超優秀スパイ「黄昏」(男)が
人の心を読む能力を持つ6歳の孤児「アーニャ」を娘に
これも超優秀な殺し屋「いばら姫」を妻にしたてて
"偽装ファミリー"を結成。
「アーニャ」を敵国の名門校に合格させ
ターゲットの要人(次男が彼女の同級生)に接近することで
〈彼の不穏な動きを探れ〉なるミッションの完遂を目指すストーリーだ。
このマンガのキモは
上に紹介した3人のメインキャラクターのうち
各自の「正体」を知っているのが
娘役のアーニャしかいない、というところだろう。
(彼女はテレパスなので最初からすべての真相を察知している)
作品自体、こんなモノローグで幕を開けている。
人はみな誰にも見せぬ自分を持っている
友人にも 恋人にも 家族にさえも
張りつけた笑顔や虚勢で 本音を隠し 本性を隠し
そうやって世界は――
かりそめの平穏を取り繕っている。
「スパイ」と「殺し屋」が、.互いの正体を知らぬまま
娘の入学⇒ターゲット(とその次男)への接近を目指して、力を尽くす。
かたや、立場的に一番弱いはずの娘「アーニャ」は
超能力を使って両親(仮)の〈心の声〉をモニターできるため
ある意味、状況を誰よりも正確に判断できる、いわば"神の視点"の持ち主。
・・とはいえ、残念ながら御年6歳。
おまけに、あちこち抜けていて、失敗や暴走を繰り返す"残念な子"なのだった。
その後、大きなペット〈未来予知が出来る犬〉が加わったり
「黄昏」に強い好意を寄せる同僚スパイ「フィオナ」が登場したりと
針の上でダンスを踊るような〈三人家族〉の
ミッション達成に向けたドタバタ喜劇(の要素が多い)は
ますますこんがらがりつつも、どうにかこうにか進んでいくのだ。
で、昨年に続きいて今年もマンガ大賞のノミネートに残っている作品だから
面白いことは、間違いない。
実際、1.2.3巻と「やめられない、とまらない状態」が続く。
けれども、勘を重ねるにつれ、少しずつ気になってきた。
――いくらなんでも、〈万能〉過ぎるだろ。
早い話、主人公たちの《チートぶり》に、ついて行けない瞬間があるのだ。
とりわけ、第6巻の〈闇テニス試合〉とか。
「強い技」に「もっと強い技」で対抗し
相手の「もっともっと強い技」には「もっと×3強い技」を披露する・・
いやいや。本来「少年マンガ」って、そういうもんだろ?
って言われたら、なーんも言い返せないんだけどね。ぐう。
仰る通りだ。
例えばこれが「超人スポーツマンガ」とか「SF怪獣マンガ」とか
けれど、本作の題名は『SPY×FAMILY』でしょ。
少なくとも「スパイ(諜報活動)」と謳っているのなら
《技や力のエスカレーション》を、ミッション解決の切り札にして欲しくない。
なぜなら、2人(3人か)が、有り得ない"裏技"を繰り出せば繰り出すほど
作品の設定が〈現実世界≒スパイ活動〉から乖離していくから。
そして思ってしまうのだ。
――そんだけ万能だったら、偽装家族なんか作らなくたって
楽々ミッションクリアできるじゃん。てね。
なまじ「アーニャ」と「ボンド」の超能力が
物語世界内での〔現実の範囲内〕にきっちり収まっているだけに
どうにも彼らの《超人》ぶりが、妙に悪目立ちしている気がしてならないのだ。
でもまあ、こんな細かいことにネチネチ難癖つける奴なんか、もういないか。
多少〈世界〉がいびつになろうが、底が抜けようが
.面白ければ「勝ち」ってことなのだろう。
それでも、個人的には、願ってしまうのだ。
チートでなく〈スパイ行為〉でミッションクリアする、彼らの姿を見せてくれ!
よく言うじゃん
『シバリ(制限)があるからこそ、面白いものになる』って。
ではでは、またね。