清く正しく猛々しい"剣道娘"にゾッコンだ! 『武士道シックスティーン』『セブンティーン』『エイティーン』『ジェネレーション』誉田哲也 周回遅れの文庫Rock

登場人物たちといっしょに泣き笑いしていたら

気づいた時には朝になっていた

・・・という、文句なしのエンターテインメント小説だ。

ストーリーの軸となるヒロインは、二人いる。

 

新免(宮本)武蔵をこよなく敬愛し

考え方どころか話し方まで古風な、バリバリの剣道少女・磯山香織。

剣道の先生を務める父親のもと、三歳から竹刀を握り

中学時代には全国二位にもなった、若き実力者だ。

もうひとりが、子供の頃から習っていた日本舞踊と似ているから

という単純なきっかけで中学校の剣道部に入部。

楽しい&好きを理由に、なんとなく続けていた甲本早苗。

 

物語は、全国一位を逃した悔しさを引きずったまま

地元の小さな大会に出場した、剣道=人生&青春の香織が

あろうことか、天然ボケでマイペースな早苗に敗れてしまうところから幕を開ける。

 

"剣道命"の香織は、どうして自分が負けたのか

また甲本早苗とは何者なのかを知りたくてたまらず

彼女が進学する(付属中学だった)の高校を自分も受験。

晴れて同じ高校の剣道部仲間になるのだった・・

これが男女の間柄なら、ストーカー行為と非難されかねない"御無体ぶり"である。

だが、朝から晩まで剣道漬けで

「あたしの前に立つ者は斬る。それが親だろうと、兄弟だろうとな」と言い放つ香織に

とっては、文字通り人生を賭けた決断なのだった。

 

念願かなって同じ剣道部に早苗を見つけ(理由があっててこずるが)

事あるごとにライバル視して挑みかかる香織に対し

目の敵にされた早苗のほうは、のんびり"楽しい剣道ライフ"を送る、普通の女の子。

まるで「水と油」のような、そのくせ妙なところでかっちりかみ合う

このふたりの関係が、めったやたらと面白い。

物語の構成も20ページ前後の短い章立てになっており

共通するエピソードが、香織と早苗の視点でそれぞれ語られることによって

ますます二人の考え方や価値観の違いが際立ってくるのだ。

 

そして、当初はズレまくっていた二人の歩調が徐々にシンクロしていく後半部分から、

一年前と同じ、地方の小さな大会の決勝戦で相まみえる香織と早苗。

さらに、どんでん返しとも言える"別れ"のエピソードまで。

読者(俺だ)は、作者の手のひらの上で転がされ続け

気づいた時には続編『武士道セブンティーン』を手に取り

香織の視点で綴る「第一章 新時代」の文字に心の中で読み上げていた。

我が心の師、新免武蔵は、自らの人生観を説いた『独行道』の中にこう記している。 いづれの道にも、わかれをかなしまず。 10p

そうそう、これぞ《武士道シリーズ》だ!

・・・って、朝の6時過ぎだってのに、なに読み始めてるのやら。

 

そんなこんなで、シリーズ全四冊。

今どき流行りの疫病とか戦争とかヒトゴロシとか

目の前に現実を突きつけられてはゲッソリするような"暗黒面"に毒されることもなく

青春!剣道!友情!剣道!でまっしぐらに突き進む、爽快無比の物語。

読み終わった瞬間・・え? もうおしまい??

という"現実"を突きつけられ、がっくりするのだけは仕方ないけど

それ以外は、どこを切っても面白さの金太郎飴!なのだった。

 

あ、もちろん、心をぐいぐい鷲摑む名文句も綺羅星の如く埋まっているぞ。

個人的に一番気に入ったのは、早苗のお父さんの言葉。

早苗‥‥好きなものにめぐり合えない人生の方が、もっと悲しいし、つらいよ。   だから、お前は好きなものに出会えたことを、もっと喜ばなくちゃ。何を好きになる、夢中になる、そういう気持ちが自分の中にあることを、もっと幸せに思わなくちゃ。 それさえしっかり感じられたら‥‥もう、勝負なんて、怖くなるなるはずだよ」                 (『シックスティーン』326p)

 

ではでは、またね。