705ページ一気読み!! 『クロストーク』コニー・ウィリス 周回遅れの文庫外Rock

ある意味、とても"危険"な作品である。

なにが"危険"なのかというと

ひとたび読み始めたら、中断するのが極めて困難なこと。

とはいえ、いきなりクライマックスに突入!

なんていうあざとい導入テクニックも使わずに、それを実現させている。

 

最初の数ページは、主人公が属するアイルランド系移民の大家族主義と

それに伴う、暑苦しいほど密な親兄弟親戚関係が

主人公が勤める通信会社内の濃厚な情報&噂ネットワークとともに描かれてゆく。

人づきあいが苦手なうたたとしては

「うわー、こんなに四六時中誰かとコネクトしてるなんて、たまらんな~」と

主人公(妙齢の女性)に同情こそすれ、金を積んでも避けたい状況だ。

 

なので、最初の30ページほどは、ストーリーに没頭するどころか

いつまでこの"盗聴器にストーカーされる状態"が続くのか・・ゲッソリしていた。

しかも主人公は、このうえさらに、婚約者とのコミュ力を飛躍的に高める強化処置

「EED」を施術してもらうのだという。

・・いったいどこまで、繋がり合うつもりなんだ~

とことんリンクしないと安心できないのかよ・・などと、呆れるばかりだった。

 

ところが、人と人との絆を安易に唱える呑気な政治家と違って

決して本作は、〈コミュニケーション礼賛〉に染まらない。

早々と、アンチテーゼが提示される。

こんなふうに。

「つながり過ぎが問題なんだよ。とくに、人間関係では。人間関係については、コミュニケーションを減らす必要がある。増やすんじゃなくて」              「ナンセンス」                                「賭けるかい? だったらどうして、『話し合う必要があるね』ではじまる会話がいつも最悪の結果を招くのか? 生物の進化の歴史は、いかにして情報をストップし、伝達されることなを防ぐかの歴史だった――擬態、保護色、イカの隅、パスワード暗号化、企業機密、嘘。とくに嘘だ。もし人間がほんとにコミュニケーションを望んでいるなら、真実を口にすべきなのに、人間はそうしていない」33-4p

 

果たしてコミュニケーション能力の飛躍的な向上は、人類にとって是か非か。

 

ーーこの「命題」を高らかに宣言したうえで、メインストーリーが幕を開ける。

もし人が"心と心で会話できる"ようになったら、世界はどうなるのか?

要するに、〈テレパシスト〉の目覚めと苦悩と闘いの物語である。

そして、その栄えある"被験体"こそ

だだでさえ連日連夜コミュニケーションの嵐に翻弄されていた主人公

アイルランド人女性のブリディ・フラニガンに他ならない。

 

かくして、彼女が「EED処置」を受け

予想もしないテレパシー能力に目覚める79ページ以降。

文字通り、うたたは、本書のページを閉じることができなくなった。

 

いまさらだけど

本作品(新・ハヤカワ・SF・シリーズ版)のページ数を、知ってるかい?

本文だけで705ページだせ。

それも、いわゆる「ポケミス」と同じ1ページは上下二段組みだから

四百字詰め原稿用紙換算で一四二〇枚に相当する、大長編だ。

訳者・大森望も巻末の「あとがき」で、こぼしている。

訳しても訳しても終わらなくて、途中、なにもここまで長く書かなくても‥‥という気がしてきたものの、28章から先、ラスト一六〇ページはまさに怒濤の展開。最後は例によって、周到にはりめぐらしてきた伏線が一気に回収され、思いがけない結末へと向かう。ゲラで校正していても、ついついストーリーを読んでしまい、これはいかんと何度あと戻りしたことか。708p

 

実際には、「ラスト一六〇ページ」どころか「序盤七九ページ」で心臓を鷲掴まれ、

まるまる2日がかりで、久方ぶりの一気読みをやらかした。

しかも翌日には知恵熱?が出て、なにも食わずひたすら眠り続ける

・・という、トンデモ後遺症まで体験させてもらった。

本を読んでここまで心身ともに揺さぶられたのは、何年ぶりことだろうか。

個人的には、このところ読書に没頭し切れないことが多く

読書熱の衰えを気にし始めていたので、むしろ嬉しいくらいだった。

 

というわけで(どんなわけだ!?)

ろくにあらすじも紹介しないまま、己の興奮と感動ばかり並べてしまったけど

そんなもの必要ないほど、文句のつけようのない大傑作である。

間違っても「あらすじ」や「要約」のアプリなんかで"読んだ気"にならず

辞書のような分厚い本書を手に取り

二段組み七〇〇ページ超の『超常連愛サスペンス大作』を実体験していただきたい。

ラスト一行まで、問答無用に面白いから。

 

ーーぶっちゃけ、まだ読んでいない読者が、うらやましくて仕方ない。

 

蛇足/個人的に最も"唸らされた"フレーズ

確実に全員に知られるようにするための最上の方法は、だれにもいうなと釘を刺してから他人に話すこと。とりわけ、悪意のある人間にね。???P

 

ではでは、またね。