"疑問"なきところに、成長なし 『ウエストがくびれた女は、男心をお見通し』竹内久美子 周回遅れの新書Rock

30年近く前のデビュー作『そんなバカな!』以来

新刊が出るたびにチェックしている

小説以外の分野においては、数少ない著者の一人である。

最近では、これまでに世界中から集めた研究結果に最新情報を加え

「子孫を残しにくいにはずなのに常に一定の割合を保ち続ける」同性愛のパラドックス

に挑んだ『フレディ・マーキュリーの恋』で、斬新な視点を提示してくれた。

 

なぜそんなにも、彼女の著作を贔屓にしているのか?

その理由は、日々の生活を送るうち

目の上に少しずつ積もり続けた"常識"という名の「ウロコ」を

大胆不敵な〈仮説〉の刃で、一気呵成にそぎ落とすことができるからだ。

 

冒頭の「はじめに」で、いきなりこう来る。

何ら差別的な発言をしていない人までもが言葉を切り取られ、差別しているとされ、重要な役職を辞任に追い込まれている森喜朗氏(東京五輪パラリンピック組織委員会元会長〉の「女性は話が長い」発言などはその代表例だ。

そもそもやたら話が長いのは森氏だと指摘されてるほどだが、その長い発言こそが言葉を切り取りやすくしている。

森氏は「女性っていうのは優れているところですが、競争意識が強い。誰か一人が手を挙げると、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね、それでみんな発現されるんです」と言っている。

たぶんこの点が「女性は話が長い」と端折られたのだろう。

しかし続いて「私どもの組織委員会にも女性は七人ぐらいいますが、みんなわきまえておられます。お話もきちんとした的を射たものが集約されて非常に役に立っています。欠員があると、すぐ女性を選ぼうということになるわけです」とある。

一般論としては、女性は話が長いが、私どもの組織委員会にはわきまえた方ばかりで、役立っている。欠員が出ると女性を選ぼうということになる、と女性を褒めているのである。

しかし切り取り報道は独り歩きし、NHKなどは、五輪出場候補選手や元五輪選手に森氏の発言を問題視させるよう誘導するインタビューをして繰りかえし報道した。

さらには駐日の、ドイツ、フィンランドアイルランド、スゥェーデンなど、欧州の大使館員(女性)がSNS上で「男女平等」(Gender Equality)のハッシュタグまでつけて全員、同じポーズをとって拡散した。

日本は男女平等ではない国だとアピールしたいらしい。              (4-5ページ)

私が後から知ったことには、森氏ほど調整能力に優れた人材は他になく、しかも無償でこの困難な仕事を引き受けていたという。八十三歳という高齢のうえ、がんと闘いながら、生涯最後の仕事に打ち込んでいた。そのような人物を、ただの言葉の切り取りから辞任にまで追い込んだ狂気の背景にあるのがPC(ポリティカル・コレクトネス=政治に正しいことを目指す運動※うたた加筆)なのだ。           (6ページ) 

 

この騒動が起きたとき、〈切り取り報道〉を信じて"森降ろし"に賛成した過去を恥じるとともに、昨今の「眞子さん結婚騒動」にも通じる

注目されさえすればどんなに根拠の薄いことを叫んでも許される。

といわんばかりのマスコミの厚顔無恥に、果てしない不安を抱いてしまった。

 

そんなわけで、のっけからボロボロ落ちてゆくウロコを後に、本文に分け入ってゆく。

上の調子で引用したら大長編になりかねないので、サブタイトルを並べたい。

○コロナ禍の不安が出産ラッシュにつながる?

○多くの日本人はとっくに新型コロナに感染していた

○浮気を見破るには重い荷物を運ばせてみよう

○大人の女が怖い男たち――小児性愛の生物学

○結婚するとヤル気が失せ、浮気のときには精子も張り切る

○仲の良い夫婦が顔まで似ている理由

○妻が浮気しないと父親になれない男がいる

○無意識にいくらでもうそをつく女、恐るべき

○夫のマスターベーションは子づくりに効果バツグン

○異常なほどの秋篠宮家バッシングは何のため?

女系天皇によって皇室が「小室王朝」「外国王朝」となる日

○美男美女は健康で長生きするという酷(むご)い現実

○娘がお父さんを「くさくない」と言うのは優しいウソ

○なぜ男は女より背が高いのか――身長と繁殖の相関関係

○紅葉は「免疫力」のアピールであるという仮説

○"冬期うつ"には哺乳類の冬眠と同じ効能がある

○あなたやお子さんが独創性を発揮するための魔法

○ある分野(ジャンル)が好きでたまらないのは、あなたに才能があるから

 

いずれ劣らぬ「眼ウロコ=仮説」の宝庫。

特に気に入ったものだけをピックアップしたが、20本近くになってしまった。

これら見出しの論拠は、世界各地の研究機関で発表された生物学の論文だ。

著者は、それを現実世界の様々な問題とリンクさせることで斬新な視点を獲得。

ええっ!? と目を惹く結論を導き出している。

       

なかでも今回、なるほど、そういうことだったのか!

と、"心の膝"を何度も打ったのは

いま眞子さんがらみで話題沸騰の皇室後継者問題。

これまでは、別に女性天皇だっていいんじゃないの?

過去に女性の天皇だっていたんだから。

・・などと軽く考えていたけど、トンデモナイ大間違い。

「男系でしか子孫に伝わらない遺伝子」があって

だからこそ日本の皇室は〈万世一系〉と胸を張ることができたのだ。

と、初めて心から納得させられたのだ。

 

ちなみに巷では、彼女の著作を指して

信用に値しない「トンデモ仮説」ばかり並べる大ウソつき!

など、詐欺師まがいの批判を浴びせる声も少なくない。

だがそれは、文字通り〈トンデモなく〉マト外れな誹謗中傷にすぎない。

 

そもそもこの世の中に、100%確実な情報が、どれくらいあるというのか?

 

例えば、アインシュタイン相対性理論

宇宙のありかたを理解するために、欠かす事のできない理論だが。

その名の通りいまだ「理論=仮説」にすぎず

科学的に証明された事実(真理)ではない。

彼の発表した理論以上に世界の現象を的確に説明できるものがない。

だから、現時点では、とりあえず「これが正しい」ことにしているだけなのだ。

 

他にも、「宇宙はいつどのように始まったのか」「宇宙の果ての先には何があるのか」

「生命はなぜ発生したのか」「死後の世界はあるのか」「宇宙人は存在するのか」

などなど、我々が日常生活の中で自覚している㎜からせいぜい数千キロの範囲を超える

世界に関する知見は、その大部分が「その可能性はある」という仮説の中から

もっとも現実にフィットしたものを、《一時的な正解》に定めただけにすぎないのだ。

 

そんないーかげんな基準を並べているだけなのに

揺るぎない大地で暮らすのように、我々は日々を過ごしている。

だから、新しい証拠や遺跡が発見されるたびに

教科書に明記されていた歴史的事実は、一瞬で書き換えられてしまう。

おなじように、どこかの自称専門家が

「ガンの予防・治療効果(の可能性)あり!」と主張したプロポリスに関しても

「可能性はない」と科学的に証明されるまでは

「ガンの特効薬」として、大手を振って販売されていた。

ブルーベリーも、 「視力を改善させる効果なし」と立証されるまでは

"目がよく見るようになった!"体験談とセットで、宣伝されまくっていた。

(今なお目に効くという印象操作と共に販売活動は続いている)

 

「可能性が存在する」限り、誰にもその「仮説」を否定することはできない。

だから、どれほど根拠の薄い"思い付き"に過ぎなくとも

科学的に「NO」が宣告されるまでは、「理論」として容認されている。

この世の中で、(現時点の)「正解=常識」とされるものごとは

無数に存在するこの手の「理論」の中で

"最も多くの人が納得できる仮説のひとつ"に過ぎないのだ。

 

いささか乱暴ではあるが、これが現実世界の《実情》なのである。

 

従って――話は元に戻るが

「仮説」は「可能性」の提示であり、単なるホラ話ではない。

それどころか、「可能性」が存在する限り

いかなる「仮説」もまた、〈真実〉の座に登り詰める権利を有している。

憂うべくは、少しでも自身の「常識」を超えたものに出会うと

脊髄反射のように"トンデモ話"と決めつけ

自分の半径数メートルの外に視野を広げようとしない

日常と慣習の内側が世界の全てだと思いこみ、あらゆる変化を拒む意識なのだ。

 

う~ん、今回はお説教臭プンプンになっちまった。

30過ぎたふたりの娘にも、「お父さん、くさい!」と言われそう。

 

ではでは、またね。