ソマリアの「ワイルド7」だ! 『土漠の花』月村了衛 周回遅れの文庫Rock

裏表紙のあらすじ?にも記されていた通り

〈一気読み必至の日本推理作家協会受賞作!〉であることは間違いない。

事実、第三章「血」に入るころから、ページをめくる手が止まらず

久しぶりの〈読書徹夜〉をやらかしてしまったほどだ。

 

とはいえ、.読み終わって最初に抱いた想いは

良質な物語に出逢えた感動・・も確かにあったが

もっと強烈だったのは、――なーんか、この雰囲気って、すごい懐かしい.!

というものだった。

そう。子供(少なくとも青年〉時代のどこかで心を揺さぶられた

〈あの名作〉を、思い出していたのだ。

 

舞台は、西アフリカきっての無法地帯・ソマリア

国際支援のため活動している、自衛隊空挺部隊の精鋭たち。

そのもとに、地元の武装勢力に追われる一人の女性が助けを求めてきたところから

物語は一気呵成に急展開を繰り広げていく。

 

本書を手に取る前から、この程度の設定は、なんとなく頭に入っていた。

単行本が出版されたとき、図書界では結構話題になったからね。

なので、漏れ聞いたキーワード「自衛隊」「ソマリア」「部族闘争」などを

頭のなか組み合わせてみては

"専守防衛しか許されていない自衛隊員が、武器を取らざるを得ない局面に立たされ

〈戦うべきか、戦わざるべきか〉悩み抜く物語なんじゃないかな"

とか、勝手に想像していたのだが・・

 

いやいや、そんな青臭い〈戦争論議〉なんか、かけらもなし。

わずか十数ページの導入部分を、ひとたび踏み越えたら、それから先は

受け身の取れない《投げっぱなしジャーマンスープレックス》を食らったように

.問答無用の戦闘・戦闘・そして逃亡・また戦闘と・・。

「話し合い」「交渉」といった平和的手段などまったく通用しない

"殺されないためには殺すしかない"極限状態が、これでもかと襲い掛かるのだ。

 

もちろん、ギリギリの死闘が繰り返されるなか

集団(戦闘)行動につきものの

〈個人対個人の軋轢〉〈対立と和解〉〈人としての成長〉など

主な登場人物を巡る心理劇も、たっぷり読ませる。

また、最初はソマリアのいち部族長の娘でしかなかった女性(少女)が

戦いの中で少しずつ露わになる〈本心〉からも、目が離せない。

 

とはいえ、本作を貫く「背骨」は、いたってシンブル&ストレートだ。

すなわち――生き延びるための戦い。

銃弾とロケット砲が飛び交う中、ひとり、またひとり、仲間の命が奪われていく。

残った者は、彼等に託された思いを背負いながら

紙一重の差で死神がふるう鎌をかわしては

最後の最後まで希望を捨てず、己の"ありったけ"をふりしぼって闘い続ける。

そんな彼らの姿に、いつしか重ね合わせていた〈昔の作品〉とは

――何を隠そう、少年マンガ.『ワイルド7』。

 

実際のところ作者がどこまで意識していたかは知らないが

少なくとも私は、最初の銃撃戦を生き延びた7名の自衛隊員に

ワイルド7』の投影を、強く感じ取ったのだ。

 

あっ! ・・たったいま初めて、7名だったことに気づいたぞ!!

いや、ホント、マジで背筋がシビれた。

だけど、わざわざ冒頭(37ページ)で作者自身が7名並べているってことは・・

ひょっとしてこの〈仮説〉って、とっく公表されてるかもしれないなぁ。

なにしろ単行本が出たの、5年半も前だし。

・・でも、ま、いいか。

最低限、自分自身は"知らなかったことを知っている"わけだし。

 

てなわけで、文字通り「周回遅れ」の

《土漠の花=ワイルドセブン説》を唱えることにしよう。

(ただしマンガ「ワイルド7」は手許にないので、あくまで印象に留まる。

 ディテールを突き合わたのではなく、読み終わった後の余韻に共通性を感じただけ)

 

とにかく、少年マンガとダブらせちゃうくらいだから

本作のリーダビリティは、抜群。

ところどころご都合主義というか、タイミンクが良すぎる場面が出て来るが

そこはそれ、冒険マンガだと思えば、多少のファンタジーはあって当然だろう。

しかも、痛快冒険活劇のつもりで読み続けていると

最後の最後になって、「現実世界」からの強烈なしっぺ返しが!

単なる《勧善懲悪の西部劇》で終わらせないのが

さすがは「機龍警察シリーズ」で現実に鋭く切り込んだ月村了衛

面目躍如といったところ。

 

往年の話題作であり、さすがに少なからぬ人が読んでいるとは思うが

未読の方は、ぜひ一度手に取ってほしい。

とりわけ「ワイルド7」に胸を熱くした"元少年少女"には

〈必読の書〉と言ってもいいんじゃないかな。

 

ではでは、またね。