必ず"2巻セット"で読もう 『烏に単は似合わない』『烏は主を選べない』阿部智里 周回遅れの文庫Rock

本日もまた急増の一途をたどる新型コロナ感染者数のニュースが

久々に首都圏を襲った大雪?報道をしのぐ勢いで

ここぞとばかり「危機」と「恐怖」を煽っているようだ。

しかしどのニュースも予想の範囲内であり、すでに結論も出しているので

これ以上言及する必要はないと断じたい。

よって、通常運行に戻り、周回遅れの文庫Rockだ。

 

文庫発売から七年半ものあいだ、書棚の片隅に並べたままだった

積読シリーズ〉のひとつを、ようやく手に取った。

同傾向の物語に、『十二国記』『獣の奏者』の大傑作シリーズが2本あり

"柳の下の泥鰌狙い"かも・・と舐めてかかって読み始めたのだが

いやはやなんとも、いい意味で予想を裏切る〈ちゃぶ台返し〉を食らってしまった。

しかも著者のプロフールを確認すると、

第一作を発表した時点では、なんと20歳の若さだったという。

天才という言葉を安易に使いたくはないが

ついついそう表現したくなる、見事な"技あり"のストーリーテリングだ。

 

すでに全6巻(+外伝1巻)が完結しており

世間から高い評価を受けている人気シリーズなので

あらすじに触れるのもイマサラだけど、いちおう簡単に。

 

舞台は日本の王朝自体に酷似した、異世界

そこは人間の代わりに「八咫烏(やたがらす)」の一族が支配しており

平安時代の貴族と平民のような、階層社会を形成している。

本シリーズは、「山内」呼ばれる貴族サイドの王朝で繰り広げられる

〈政治権力劇〉といったところか。

※3巻以降は未読だが、少なくとも2巻目までは、ある意味"王朝絵巻"だね。

 

で、1巻目は時期トップ(王様みたいな)の座に就いた若宮の妃選びを巡る

大貴族の勢力争いを、東西南北の主力四家の"妃候補"目線で描いたストーリー。

続く2巻目は、同じ時期に起きた出来事を、若宮の側仕え(見習い)となった

ひとりの若者の視点から綴った、アナザーストーリーとなっている。

 

正直、1巻目の読了時に浮かんだ率直な感想は

「面白いは面白いけど・・なんだかやたら説明不足で展開も唐突だな~」

・・という、オススメレベルには遠く及ばぬものだった。

が、2巻目を読み終えた時点で、ほとんどのモヤモヤはスッキリ解消。

加えて巻末のあとがきで、モヤモヤした理由まで明らかになった。

本書は「女たちがお后選びで火花を散らしていたその時、若宮は何をしていたか」の物語だったのである。つまり、『烏に単は似合わない』と『烏は主を選べない』は同じ時間軸を別の視点から描いた、対になる話なのだ。〈中略〉              阿部智里はインタビューで「まだ清張賞に応募する前の段階では、ふたつの作品を組み合わせて同じ時間軸で、同じ事件を男性と女性の視点から、交互か、あるいは前と後ろでたおやめの章、ますらおの章と分けて書くつもりでした」と語っている。     そもそもが、ひとつの物語だったのである。            〔367-8ページ〕

 

そんなわけだから、もし同じように1巻だけ読んで

なんだかイマイチだなぁ・・。

てな印象を抱いたとしても、そこで投げず、必ず1・2巻セットで読了してほしい。

ある種の〈舞台裏暴露モノ〉を読まされたような

「そーゆーことだったのか!」連発状態に痺れること請け合いなのだ。

・・というか、片翼飛行に近い1巻だけで松本清張賞

それも史上最年少で受賞してしまうとは・・やっぱ、タダモノではないなぁ。

しかも、うたた(俺だ〉が心底から「面白い!!」と感じたのは

1巻目じゃなくて2巻目の方なのだから。

なかでも、語り手となる地方貴族?の次男坊・雪也の言動が、たまらない。

彼と若宮の会話だけで、ご飯が三倍イケてしまう(なんのこっちゃ)。

 

2巻ともに共通する、〈ラストでのどんでん返し〉も痺れるけど

個人的には、登場人物がボソッと語る、やたらリアルな《真理》に胸が熱くなる。

たとえば、2巻『烏は主を選べない』の終盤。

主への忠誠心を巡って応酬する会話の中に、こんな言葉がスッと差し出される。

「忠誠だの、自己犠牲だの、綺麗な言葉に惑わされるなよ」             あんなのは、ただの――                             「ただの、美しい言い訳だ」                  〔344ページ〕

 

いったいいかなる状況で、上記の言葉か発せられるのか。

緊迫のジェットコースター・ストーリーとともに

ぜひともご自身で、味わっていただきたい。

 

"美味しいモノは最後に取っておきたい"性分に負けて

本シリーズも全巻が手元に揃っていながら、2巻目まででいったんストップ。

いつもどおり「サイコロ読書」のターンが巡ってくるまで

ワクワクドキドキの"お預けモード"にストックされることとなった。

・・こんな中途半端なことばっかしてるから

やたら完結シリーズの中断状態ばかりが溜まっていくんだけどね。

(そういえば北方水滸伝も第一シリーズ終了時でポーズがかかっている)

 

さて、見事ストックをクリアし、満たされた気分でフィニッシュできるのか?

数十個ものポーズボタンを押したまま、寿命が尽きるほうが先なのか?

――この調子だと、間違いなく後者だよなぁ。

 

ではでは、またね。