天才アーティストが抱える"不安"と"恐怖" 『ピアニストが見たピアニスト』青柳いづみこ 周回遅れの文庫Rock

音楽は大好き!・・というか

「読書」に次ぐ趣味(生活習慣)だと断言できる。

クラシック、ロック、Jポップ(古いな)、ニューミュージック(もっと古いぞ)

フォーク(さらにさらに古い)、ブルース、ジャズ、映画音楽、エスニックサウンド

アニメソングなどなど、好みのまま無節操に詰め込んだMP3プレーヤーを確保。

(256ギガのマイクロSDカードを組み込んだBluetooth仕様)

ひとりで外出(徒歩)するときは常に携帯し

ほとんどの場合、全16000曲余りを「シャッフルモード」にセット。

あいみょん→バッハ/カンタータカール・リヒター)→Ry CooderClaris井上陽水→BeBe & CeCe→ショパン/マズルカルイサダ)・・みたいな

"開けてぴっくり玉手箱"状態の〈ごった煮リスニング〉を満喫している。

 

画期的な携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」に出会って以来、40年余り。

まさか、まさか、名刺サイズのプレーヤーに万を超える曲数がまるっと記録され

しかもこんなに素晴らしい音質で、自由自在に聴ける時代が来るとは!!

やっぱ長生きはするもんだなぁ・・。

 

――なーんて、個人的な回想に浸ってしまったのは

本書を手に取ったうたたの、音楽に対する好み。

つまり、読書にも負けない〈雑食ぶり〉を伝えたかったからだ。

 

確かに、クラシックは歌謡曲やフォークと並ぶ"ソウルミュージック"のひとつ。

小学四年にして最初に買ったLPレコードが

「ヴィヴァルディの四季/イ・ムジチ(Vnアーヨ)」という見事なベタぶりだった。

その後も、新日フィルやN響の定期会員として文化会館やホールに通いつつも

サザンロック、プログレッシブロックアイドルソングなどなど

無節操に聴きまくっていた。

 

それは現在もまったく変わらない。

なので、クラシック一筋のマニアではなく

己の耳(アンテナ)がピピッと反応するままに

好きな音楽をゲットしてきた"さすらいのリスナー"(なんかカッコいい)の

無責任な〈たわごと〉と、話半分に認識していただきたい。

・・って、いつものことか。

 

なんやかんや書いていたら、やたら前置きが長くなってしまったので

あとは手短にいこう。(これまた本末転倒だ)

本書で取り上げた6人のピアニストのうち

バルビゼを除けば、各時代を代表する世界的な巨匠ばかり。

そんな〈スーパースター〉たちの知られざる素顔が

同業者(ピアニスト)ならではの"内側の視点"で描かれているのが、たまらない。

 

ミケランジェロにしろ、アルゲリッチにしろ、ハイドシェックにしろ

それぞれ大好きなピアニストの一人だと認識し

何枚ものCD(MP3 に記録)を愛聴していたにも関わらず

「えっ・・そんな人だったなんて!?」とタマゲてしまう新発見の連続。

とりわけ、マルタ・アルゲリッチの"ガンとの闘い"(これは単なる勉強不足)と

"ステージに立つことへの強い恐怖"は、彼女のイメージを一変させた。

 

そして、"境界なきリスナー"(おっ、なんか「国境なき医師団」っぽい)

を自称するうたたが、いっとうビビビと痺れたのは

アルゲリッチ尾崎豊を比較してみせた、切れ味鋭い論評のくだりだ。

1965年、ショバンコンクールで衝撃の世界デビューを飾ったにもかかわらず

徐々にソロリサイタルを嫌うようになり

80年代半ば以降、やめてしまったアルゲリッチの心象に

二十歳前の代々木オリンピックプールでの「伝説のライブ」の一か月半後

無期限の活動停止を宣言し尾崎のそれを重ね合わせ

〈最高を追求する苦しさ〉を、見事にあぶり出してみせたのだ。

空前絶後のノリは、それが空前絶後であればあるほど再現はむずかしい。今度憑依できなかったらどうしようという不安、さらなる空前絶後を期待されることへの疲労感。そんなプレッシャーに、アルゲリッチもとらわれてしまったのではないか。  〔115P〕

 

観客(大衆)は、残酷だ。

たとえいっとき、〈人生で最高の感動〉に酔いしれたとしても

それが醒めた次の瞬間には、もっと もっと! もっと!!

・・と、さらなる"高み"を請い求め始める。

前と同じレベルである〈最高の感動〉では、満足できなくなっているのだ。

おまけに、「もっと!への渇望」は

いっそう激しさを増して、演奏家(魅せる側)の心にのしかかる。

だからこそ、演奏を〈ルーティンワーク=単なるお仕事〉と割り切れず

「もっと上!」を目指し続ける真のアーティストにとって

常にステージは不安と恐怖の結節点、いわば〈断頭台〉にも等しいのである。

 

彼ら彼女ら〈天才〉たちの、文字通り"傷だらけの内面"をに触れるたび

ああ、自分はそんなシンドさを味わわなくてよかった。

――と胸をなでおろす、その反面。

もちろん、比べ物にならないことはわかってるけど

なぜあのとき、もっと自分を追い詰め、限界まで頑張れなかったのだろうか・・

なんて、かつての自分の"日和っぷり"を思い返してしまったり。

まったく・・・後悔先に立たず、とは、よく言ったものだ。

 

ではでは、またね。