「公式認定」って、・・ナニサマ? 『シャーロック・ホームズ 絹の家』アンソニー・ホロヴィッツ 周回遅れの文庫Rock

生れて初めて自分の小遣いで買った文庫本が

「シャーロックホームズ・シリーズ」の一冊であることは

いまでも記憶に残っている。

たしか小学4年生の時で、作品名は「事件簿」だった気がする。

(なぜ「事件簿」なのか? 理由は、値段に比べて一番ページ数が多かったから。

 そのくらい活字に飢えており、数百円が大金だったから〉

結果的には、続けて読んだ「アルセーヌ・ルパン」の方が気に入り

本格推理から冒険活劇へ、さらにSF小説へと好みのベクトルが逸れていくわけだが

栄えある〈人生初マイ文庫本〉が、本シリーズだったことは間違いない。

 

そんなわけで、一方的な思い入れと共にページをめくり始めた。

並みいるシャーロキアンを差し置き、全作品をくまなく精読したわけでもない男が

偉そうに批評するのは、いささか心苦しいのだが・・

老年期を迎えた「ワトスン君」が昔(一八九〇年)を振り返り

それまで秘密にしていた事件の記録を記す――という設定でスタートする本書。

当時の雰囲気はもちろん、主人公ホームズの語り口、ストーリー展開にいたるまで

見事にコナン・ドイルが描いた"オリジナル・ホームズ"の世界を蘇らせた

まさに、スーパー・パスティーシュ作品だ。

 

末尾の解説でも

悲劇的な事件、謎の「ハウス・オブ・シルク」の存在、警告、そしてホームズを襲う未曽有の運命。ホームズは果たして、事件を解決できるのか‥‥。      〔413p〕         ハドスン夫人、ベイカー街別動隊、レストレイド警部、マイクロフト・ホームズなど、お馴染みのメンバーが次々に登場し、正典のファンはそれだけでわくわくしてしまう

――と、記されているように

うたた(俺だ〉もまた、五十数年の年月を遡り

何を読んでも面白くて仕方がなかった少年時代に戻った気分で

十九世紀末ロンドンで繰り広げられる、ハラハラドキドキの冒険活劇を楽しんだ。

 

従って、本作自体について不平を並べるつもりは、カケラもない。

カチンときたのは「解説」。五行目以降の、このくだりだ。

それから八十数年の時を経て、コナン・ドイル財団によって「六十一番目のホームズ作品」と公式認定された上で二〇一一年に発表されたのが本書、アンソニーホロヴィッツシャーロック・ホームズ 絹の家」である。             〔412p〕

 

コナン・ドイル財団が「公式認定」?

いったい誰が、どんな権限で、認定したというのか?

たぶん、"その道の専門家 (自他ともに認めるシャーロキアン?)"の皆さんが集まり、票を取って決めたんだろうけど・・・なに、この権威主義

 

日本でも、茶道や華道、歌舞伎に狂言、剣道・柔道・相撲道?などなど。

世に出て半世紀も経てば、必ず「伝統」とか「歴史」を持ち出し

ピラミッド構造を組み立てて、(多くは謝礼金つきで)昇級・昇段を仕掛け始める。

確かに、無一文で組織を運営することは無理だけど

ときには、何の根拠もないのに「国技だ!」と言い張ったり

いつのまにかでっち上げた〈正史〉を、臆面もなく公表してみせる

"なんちゃって伝統"も、決して少なくない。

 

もちろん「コナン・ドイル財団」が

その手の"怪しい組織"などでないことは、言うまでもない。

ホームズだったら、"怪しい方が面白そうだ"と呟くかもしれないが。

ただ、世に数多ある「○〇財団」「✖✖協会」が

〈公認〉〈認可〉〈許諾〉などの"権威"を行使したとたん

全身から"カネの匂い"をプンプン漂わせ始めるのは

もはや〈お約束〉のパターンだからね。

 

卑近な例でいえば、モンドセレクションだって金で買える「賞」だし

かのギネスブックに"載せてもらう"にも、申請料が必要なわけで。

まさに、『金がないのは首がないのと同じ』(西原理恵子)のが世界の常識なのだ。

 

・・えーっと、本来の「文庫Rock」からは、かけ離れてしまったけど

最近おとなしくしてた反動ってことで、許してほしい。

次からは、真面目な感想を書ける――といいな。

 

とにかく、『絹の家』は、面白かった。

だけど、権威ぶった〈認定ごっこ〉は、滑稽でしかない。

オリジナル作品を「正典」と呼称するのも、どうかシャレでありますように。

あ・・ひょっとして、全部"お遊び"だったりする?

もしそうなら、「さすがはユーモアの国だ!」と、見直しちゃうけど。

 

ではでは、またね。