大衆食堂で"家庭の味"を楽しむ 沖縄うたた旅 2024.1.28-31 1日目② 糸満漁民食堂🚘百名ビーチ🚘ホテルサン・クイーン👣お食事処三笠👣宿

2024年1月28日(日) 羽田🛫那覇🚘糸満漁民食堂🚘百名ビーチ🚘ホテルサン・クイーン 👣お食事処三笠👣宿

南部の絶景・百名ビーチ、日曜午後ながらほぼ無人

 

沖縄旅行の初日は、昼ご飯だけで十二分に満たされてしまった

とりあえず、車で数分の道の駅糸満をひとめぐり

道の駅で出会った「沖縄ナッツ軍団」、端から順に食べてみたい。

 

農産品市場でバジル、パクチーレモングラスなどを買い込んだものの

時刻はようやく午後1時を過ぎたあたり。

このままホテルに行って部屋でひと休み、という選択肢もあったが

15時まで待たなければチェックインは無理

 

せっかくのいい天気だし、日曜午後で混んでるかもしれないけど

30分ほど行ける南海岸のビーチでのんびりするか。

なるべく混雑してないところがいいかな

と、商業施設が少なそうな百名ピーチを目指す

 

南部の丘陵地帯をくねくね走り

農道らしき細い脇道を下ってしばらく進むと

数台の車が路肩に停車している場所に行きついた

前方に目をやると、鉄柵が立って行き止まりになっている雰囲気

どうもこのあたりからビーチまで歩いて行けるようだった

こちらもレンタカーを路肩に寄せて停車

鉄柵付近まで近づいてみると、右方向に踏み分け道が伸びており

その先に、白い浜辺と青い空が広がっていた

間違いない、こっちが百名ビーチ

傘の代わりになりそうな巨大な葉に見とれつつ踏み分け道を歩いてゆくと

100メートルも進まぬうちに、目の前の情景が一気に開けた

こちらが百名ビーチ、開花シーズンではなかったのかお花畑はどこにもなく

白いサンゴの浜辺には、緑色の海藻らしきものがべったり。

ちょうど干潮時間だったので、水面下のもろもろが露出していたようだ。

ちょっと見アオノリのような海藻が石の表面を覆う・・ひょっとして食えるのか?

 

「絶景ビーチ」という前評判が刷り込まれていたので

正直なところ期待外れの気分で、もう少し沖の方を眺めてみた

でも、よく見ると水はきれいに澄んでおり

沖に向かうにつれて海の色も黄色から水色、水色からマリンブルーへ彩を変える

ーーさすがは沖縄の海だ

ちょうど一年前に訪れたときは、ほとんど曇りか雨だったので

"晴れ渡った沖縄ならではのビーチ"を満喫することができなったのだ

 

日向ぼっこでもしながら、のんびり過ごすか

木陰を見つけサンゴの浜に腰を下ろした相方をよそに

何か生き物はいないかと、ときおり強い陽ざしが注ぐ波打ち際を行ったり来たり

浅瀬に顔を出した岩場、見ようによってはネッシーのような

雲が切れて太陽が顔を出すと、青い空と白い雲が一気に輝きを増す

1月下旬でも、沖縄の陽射しはかなり強烈だ

30分ばかり滞在しただろうか、徐々に雲が広がってきたので退散することに

短い間だったが、美しいビーチでゆったり過ごすひとときは格別だった

 

その後、1時間ほどかけて国際通りの先に地位するホテルへ移動

今回はエアーチケット+ホテル+レンタカーという3点セットだったので

ホテル自体は可もなく不可もなく、といったところ

客の大半が外国人(中国か韓国)なのはいつものことだが

今回、ホテルの専用駐車場を予約したのは、ちょっと失敗だったかも

専用と言いながら、実際はホテル脇の路地に作られた従業員用の駐車スペース

5台ほど並べて入れることはできるが、とにかく狭くて停めにくい

入口が近い分、荷物の搬入・搬出には便利だけど

車の前後左右をこするのではと、心配しっばなしだった

また泊まる機会があったら、近隣の格安駐車場に鞍替えしたい

 

ともあれ、部屋に入った時点で4時少し前

その後しばらくはベッドに寝ころびひとやすみ

晩御飯を食べに出かけたのは、すっかり暗くなった6時過ぎ

 

さて、なにを食べようか

とにかく昼の地魚料理が大満足だったので、海鮮はパス

定番の伝統的な沖縄料理といきたいところだが、正直まだあまり空腹を感じない

この半端な腹加減で名物料理を攻めると、食べきれずに苦労するかも・・

よし、ここは軽く「大衆食堂」にチャレンジしてみよう

 

ホテルが立つ国際通りの東端をスタートし

牧志駅前~市場通り入口~ブルーシール前まで一直線

その先を右に折れて久茂地橋を渡ることしばし
20分弱の時間をかけて、目指す大衆食堂へとだどりつく

地元客でにぎわうお食事処 三笠、大衆食堂なのに夜9時まで営業している

安くて旨いとの前評判通り、到着時(18時30分)にはご覧の行列

最後尾につきながら「こりゃ1時間は覚悟するか」と覚悟するも

長居する客が少ないのか、30分少々で店内に案内された

 

とりあえず瓶ビールを注文して、お疲れさま!の乾杯

だが、酒のつまみになりそうな料理はメニューに並んでおらず

沖縄そば以外は、みなライスとみそ汁がセットになった「定食」ばかり

なるほど、ここは"酒を楽しむ店"じゃなく"ご飯を食べる処"なのだな

気を取り直し、ぞれぞれ700円程度の格安定食を注文した

相方が頼んだのは、ひき肉を使ったかつ丼?っぽい定食

こちらは確か豆腐と肉の炒め物、だったような記憶が・・

どうせすぐに忘れるんだから、メニューを撮っとけばよかった

お茶碗二杯分あろうかというごはんに

"ここは食欲旺盛な人向けの食堂なのだな~"と納得

そういや、若い男の一人客がやたら目についた

(ちなみに相方は完食できず・・)

 

もちろん、味の方も高水準

ただし、味付け自体にさほど驚きはない

観光客が喜ぶような、いゆわる"沖縄料理"とは異なる

ほんとうに、地元の人々が通う昔ながらの大衆食堂なのだ

店内の雰囲気も含め、普段着の沖縄を体験するには格好のスポットじゃないかな

 

ではでは、またね。

漁民食堂で地魚の旨さに目覚める 沖縄うたた旅 2024.1.28-31 1日目① 羽田🛫那覇🚘糸満漁民食堂

2024年1月28日(日) 羽田🛫那覇🚘糸満漁民食堂 

沖縄の魚は旨い!!と気づかせてくれた、ビタローのバター焼き定食

 

昨年秋から年末にかけて、ラオス・台湾と海外の旅に出たものの

円安ドル&ユーロ高の昨今、懐を気にせず楽しめる渡航先がなかなか見つからぬ

悩んだ末、「暑いときは北、寒いときは南」という近年のパターンを踏襲

比較的安いオフシーズンの〈沖縄3泊4日レンタカー付き)に決めた

ちなみに料金は2人合わせて63000円、割増料金なしのJALなら高くないだろう

 

そんなわけで、海外とは違い緊張感ゼロで出発日の朝6時過ぎ

羽田空港第一ターミナルに到着

いつものように自動チェックイン機の前に立ったところで、はたと気づいた。

・・・・あれ? eチケットってどこにあったっけ??

そう、海外旅行2連発で、パスポートさえあればチェックインできると思い込み

eチケットのプリントアウトを、きれいさっぱり忘れていたのだ

(座席の予約だけは予約と同時に済ませていた)

 

ひょっとして、これは出発前日に他のツアーと勘違いしてキャンセルしてしまった

昨年秋の北海道(帯広)ツアーに続く大失態なのでは・・

すーーっと血の気が引いていくなか、近くにいたJALの職員に事情を説明した

すると、「利用する便と身分証明書があればチケットを売れ取れますよ」との答え。

指示されたカウンターで便名・氏名(身分証明書)・申込時の電話番号を確認し

無事、チケットを発行してもらうことができた

そうでなくても年々記憶力が低下し、念を入れて確かめる必要があるのに

すっかり旅慣れた気分で、重大なチェックを怠ってしまうなんて・・

旅行前のチェックリスト作成と確認作業を、必須手順として心に刻みつけるのだった

 

なにはとれあれ、首尾よくチケットをゲット

搭乗時間とにらめっこしながらラウンジでコーヒーを一杯

30分前にゲートに着くと、朝のラッシュで登場案内のスタートは10分前だった

★JAL903羽田発720⇒1020那覇

予約と同時に座席指定を狙ったけれど、キャンペーン期間だけに旅慣れた客か多く

進行方向右の窓側で残っていて席は、翼の真上のみ。

こりゃ景色は期待できないか、と観念しつつ窓の外を眺める。

定刻より15分ほど遅れて滑走路へ。多少時間がかかろうと、無事がいちばん。

どんよりした曇り空の下、東京湾を後に一路南へ

この空模様じゃどのみち富士山とのご対面は厳しいか、と諦めたのだが・・

離陸後しばらくすると、いつの間にか雲の層は消失

気が付けば、翼の後方に純白の富士山が!

いつ、何度見ても感動してしまう。特に積雪期の富士は格別だ。

調子に乗って、無人の山頂にズームイン!

ありがとう、今回もいいもの見せていただきました。

 

それから"音楽鑑賞&読書ときどきうたたね"のひと時を過ごし

はっと目覚めたときには、機体は沖縄上空へと到達

定刻より20分ほど遅れたものの、無事滑走路に滑り込んでいた

 

その後、レンタカーに乗り込むまではいつも通り

早い便だったおかけで、時刻はまだ11時を少し過ぎたあたり

せっかくだから、美味しいランチでも食べにいこうか!

気合を入れて向かったのが、空港の南・糸満にある有名レストラン。

糸満漁民食堂」だった。

 

店の脇に設けられた駐車スペースに着いたのは

12時まで15分といった頃合い

当然満車で、しかも2台ほどが路上で空くのを待っていた

ずっと待つのも嫌だし、やめとこうかな・・一瞬挫折しかける

だがここで妥協し、道の駅などでお茶を濁してしまったら、いつもと一緒だ

ランチだから長居する客は少ないだろうと思い直した

運転席の相方を残し、店の入口へと向かう

糸満漁民食堂の看板。店の前には順番待ちする客のためのベンチが点在していた

予想通り客の名を書き込むシートが入口の脇にあったので、迷わず記入する

その後、15分ほどで空いた駐車スペースにレンタカーを停め

先に待っていた客と一緒に、じわじわ順番を待つ

「食堂」というネーミングに反して、店内は明るくオシャレな雰囲気

入ってすぐの場所に魚の名を並べた黒板があり、すでに半分ほど消されていた

目玉メニュー「本日のイマイユ(地魚)バター焼き定食」の種類なのだろう

人気のある(or希少な)魚から順に、早い者勝ちでオーダーするシステムらしい

 

とはいえ脇に並ぶ値段を見ると、一番安い魚でも半身で1980円とある

前菜やデザート込みのセット料金と考えれば決して高くはないものの

実はこの時点で、バター焼き定食を注文する気はなかった

なぜなら、昨年秋から冬にかけて行なった宮古&沖縄旅行の際

「おいしい」と評されていた魚(刺身など)が、どれを食べてもいまひとつ

やっぱり魚介類は、旨味が濃縮された北(北海道)のほうが旨い!!

なんて思い込んでいたのだ

そんなわけで、ふたりとも魚汁定食(1480円)を注文するつもりだった

 

ところが、たまたま順番待ちで後ろに並んだカップルが地元の常連客

彼氏のほうが「ビタローは旨いから食べたほうがいい」とアドバイスしてくれたのだ

(ビタローとはフエフキダイの仲間の呼び名)

・・・そんなに言うなら、せっかくだからダメもとで食ってみるか

徐々に気持ちは傾いていった

 

いっぽう思ったよりも早いペースで順番待ちは進む

先に7~8組の名前が書きこまれていたので、1時間待ちは覚悟していたけど

開店と同時に入った客が続々と店を出る時間帯だったのだろう

到着から30分少々で名前を呼ばれ、無事着席

黒板を見ると、一番安いビタローの半身が残っていたので、迷わず注文する

これが噂の「イマイユのバター焼き定食」

よく見ると、前菜・デザートともに充実しており、総額1980円は安いものだった

白木のテーブルを前に、冷たいさんぴん茶をいたたぎながら出来上がりを待つ

注文を受けてから焼き始めるので、そんなにパッとは出てこない

メニュー表と一緒に置いてあった「いとまんのさかな」一覧を眺める

この真ん中あたりにある「フエダイ」の仲間が、ビタローの正体らしかった

まずは前菜が登場、新鮮な刺身に特製の「しびれ醤油」がビッタリ

しかも、これはなんだ?・・・妙に美味しい!

今まで口にした沖縄の魚とは、どこか違う気がする

続いてはメインディッシュ、イマイユ(ビタロー)のバター焼きが登場

まずは「半身だから小さいだろう」という先入観があっさり覆される

そして、アオサたっぷりのバターソースをまとうビタローの白身をひとくち

ーー初めて知る沖縄地魚の"おいしさ"が、口のなかにひろがった

北の海に棲む魚介類の"分かりやすい旨味"とはまるで異なる

噛みしめれば噛みしめるほど、じわりじわりと湧き出してくる極上の風味・・・

 

文字にすればするほど鎮撫になっちまうな

とにかく食べてほしい

そうすりゃ何を伝えたいのかが、まるっと分かるはずだ

「一食は百言に如かず」ーーってとこか

 

あと、相方がオーダーした「魚汁定食」もメチャ旨!!

この一食で沖縄の魚(地魚)に対する評価が180度ひっくり返った

それくらいの、いわばカルチャーショックだった

デザートに選んだ豆も絶品モノ

魚汁定食とバター焼き定食、両方頼んで食べ比べて本当によかったよ~

いきなり「この旅でイチバン!」を引き当ててしまったようだ

いや、これまで10回近く沖縄を訪れたなかでもナンバーワンかもしれない

それくらい衝撃的なひとときだった

 

残る3日間でもう一回食べに来ようか、とも思ったが

これまで数百日を旅先で過ごしたきたものの

〈2回目が初回の感動を上回ったケース)は一度もなかった

ここはぐっと我慢し、愉しみは次回の沖縄旅行まで取っておくのだ

 

ではでは、またね。

愉しもう、一度しかない生と死を  『飛族』 村田 喜代子 引用三昧 -37冊目-

いろんなことを感じ、様々なことを想いながら読んだ

きっと読み返すたびに、頭や心に浮かぶ想いは違うのだろう

解説で桐野夏生が触れていたけど、ちょっとだけ死ぬのが怖くなくなる      

 

枯れ木は火力が足りないため、死人が出るとすぐ人々は山に木を伐りに入った。伐り出される生木-まなきの半端でない量に、人焼きは木焼きであると知った。人が死ぬと大勢の木が死ぬ。まるで木の殉死だ。島では穴を掘って土の中に埋-いけ込む。岩礁の島だから深くは掘れない。それで島では犬は飼わないのだ。猫ばかりいる。犬は穴掘りの名人だから埋け込んだ死人を掘り出すという。                                                             [9]

海女は子どもを産んでも、中年になっても、小娘のような乳房で小腰で引き締まった腹部をしていた。魚のような流線型の肢体でないと素早く水に潜れない。                   [11]   息を止めて水深、二十から三十メートルも下りるような海女は、次の息を吸うまでに海草の林を分けてアワビを獲って上がって来るる。豊かな乳房も尻も潜水の敵である。

 こうしてみると人間の老化ほど激しい肉体現象があるだろうか。魚は老いない。鳥も老いない。老いても外見で姿形が変わるものでない。長生きの象でさえ、人間の年寄りの体ほどに崩れてしまうことはない。                                                                             [12]

「しかし電気や電話よりもっと高いインフラがあるぞ。何か知っとるか?」              「うむ。水は雨水の濾過-ろか装置ば入れて、これまたカネはかるが‥‥」                「そんなもんは屁のカッパじゃ」                                                                                      と役場の鴫さんはみんなの顔を眺め渡して、                                                                 「本土から生活物資を運んで来るものは何じゃ? 病院も学校もなくていいが、これだけは止めるわけにゃいかんぞ」                                                                                         あーっ、と鴫さんたちは、そのとき一時に気が付いたような声を上げた。               「定期船か!」                                                                                                                  役場の鴫さんがうなずいた。声を潜めてみんなを見た。                                              「そうや、一つの島に定期船を出すだけで、船の油代が年間二千万じゃ。そのほかに船のメンテナンスとか、そんなものは入っとらん。週一日のばさまの足代じゃ」             ウミ子はそろそろとテントの影から後ずさった。何と途方もないおカネだろう。月に五、六万円の生活費で暮らしている年寄りに想像もできない額である。                        八人の女年寄りが住む祝島はいい。まだいい。養生島は二人である。二千万円の札を束にして積んで見せたら、イオさんは何と言うだろう。ソメ子さんはどんな顔をするだろうか。                                                                                                                              [26]

「とにかく無人島には問題があるのね」                                                                         「でもお年寄りばかりの島も、別の意味で危ないです。無人島と間違えて入って来た密航者たちと、突然、お年寄りが島の中で出くわしたらどうなるか。どっちもびっくりするでしょう。もしか驚いた侵入者に危害を加えられないとも限らない」 [38]       

「いや、あの、出て行かれても、困るんです‥‥」                                                         と前を行く鴫が振り返った。                                                                                         「イオさんたちが出て行くと、ここも無人島になってしまいます。国境に近い島がまたひとつカラッポになるんですよ」                                                                                      人の住む島は海の砦-とりでと同じだと思う。人が去ると砦はカラになり、侵入者がそこを占拠する。                                                                                                               「無人島を一つ分捕ると、国境線の位置が現実にズレ込んでいきます。国境は動かしようがないけど、実際にはいろいろ物騒なことが起こるかもしれません」                        離島の争奪合戦は、椅子取りゲームみたいなものだと鴫は言う。海に散らばった島々は、格好のゲームの椅子である。いつどの椅子が空くか、虎視眈々-こしたんたんと狙う眼がどこかにあるのだろうか。                                                                                  [40]

イオさんたちが水死人に敏感なのは、海で働いてきたからだ。海に潜ると少なくない水死体と遭遇するのである。死人は漁師や海女、船乗り。養生島の近くの海域だけでも、海底を浚-さらえば過ぎた歳月の数だけ死者の数は積み上がる。                                     海域をもっと広げると旅客船の沈没事故もある。太平洋戦争で激戦区となった海底には何千何万の艦・飛行機が沈んでいる。それから世界の海のあちこちで起こる津波の死者。昔から陸地で人間が死んできたように、それよりもっと広い海洋も人間の死に場所となってきたのは当然だ。                                                                                                 生きている人間の数は微々たるものだ。死んだ人間の数は歴史時代以前から始まる時間に比例する。ウミ子は死んだ者を呼び寄せるのは、パンドラの箱を開けるようなものだという気がする。際限がなくなるに違いない。                                                            [50]

「この絵は、あのミサゴですか」                        「そうよ、ミサゴは海ん神様じゃ」                        とソメ子さん。嵐よけの神様らしい。                      「カツオドリの旗もあるでしょう? こないだ揚げてた」               「ああ、カツオドリは豊漁の神様じゃ」                     鳥は何でも神様になるのだろうか。                       「そんならハチクマは?」                           立神岩の当たりで見た大きな鳥柱が目に浮かぶ。                「あの鳥は岬の森でスズメバチを食う。それでハチクマという。陸の鳥じゃ」     「でも渡りをするでしょう? 海の上を飛んで行くじゃないですか」       「何千キロも渡る鳥は陸も飛べば、海も飛ぶんじゃ」               ソメ子さんが歯のない口で笑った。灰色の尖った舌が震えた。女の年寄りは鳥に似ているときがある。                                                               [58]

「だいたい国境なんて線引きが無理なんですよ」                 と思い出したように鴫が言う。                        「中国の浙江-せっこう省辺りから筏-いかだを流したら、十日ぐらいでこっちに着くって父が言ってましたよ」                            ウミ子も昔、ベトナム難民の船が漂着して騒動になったことを思い出した。     島を出た後のことだ。                             波の上に国境の線引きは難しい。                                                 [67]

「ところで鯵坂-あじさかさん。ミサゴって英語で何ていうか御存知ですか」      ミサゴの英語名だと?                            「知らないわ。聞いたことないです」                      ウミ子は首を横に振る。                           「英語ではね、オスプレイっていうんですよ」                  まさか、と鴫の顔を見た。テレビや新聞に出る図体が大きいアメリカの軍用機が目に浮かんだ。ずんぐりむっくりした胴体の両翼にザリガニの爪みたいな、不格好なプロペラを付けて、飛行機のくせにホバリングして垂直離着陸をする。あれは不気味な形だ。「機械が生きものに似てくると気味が悪くなっていくわ。似てこられて本物の鳥のミサゴの方が可哀想」                              「ええ、まったく。ミサゴは格好良い鳥です」                  鴫がしきりにうなずいた。                                                        [67]

海水の養分がなくなったのは近隣の島の森が伐採されたからだ。森の土壌から流れ出る養分が海を肥やし、大量のプランクトンを育てる。もし地球上からすべての陸地がなくなれば、海はただの巨大な水溜まりになるだろう。                  [88]

「陸の上なら国境線を超えて入るとすぐわかりますよね。しかし海に国境線は引かれていませんからね。つまり陸上みたいな検問所というものがないんです。だから密漁とか何か実際の違法行為をやらない限り、日本の領海内を通るだけなら外国船だって航行できるんです」                                 すると海ほど防備の不完全な国境はないのだった。日本はそんな曖昧な水の境界線に国中が取り囲まれている。                           「ただし、日本の領海に密漁船が入ってくれば警告を受けますよ」        「そのときは追い出していいのね」                      「だから向こうも考えているんですよ。彼らはわざと時化-しけの海をめがけて、船団を組んでやってきたりします。海上保安庁の船が渓谷に出て行くと、嵐に遭って避難しにきたと言うんです。避難と聞けば日本は逮捕できません」            「そんな手口があるのね」                          「百隻近くの船団で来ることもありますよ。全部で千人くらいの漁民が乗っていたりするときもある」                                そうなるとこちらの島民の方が少なくなる。想像すると恐ろしい眺めである。       [89]

戦時中の皮の軍靴が渚に打ち上げられたり、中から人間の足の骨まで出てくることもある。現役時代、イオさんたち海女はアワビやカキ、サザエなどを採取しながら、よくそうやって古い遭難者の霊も拾い上げた。                                                                    [109]

浜には食べられる海藻のほかにも、貝殻や流木、ハングルや中国文字の入ったプラスティックな容器や瓶、缶なども雑多に流れ着いている。人間が暮らしに使う物はどうしてこんなに汚いのだろう。ゴミになるしかないものばかり。                                      [111]

 

200ページをいくらか超える程度なので、半分以上来てしまった

生と死にまつわる深イイ話は、ここよりも先で待っている

ぜひご自身で手に取り、噛みしめていただきたい

 

ではでは、またね。                                                     

お土産は「手天品」のパイナップルケーキ! 台湾南部うたた旅 2023.11.27-12.2 6日目/斗六⇒台北/松山⇒羽田 凱登商務旅館👣瀟湘館朝餐👣斗六車站🚃台北車站🚇東門👣手天品社區食坊👣永康刀削麺👣東門🚇松山機場/松山空港✈羽田空港

2023年12月2日(土) 凱登商務旅館👣瀟湘館朝餐👣斗六車站🚃台北車站🚇東門👣手天品社區食坊👣永康刀削麺👣東門🚇松山機場/松山空港羽田空港

台北の手天品社區食坊でパイナップルケーキ(クルミ入り他)を箱買い!

 

7時16分斗六発台北行の普通列車に乗るべく、5時半に起床。

6時過ぎにはホテルをチェックアウトし、スーツケースを転がし駅へと向かう。

こんなに早い時間だけど、台湾でご飯に困ることはない。

5時半からやっている瀟湘館朝餐に立ち寄り、朝ご飯を調達する。

夜明けの街角で元気に営業している瀟湘館朝餐、できたて熱々の朝食が待っている。

壁の時計は6時11分24秒だけど、ひっきりなしにお客さんがやってくる。

黄色いメニュー板を見渡し、何にしようかな・・と迷ったけど

どれも美味しそうだったので、眼の前に並ぶ数種類を指さして注文完了。

店先では朝食づくりの真っ最中、手際のよさを動画で見せたかった・・

テイクアウト専門店につき、駅前ロータリー中央の噴水?に座り

店を眺めながら餡餅・オムレツ・豆漿(豆乳)etcを平らげる。

※写真撮っとけばよかった、失敗失敗。

 

その後斗六駅の構内で時間をつぶし、定刻7時16分発の列車に乗った。

あとは4時間40分後の台北駅到着まで、のんびり席に座るだけ。

実は9時30分発の快速に乗れば、1時間以上短い乗車で済み

帰りの飛行機にも充分間に合う(台北駅13時12分)。

でも今回は、ぜひとも立ち寄りたい店があった。

そのために頑張って早起きして、1時間半弱の余裕を作り出した次第。

音楽を聴きながら本を読んだりうとうとしたり。気がつけば、新竹付近?だった。

台北到着1時間ほど前の桃園付近から、一気に車内は混んで満員状態に。

それでも、気になる情景に出会うとデジカメを構えてしまう。

生活感が漂う集合住宅の裏っかわとか。

 

4時間半以上乗り続けたとは思えないほどあっという間に

列車は台北駅の地下ホームに滑り込む。

(途中何度か徐行運転したので実際には5時間ほどかかった)

到着後は、2人そろってトイレへ直行。

気が付けば車内はすし詰め状態、用を足せる環境ではなかったのだ。

 

あとはMRTを乗り継ぎ、東門駅へ。

そこから10分ちょっと歩いたところに、この旅最後の目的地があった。

自然派パイナップルケーキが人気の手天品社區食坊。

店内は狭く一度に2組(だったっけ)しか入れないため、列を作ってしばし待つ。

やってくる客は見事なまでに日本人ばかり。

益田ミリが著書で絶賛していた店だし、無理もないか。

ベーグル、トースト、オムレツなど、様々なメニューが貼りだされているものの

どなたも目当てはパイナップルケーキ一筋だ。

そういう我らも、例外ではない。

益田さん推薦のクルミ入りパイナップルケーキとプレーンの2種類を10個ずつ。

合計20個を、有料の化粧箱に入れてもらった。

こちらが手天品のオシャレな化粧箱・・・あ、ケーキも撮っとけばよかった。

ちなみに率直な感想はーー癖がないナチュラルな甘さでひとことで言うと"優等生"

ジャンク好きのうたたは、もうちょいパンチか欲しかった気がする。

 

ともあれ無事に土産物を手に入れ、ほくほく顔で駅へと戻る。

時計を見るとまだ1時間ほど余裕があったので、急遽途中の店で昼食を摂ることに。

今回は食べてなかったからと、牛肉麺の店・永康刀削麺に入る。

気分がハイになっていたせいか、腹具合も考えず一番ボリューミーな牛肉麺を注文。

なんとか頑張って完食したが、相方は半分近く残してしまった。

お互いいい歳だし、こんなにいっぱい肉は食えないって。

時間を気にしながら食べたこともあり、満腹感しか記憶に残らず。

 

その後MRT東門駅から松山機場駅まで急いで向かったけれど

出発する2時間半以上前に空港へと到着。

ウェブチェックインも座席指定も済ませていたし、急ぐことなかったなあ

なんて毎度同じ会話をやり取りし、あとは所定の手続きを終え登場するばかり。

 

エバー航空BRV313 松山空港1625⇒1015羽田空港

バイバイ、台北松山機場。来年もまた来るよ~

間近に立ち並ぶ家々を眺めつつ、離陸体制に入る。

赤く染まり始めた夕空に向かって、飛び立つ。

何度経験しても、この瞬間は胸が高鳴る。

あっという間に高みに舞い上がり、下界はすっぽり雲に覆われた。

それでもなかなか印象的な日没を目にすることができた。

・・・あと何回、こんな光景を愉しめるのかなぁ。

ふと眼下に目をやると、見渡す限り"雲の絨毯"

3時間足らずで横浜?の明かりが見えてきた。やっぱり台湾は近いなぁ。

ただいま、羽田空港

ゲートに向かう途中で、ポケモンジェットを発見。

このタイプはまだ見てなかった気がするぞ。

さあ次はどこに行こうかなーーーって、もう帰ってきてるんだけど。

 

ではでは、またね。

 

 

B級グルメ散歩in斗六 台湾南部うたた旅 2023.11.27-12.2 5日目/台南⇒斗六③ 太平老街👣雲中街文創聚落👣斗南米糯甲👣呉記肉圓👣凱登商務旅館

2023年12月1日(金)

👣鐵道大飯店👣西羅殿牛肉湯👣孔子廟👣郭家粽👣徳記豆花店👣台南駅🚃斗六駅👣凱登商務旅館👣太平老街👣雲中街文創聚落👣斗南米糯甲👣呉記肉圓👣凱登商務旅館

とぼけた看板の「凹凸珈琲館」、斗六の観光スポット「雲中街文創聚落」の一軒。

 

いつまで行ったり来たりを続けてもきりがないので、太平老街を後にする。

ほかに見るべき場所はないかと地図を開くと、日本統治時代の木造警察宿舎を修復した建物群が近くにあるようなので、訪ねてみた。

いかにも昔の日本家屋といった平屋が並ぶ。合わせて7、8軒あるだろうか。

どれもこじゃれた商店が入っていた。

ガラス戸越しの赤い照明が手招きするが、客の姿はほとんどない。

可愛い暖簾に手招きされ、ちょっくら中へ。

・・若い人向けのファンシーグッズショップが並んでいたので、早々に退去した。

その後も三店舗ほど立ち寄ってみたけど、いずれも若者向け。

おじさんおばさんには縁のないスポットだった。

ビルの壁に描かれたポップな街並み。宜蘭出身の絵本作家、ジミーの作品かも。

冒頭の「凹凸珈琲館」前にいた"招き猫"。用がないから帰っておくれ、と厳しい視線。

目つきは鋭いがインドシナ半島の猫と違って丸顔なので、親しみが沸いてくる。

 

結局、10分足らずで雲中街文創聚落を後にする。

時刻は午後4時、台南の豆花以降なにも食べてなかったので、だいぶ腹が減ってきた。

晩飯には少々早いが、気になっていたお店に向かうことに。

駅のすぐ近く、場通りの先にある南ある軽食屋へ。

1945年創業の老舗・斗南米糯甲(※「糯」の字が見つからず代用)。

目当ては名物「米糯」、もち米を小さなカップに入れて蒸した"プリンもどき"だ。

ほら、プリンそっくり。魚丸湯と一緒に食べるのがセオリー?らしい。

両方合わせて50元≒200円ちょいの"小腹塞ぎ"だ。

2人で分けたから、当然満腹には程遠い。

すぐさま、二軒目を目指した。

狭い市場通りをふさぐようにドンと構える「肉圓」の立て看板。

青い矢印に従って右へ曲がると・・・

二軒目の軽食店、呉記肉圓の店先へ。

空いているテーブルにつき、壁のお品書きを眺める。

10個、12個の"まとめ売り"がある一方、イートイン客向けの2個セットを発見。

迷わずオーダーする。

忙しそうな厨房。店内で食べる人より、テイクアウトする客のほうが多いようだ。

2個セットの肉團(バーワン)と、総合湯(ミックススープ)がテーブルに並ぶ。

「肉圓」とは、肉やタケノコをイモ類などで作るデンプン質の皮で包んで揚げたもの。

ブニプニモチモチした食感の奥から、甘辛のアンがじわっと広がる。

見た目より食べ応えがあり、これだけでそこそこ満腹になってしまった。

時刻はようやく5時半過ぎ、夜市の喧騒もなく夜は始まったばかり。

しかし、この後改めて夕食を口に入れる気にはなれなかった。

腹ごなしになればと、宵闇迫る斗六の街をふらふら歩いてみたものの

お腹がすく気配は一向にない。

結局、途中で見かけたスーパーマーケットでおこわ風のおにぎりを買い求め

ホテルに帰ったあとで、風呂上りのビールと一緒にいただくことに。

・・この日は、最初から最後まで"B級グルメ尽くし"だったなぁ。

ホテル(商人宿)の窓から、夜まだ浅い斗六の街を見降ろす。

 

そうそう、明日はお昼ごろ台北まで戻る予定。

朝7時16分の電車(各駅停車)に乗らなきゃだった。

とっとと風呂に入って寝ることにしよう。

 

ではでは、またね。

台湾で最も美しい!斗六の太平老街 台湾南部うたた旅 2023.11.27-12.2 5日目/台南⇒斗六② 鐵道大飯店👣台南駅🚃斗六駅👣凱登商務旅館👣太平老街

2023年12月1日(金)👣鐵道大飯店👣西羅殿牛肉湯👣孔子廟👣郭家粽👣徳記豆花店👣台南駅🚃斗六駅👣凱登商務旅館👣太平老街

斗六の太平老街、台湾最長にして(たぶん)最も美しい老街だ。

 

どたんばになってトイレを探してバタバタしたけど

なんとか当初の予定通り台南駅12時49分発の普通列車に乗車。

14字41分、嘉義と台中の中間にある斗六駅に到着する。

斗六駅の改札口。わざわざこの小都市に立ち寄った理由は、ただひとつ!

なだらかな曲線を描く斗六の駅舎。予約したホイルまでは歩いて数分だ。

雑居ビルのワンフロア(たしか4階)がこの日の宿・凱登商務旅館。

名前の通りビジネスマン向けの安ホテルだが、それでも1泊7000円強。

台南で利用した鉄道大飯店のちょうど2泊分になる。

需要と供給の関係なのか、台湾の宿泊施設は地方に行くほど高くつくようだ。

 

3~40年前の中国旅行を思い出させる廊下のカウンターでチェックインを済ませ、

タバコの臭いが残る古びたツインルームに荷物を置いた。

さあ、暗くなる前に見に行こう! どこへ? もちろん太平老街だ!!

 

ホテルの入ったビルを出て、ほんの2回ばかり角を曲がると

その先に、斗六でいちばん有名な観光地・太平老街が続いていた。

一見ありふれた地方都市のメインストリートだが、2階の屋根にご注目。

「日本統治時代に建てられたバロック様式の2階建て建築が約600メートルも続く

台湾最長の老街〔地球の歩き方よ〕」なのだ。

橋の欄干みたいな突起物が、屋根の上にニョキニョキ並ぶ。

通りを挟んだ反対側には、重厚なレンガ壁の家々が並ぶ。

しかし注目すべきは屋根の形状ではなく、正面に施された多彩な細工物。

「女兒牆」と呼ばれる建物正面上部がそれぞれ凝ったデザインで飾られており。眺めながら歩いても楽しいーーと「地球の歩き方」にあったが、楽しいなんてもんじゃない。

たとえばこちらの台湾風ベルサイユ様式(と勝手に名付けた)向こう三軒。

鮮やかな色彩を残す精緻な花木は・・梅かダリヤか?

かと思えば1階と2階の狭間には、クジャクとオオカミ?

いっぽうこちらは、キジとワンコが・・力比べ?

いや、よく見ると獅子のような・・

とにかくそれぞれの造形が面白すぎる。しかも、これが少しも観光地化されてない。

驚くべき造形の美が、見事なまでに日常と共存しているのだ。

他に観光客らしき人の姿は、どこにもない。

相方とふたり、夢中になってデジカメのシャッターを押し続ける。

こちらの3軒は、三角屋根の頂点で猛禽が翼を広げていた。

将棋の駒型に縁どられた足元には、なにやら中国風の意匠が並ぶ。

図像学的には明確な意味があるのだろうが素人には理解不能ーーただ美しい。

 

 

普通の商店が軒を連ねるなかに、創立百周年間近の老舗菓子屋があった。

「四代目麥芽酥」、きなこたっぷりのピーナツ菓子で有名だ。

 

店先で笑顔を振りまく若い女性店員(もしや四代目の奥さん?)から

さっそく名物だという麥芽酥をひと箱買い求める。

すると果物をそのまま漬け込んだ棒付きキャンデーを2本、おまけしてくれた。

店の写真を撮り忘れてたので、可愛いパッケージだけ紹介する。

口の中でほろほろ崩れるピーナッツときなこの風味がたまらない。次も買おうっと。

銘菓の入った袋を片手に提げ、それでも"老街ウォッチング"は止まらない。

単色のデザインにも目を引くものが多数。これは桃?それとも蕪かな?

どう見てもタコとしか思えないユニークな意匠も。いったい何の象徴なのか・・

こちらの梅は日本、というより中国風か。

戦前だったら胸を張って掲げられた旭日旗デザイン。さすがは百年前の建物だ。

台湾に「老街」は数多くあるが、ここまで観光地化されていない場所は珍しい。

この"不思議な日常感"が満喫できるのは、今しばらくの間だけかも。

少なくとも今回の台湾旅行で、どこよりも"来て良かった!"と感激したスポットだ。

 

ではでは、またね。

 

 

タイトルは地味だが、中身はメガトン(古っ)級! 『名前探しの放課後』㊤㊦ 辻村 深月 引用三昧 -36冊目-

『ぼくのメジャースプーン』 の後に読むと読後感が跳ね上がる超名作。

予期しつつも真正面から襲いかかる"ちゃぶ台返し"に、心の膝を打ちまくれ。

                        

【上巻】 第三章 オオカミ少年 (七)

「それ、確かイソップ童話なの。イソップの話って、全部何かしら教訓が用意されてる。この話の教訓って、じゃあ何だと思う?」                「『嘘をつくな』ってことなんじゃないの? 嘘ばっかついてたせいで、オオカミ少年は人に信じてもらえなくなって、羊を全部食べられたわけだから」        「そうそう。それが一般的によく言われてること」                よくできました、と椿が笑う。いつかと秀人を交互に見ながら、そして続けた。   「だけど私は、それだけじゃないような気がする」               「というと?」                               「『百回オオカミが出なかったとしても、百一回目はどうかわからない』」     きっぱりとした口調で、椿が言った。声が、夜空の中にすっと吸いこまれていく。  いつかは無言で彼女の目を見た。                        一瞬だけ真顔になっていた彼女が、すぐに元通り、柔らかな笑みを浮かべる。    「オオカミに羊を全部食べられるっていうのは、言葉で一言にしてしまえるほど軽い被害じゃないと思うんだよね。少年一人に対する戒-いましめにしては重すぎる。昔の人にとってみたら、オオカミは強大な脅威だよ。今、私たちが想像しているよりも、きっとずっと。だから、これは」                          椿が言う。                                 「オオカミ少年に対してじゃなくて、大人たちへの教訓。どれだけ嘘っぽく聞こえても、脅威に対しては常に備えている必要があるのに、そうしなかった人たちへの、これは警告の話なんじゃないのかな」                                                                                [201]

 

第四章 「エーミールと探偵たち」

(二)「よかった。とりあえず波長合いそうだ、あの二人」                                              「そう? ま、女子二人なんだし、普通じゃないの」                                                     いつかの答えに、秀人の表情がやや曇った。唇を尖らせる。                                      「あのさ、いつかくんって本当にいい意味でも悪い意味でも男子だよね。同じ年くらいの女子二人を狭いところに放りこんでおけば勝手にくっついて仲良くなると思ってる」「違うのか?」                                                                                                                「全然違うよ」                                                                                                             [213]

 

(四) 「人間ていうのは、結構強いと思うよ」                                                           と、これはあすなが言った。                                                                                            天木もいつかも言葉を止める。一同が揃ってまた彼女を見た。                                    「そんなに簡単に絶望なんてしない。あるいは、絶望したとしてもそれならそれで、その環境に曲りなりにも適応しようとするんじゃないかな。これが『絶望』の状態って自分が思ってる瞬間が、たとえ現実になったとしても。そんな気しない?」                    苦笑のような表情を浮かべている彼女が、軽い口調を心がけていること。それがわかったが、言葉の内容は決して軽いものではない。いつかたちは黙ったまま聞く。      [238]   「人間は、いい意味でも悪い意味でも命汚い生き物なんだよ。どんな状況でも、考えるのはまず生きること。死ぬことを考える余裕なんて二の次だよ。少なくとも私はそう」                                               

第五章 「星の王子さま」 

(一) 「しっかし、心が荒-すさむなぁ。人間って、なんで自分が嫌いな人のことを話す時ってあんなに生き生きするんだろ」                                                                     [259]

蔓延する悪意は、人を引きこむ。そしてそれに抗-あらがうことは困難で、逆に呑まれてしまうことはとても楽だ。けれど珍しいことに、秀人の場合は悪意の方で彼を引きこむことを躊躇っている。そんな空気を話から感じる。                                               [264]

「だってさぁ、実際に金を取られてるんだよ」                                                                お金だよ、お金。と秀人がげんなりと繰り返す。                                                         「程度がどれくらいかまだわかんないけど、殴られたりしてんでしょう? やられてることはきっとつらいし痛いのに、そこに勝手に『いじめ』って名前がつくとさ、周りは勝手に理解しちゃうじゃないか。ああ、これはすでに類型化された名前のある事象で、『加害者』がいて『被害者』がいて、『被害者』は痛くて悲しいものであって当然ってことになって、そしてそれは珍しいことではないっていうことで安堵感を持つ」      「よく聞く理論だな。フリーターとかニートとか、最初は異常とされてきた事象が、名前がついた途端に、当人も世間も理解する。そして、問題意識をなくす」              [275]                                                           

(三) 違うクラスの教室というのは、不思議だ。教室っていうのは、同じ学校なら部屋の作りは内装も大きさもほぼ同じなのに、いつの間にかクラス毎の雰囲気が色をつける。明確なよその家の空気。上がりこむことに一瞬、躊躇-ちゅうちょする。         [294]                                                      

(六) 「助け出してから、河野の考えを聞こう。一度明るみに出ると、後ろ暗い問題ってのはどんどん地下に潜る。友春がやってることがより陰湿になる可能性だってある。いじめをオープンにするのはまだ待った方がいい」                                                         一拍間を置き、あすなをじっと見つめる。                   「学校側に話すと、そこからは河野は完全に『被害者』になるが、あいつはプライドが高いんだろ? 『遺書』に『いじめ』って言葉が使えないくらいに」                      [322]

 

(八) 「田舎って車社会だからさ。バカでかい駐車場のあるそういう店が重宝されるんだよね。で、そこがあると賑わうし、企業から入る税金も魅力だからっていろんな自治体が今、誘致の努力してるみたいだけど、その一方でさびれてゆく商店街、さびれゆく駅前。さらに進む車社会、発達しない公共交通機関、特に鉄道。そしてそのうち、にもかかわらずメガモール自体の集客力が落ちてきて、そこが撤退する時には、田舎にはもう何も残ってないってことになる」                                                                                  鉄道、の響きにその場の全員が注意を向けたのがわかった。けれど誰も言葉を差し挟まない。報道特集のキャッチコピーをそらんじるように、河野が気分よさそうに続ける。「日本以上に車社会な本家アメリカがとっくに気付いてやめてるんだ。昔のメガモールが、今じゃ教会とか素行に衣替えしてるんだよ。そういうダメなお手本のことをわかってるにもかかわらず、ただ考えなしに同じことをなぞろうとしてるんだよね、日本は。不二芳も一緒だよ。目先の利益にかまけて、駅前だけあんなふうになってる」      [340]                                        

第六章 「みにくいアヒルの子 (二)

「人生にはイベントが必要なんだって。打倒ナントカっていうようなライバルとか、取り組むべき目標とか。この前の話だと、藤見生は暇で贅沢だから死を思うんでしょ? だったら退屈だけは絶対に避けなきゃ。目の前に夢中になれるものがあれば、少なくともその間は変な考えは起こさないで済む」                                                                  [362]

 

(四)「同じ名前の人が普段出入りする場所に二人以上いると、どっちかは名前を奪われるじゃない。小瀬くんも、そうだったのかもしれない」                                        [403]

明日は、檜-ひのきになろう。そう願う『あすなろ』。                                                      なんて残酷な名前なんだろう、と小五の時、叔母に言われた。                                      あすなろは、どう頑張っても檜になる日なんて絶対にこないのに。まやかしの夢を見せるおめでたい名前だと、そう言われた。ああ、義姉さんの考えそうな名前だ、と。406] 

 

ここまでで、前編。

450ページ近い後編がまるまる一冊控えている。

ーーこの後続く怒涛の急展開を初めて体験できる人は、なんて幸せなのだろう。

 

ではでは、またね。