軍事用語の"チャフ"を制覇せよ!『86-エイティシックス- Ep.5-死よ、驕るなかれ-』『同Ep.6-明けねばこそ夜は永く-』安里アサト 周回遅れの文庫Rock

生への侮辱か、それとも死への冒涜か。

。。。。ていうか、これって、ほとんど『屍者の帝国』じゃん!!

 

"人として見なされない少年少女戦闘員-エイティシックス-"が

"決して死なないAI軍団・レギオン"との死闘を繰り広げ

次から次へと命をすり潰してゆく、衝撃の幕開け。

文字通り〈必至の単独行軍〉を生き抜き、「連合国」に保護されるも

再び"不死の軍団"に相対する最前線へと身を投じてゆく、エピソード3&4。

 

巻を重ねるごとに、新たな〈ちゃぶ台返し〉を仕掛け

"命の意味"と存在価値を、根源まで問いかけてくる戦闘小説?

『86-エイティシックス-』シリーズ。

 

今回は、同じくレギオンと消耗戦を続ける「ロア=グレキア連合王国」に助力すべく

北の大地へと乗り込む元エイティシックスたちの闘いを描いた、『連合王国編』。

一言でいうと、"出張バトル・ブロック"である。

 

もちろん、ここでもレギオン陣営は〈トンデモ進化〉を重ね続け

予想の斜め上をかっ飛ぶ"ニュータイプ・マシーン"を繰り出してゆく。

しかし

う~~~ん、こうきたかっ!

と、感激してさせてくれたのは、"人類側"である連合王国の中心戦力だった。

エイティシックスらと同様、4~10脚の戦闘ロボットに乗り込んで戦うものの

「シリン」と呼ばれる〈乗員〉は人型制御装置ーー機械の体を持つ少女たち。

しかも行動をつかさどる中央処理系は、データ化された"死者の脳構造"!

まさしく、死者の軍団なのだ。

 

その真相に気づき、「なぜ、そんなことを」と問いかける主人公に

若き開発者は、さらっと答える。

「なぜ? 決まっている。叩いても叩いても湧いて出る〈レギオン〉に対し、人は有限だ。再生産にも限りがある。これ以上死ぬ数を減らせないなら、すでに死んだ者を再利用するしかなかろう。狼狩りには狼犬を。吸血鬼狩りには吸血鬼を」〔p.5 83ページ〕

 

 

確かに、正論だ。

だが、"武器と同じ"と称された「シリン」たちときたら

外見はいうまでもなく、言動のすべてが完璧なまでに"可憐な少女"なのだ。

そんな乙女たちが、自ら笑って身を投げ出し、敵に引き潰されてゆく。

おまけに、どこまで〈人としての記憶〉を保持しているのか

最前線で肩を並べて戦うエイティシックスたちに、こんな言葉を投げかけるのだ。

 

その時レルヒェ(シリンの一人)は、花が咲くように笑った。

「――貴様なんて、生きてるくせに」

小鳥の囀るような声だった。

そのくせどろりと粘つくような、重さと昏をさはらんだ声だった。〔同296ページ〕

 

いったいなぜ、かくも"憎悪と羨望にまみれた死者の声"が発せられたのか。

詳細ないきさつは、ぜひ本書を手に取り、確かめてほしい。

 

とにかく、日々の暮らしの中では

それなりに明確な一線が引かれているはずの『生と死の境界』が

本書(シリーズ)に没入していると、実に頼りないものへと変貌してゆく。

直接、無限の宇宙と対面させられたような、この"寄る辺なさ"は

読者自身の生前や死後に抱く怖れにも通じる、根源的な〈生への不安〉でもある。

 

てなわけで、「くだらん異世界バトル小説だろう」などと食わず嫌いせず

広い世代の活字中毒者たちに、強くお勧めしたい本作なのだが・・

正直なところ・・・スラスラ読めるタイプの小説ではない。

なにせ、戦闘シーンを中心に

随所にマニアックな軍隊用語(造語を含む)が、怒涛の行進を繰り広げるため

そのたび文字を追う目が一時停止を余儀なくされる。

同じ文章を何度も読み返さないと、情景が浮かんでこないことがしばしばなのだ。

おかげで就寝前の「寝床読書」では、何度も〈寝落ち〉を体験させてもらい

個人的に愛と憎しみを込めて、《エイティシックスのチャフ》と呼ぶようになった。

※「チャフ」とは、敵のレーダーかく乱のため空中に散布するアルミ砕片のこと。

 

要するに、言い方を変えれば、

「バトルマニアが書いた、バトルマニアのための小説」ってことなのだろう。

だけど、こんなに面白い作品を〈バトルマニア専用〉と限定するのは

あまりにも、もったいなさすぎる。

ぜひとも、睡眠攻撃を仕掛けて来る"軍事用語のチャフ"を制覇し

本作がもたらす極上の読書体験を満喫していだたきたい。

 

クレッグ・イーガンの諸作同様

無理に脳内映像化せず読み飛ばしたとしても

ストーリーは理解できるし、充分に面白いんだけどね・・・

 

もちろん、血なまぐさい戦闘ばかりじゃなく

もどかしく甘酸っぱいラブ要素も、てんこもりだよ。

 

ではでは、またね。