――Re:ゼロ・ダンまち・このすば・天冥の標北方水滸伝満州国演義

蒼穹の昴・JRRマーティン・Aレナルズ・ジェンミン・テレメア・ビジョルドソニン

新宿鮫・キマイラ・グインサーガなどなどなどなど

綺羅星のごときメンバーが(シリーズだけで)首を長くして待っている。

冷静になって"残り時間"を考えると、どうあがいても完全読破は夢のまた夢。

――やっぱここは〈サイコロ任せ〉にするっきゃないっしょ。

 

ではでは、またね。

 

               台湾・高雄(2017.12.1)