『烏に単は似合わない』
「これだけは言っておこう。私は、悪意が無ければ、全てが許されるのだと知っている者を、決して許すことは出来ない。許すべきではないと思っている」 [342]
『烏は主を選ばない』
「あの、弟は、やれば出来る男です。ただその、滅多にやろうとしないだけで‥‥」
「やる気のない『やれば出来る男』は、結局ただのぼんくらですよ」
きっぱりと断言したのは、『やれば出来る男』と称された雪哉、本人である。 [35]
「忠誠だの、自己犠牲だの、綺麗な言葉に惑わされるよな」
あんなのは、ただの――
「ただの、美しい言い訳だ」 [344]
『空棺の烏』
「簡単に謝るな、虚勢でも胸を張れ。相手が誰であろうが、他者に付け入る隙を易々-やすやすと見せるんじゃない」 [64]
「権力ってもんは、使いどころを間違えれば自分をも滅ぼしかねない厄介なもんだが、一方で、切り札に成り得る力を持っているのも事実なんだ」
つまり、と雪哉は冷然と微笑する。
「力の使いどころを間違えるなと言っている」 [196]
『黄金の烏』
「その娘を、宮中に入れるのですか!」
「あやしい動きの者を遠ざけてどうする。情報がない今、懐に入れて、逐一監視した方が結果的には良いはずだ。その娘が何を考えているか知らんが、地下街の連中から身柄を保護するだけでも、こちらの手札になるだろう」 [144]
『玉依姫』
「どうしても取り返しのつかないことって、絶対にあるのよ。程度が違うだけで、それは神さまも人間も、変わらないと思う」
失われたものは、二度と戻って来ない。後になって取り戻せるものなんて、実際、この世にはほんど存在しないのだ。 [167]
人ならざる者は、人なくして存在し得ない。
だから、一番大事なのが自覚で、二番目が他者(にんげん)からの認識なのだと、谷村は教師が生徒を教える時のような口調になって繰り返した。
「それは、神もまた同じです。人間がいなければ、神は存在し得ない」 [197]
『弥栄の烏』
「結局のところ統治者なんて、いかにして上手に民を殺すかという仕事だ」
直接手を下せないというだけで、それは金烏も変わらない。それでいて、自分の殺した者を何よりも哀れまなければならないように出来ている、と淡々と奈月彦は言う。
「時々、そういう矛盾が、たまらなく虚しく感じられることはあるよ」 [217]
正当化も大義名分も、結局は後になって作り出される。
そこに、真実なんてものはなかった。 [346]
ではでは、またね。
トレド旧市街/パラドールのテラスにて(2007.11.19)