すべての人の遺伝子に刻印された"宿命" 『BLACK LAGOON ①~⑫』広江礼威 周回遅れのマンガRock

"命の値段"が、恐ろしいほど安い物語だ。

当然——こんな野蛮なマンガ、認めるわけにはいかない!

などと、目くじらをビンビン立てて叫ぶ"ヒューマニスト"も少なくないだろう。

 

だが、そもそも我々人類(少なくとも哺乳類)は

数十億のライバルと命懸けでレースに臨み

宝くじの一等賞にも勝る激烈な競争の葉てに

〈受精=この世への誕生〉という栄冠を手にした、完璧な「勝者」だ。

言ってしまえば、我々一人ひとりがいま存在しているのは

数十億の同胞を"殺した"結果に、他ならないのである。

 

従って、どれほど「戦争反対」「人殺しは悪だ」と叫んだところで

人間を構成する"要素"のなかには、〈戦い〉や〈争い〉が否応なく含まれている。

それがエスカレートし、〈殺人or戦争〉に行きつくことも

21世紀のいまなお世界中で止むことのない〈惨事〉を見れば、明らかだろう。

 

――とかなんとか、一方的な自己弁護を並べたところで

無法と凶悪を文字通り"絵に描いた"快作、『BLACK LAGOON』のお出ましだ。

 

時は20世紀末。

舞台は、東南アジア(モデルはタイっぽい)の港町・ロアナプラ。

ロシア、イタリア、中国、中南米のならず者たちがしのぎを削る無法都市だ。

とある日本人商社マンが「不祥事もみ消し」を理由に

勤務していた商社から切り捨てられ(「わが社の為に死んでくれ」ってヤツ)

海賊まがいの運び屋"ブラック・ラグーン号"に身を寄せるところから、物語は始まる。

以後、アフガン戦争の亡霊らしき旧ソ連軍部隊、戦闘ヘリで襲い掛かる米軍崩れ、

誘拐された南米旧貴族を救出すべく乗り込んできた元革命戦士のメイド?などなど

次から次へと、強烈な個性をひっ提げた〈トラブルメーカー〉が登場。

当然、事態はロアナプラ一都市に収まるはずもなく、東南アジア全域から日本へ

あれよあれよという間に、拡大していく。

 

んで、彼らが何よりも頼りにしているのが「武器」。

手っ取り早く言えば、銃砲の類だ。

だから、ほんのちょっとしたことで引き金が絞られ、死傷者が量産される。

なかでも、「ブラック・ラグーン(四人グルーブ)」のメンバー

紅一点の中国系アメリカ人「レヴィ」の引き金が、軽い軽い。

銃規制に猛反対するアメリカンマッチョマンなど比較にならないほど

なにかというと、すぐドンパチやらかすのだから

「全員無傷で一件落着」なんて結末なんか、一度もない・・はずだ。

 

もろちん、ドンパチだけが本作の見せどころではない。

"裏ストーリー"として、無法者に身を投じた元商社マン(ロック)の葛藤

――俺は何のために生きているのか――なども描かれているが

たぶん、彼がどんな"男"になっていくのか? レヴィとの関係は?

といった「成長」や「人間関係」より、読者が圧倒的に心惹かれるのは

現実にはほぼ有り得ない無茶苦茶な戦闘=殺し合いの、地獄(天国?)絵図だろう。

おまけに、命値段が"超デフレ"なものだから

ドンパチの真っ最中にも、畳みかけるようにギャグが炸裂する。

真面目と不真面目ががっぷり四つでぶつかり合う、このキワッキワのやり取りが

とてつもなく面白い。

 

そしてこうした、マンガならではの「殺し合いギャグ」に

笑いのツボを思っきり突っつかれるたび、うたた(俺だ)は思い知らされるのだ。

やっぱ、俺たち(人間のこと)って

命をオモチャにして遊ぶのが大好きな生き物だ――と。

そうとでも思わなきゃ、ここまで「人殺しを扱った物語」が人気を集めるはずがない。

戦争ものもスパイものも警察ネタもSFも日常をテーマにした作品でさえ

「殺人」のオンパレードじゃないか。

だから、今度も、こう結論付けたくなってしまう。

誰もが心の奥では、"一度でいいからヤッてみたい"と願ってるんじゃないか、って

 

むろん、"それ"を実行に移す人は、ごくごくわずかにすぎない。

けれども、そうした衝動が存在することを認めぬまま生きるのは不自然だし

かえって「差別」や「いじめ」を助長すると思うんだよね。

無理矢理抑え込んだ〈ひずみ〉は、絶対どこかで吹き出すもんだよ。

 

そんなわけで、ある種の"ガス抜き"としても

絶賛オススメ中なのが本作『BLACK LAGOON』なのだ。

2003年に第1巻が出て以来、もうすぐ20年を迎える

マンガとしては恐ろしいほどの遅筆?作だけど

ようやくこの夏、3年ぶりに最新12巻が発売された。

10巻で幕を閉じた「ロベルタ・リベンジ回」の後

このままテンション下がったまま終わっちゃうのかな・・

という心配も、今回の『五本指』登場で杞憂に終わりそうだし。

(実際、作者は"うつ病"で苦しんでいたらしい)

まだまだ、「若さゆえの産物」を振り回し、ガンガン暴れ回ってほしい。

こちとらも命の続く限り、応援するぞ!

 

またもや、マンガの感想じゃなくて

「暴力(衝動)肯定論」みたくなっちまった。

でも、最近のニュースとか見るたびに、どんどん確信が強まっていくんだよね。

 

ではでは、またね。