実は"中高年向き"! 『東京タラレバ娘 全9巻+リターンズ』『同2 全6巻』東村アキコ 周回遅れのマンガRock

「結婚できないアラサー女」のリアルな生態を赤裸々に描き出し

似たような状況に悩む女性読者たちの圧倒的な支持を得た、大人気シリーズ。

テレビドラマでも注目されたから、題名くらいは知っていることだろう。

 

1、2シリーズともに、主人公は

容姿・性格ともに決して低レベルではないが(うわ、もろセクハラ発言だ)

なんやかんやと"えり好み"しているうちに、30代の大台に到達。

ことあるごとに女子会を開いては

「今よりキレイになっタラ」「それさえキッチリやってレバ」などと

何の根拠もない〈タラレバ話〉で慰め合ったり。〔第1シリーズ〕

いつの間にか恋愛から遠ざかり、夢も目標も持てぬまま

スマホとコンビニスイーツに時間を費やす、実家暮らしフリーター〔第2シリーズ〕。

ほぼひと回り(10~12年)差がある、2つの世代を対象に

リアルかつ切実ながらも、メチャクチャ愉快で馬鹿馬鹿しい〈婚活物語〉である。

 

いったいどこが、そんなに面白いのか。

まず、絵もストーリーも勢いがあって(ありすぎて)スピーディー。

とりわけ登場人物たちのトークが、"絶叫コースター"なみにスリリングだ。

ぐさっと心に突き刺さる〈名ゼリフ〉が放たれたかと思えば

次の瞬間、全く違うシチュエーションのミニドラマが始まったり。

そのあたりは、初期『ひまわりっ!』以来脈々と続く〈東村アキコ節〉なので

いまさら大げさに騒ぐことでもないだろう。

 

本シリーズが何よりも凄いのは

30代以降の結婚願望を持つ男女の本音を

文字どおり〈身も蓋もなく〉徹底的にバラしまくることだ。

何より、本シリーズの続編が出版されるたびに膨れ上がっていく

読者(主に女性)たちの反応がパンパではない。

これも東山作品に共通するのだが

各巻の「あとがきマンガ」で、リアルタイムのドキュメンタリーを描いている。

そこに登場する読者(仕事仲間を含む)の食いつき方が

ときには本編よりも面白く、興味深かったりする。

 

んで余りにも反響が大きく、収拾がつかなくなったのだろう。

3巻目以降の末尾には、読者の切実な結婚相談に答える

『タラレBar』なる番外編まで始まってしまう。

その余りに赤裸々でブッチャケすぎる相談内容と、痛快すぎる回答が

――アラカンオヤジが言うのも変だが――メッチャクチャ、勉強になるのだ。

 

しかも、同時に、頭の中の時間は数十年前の「あの日」へと遡り

記憶の中でプレイパックされる"彼女の言動"とオーバーラップして・・

そっか。あのときアイツは、こんなふうに思ってたのか!

なぁんだ、別に嫌われたわけじゃなかったんだ。なに勝手に諦めてんだよ~!?

(以上、あくまで"一般論"として例示してみた)

というふうに、男女関係を巡る様々な〈過去の体験〉を

"フィルター"なしのそのものズバリで、見つめ直すことができちゃったのだ。

 

いやはや、ギャグ満載のアラサー女性向け漫画(これも差別?)で

まさか、自分自身の過去と向き合わされるとは。

ここまで《人生(特に男女関係)の真理》が濃厚に詰め込まれた作品なんて

世界文学全集を総ざらいしても、簡単には見つからないはずだ。

 

だからさ、「恋愛? もうオレ(アタシ)には関係ないよ」などと。

薄~い反応しか示さない、中高年以降の方々にこそ

本シリーズを読んでいただきい。

若き日に味わった、あのドキドキの瞬間が蘇るだけでなく

"そのとき"は気づけなかった(理解できなかった)彼や彼女の本心が

ゆで卵のカラを剥くように、スルッ・・と見えてくる(こともある)のだから

――まったくもう、色々な意味で《恐るべきマンガ》だぜ。

 

ではでは、またね。