正直、読み始めたときの第一印象は
”ちょっと、out of趣味かも”。
なにせ主人公は、万能のリア充イケメン高校生。
そんな彼が、美術(絵画)の魅力に取りつかれる、というのだ。
それでも、冒頭の言葉がアンカーになって、離れかける心を引きとめた。
俺は ピカソの絵の良さが わからないから
それが一番 スゴイとされる 美術のことは 理解できない
よくわかんない
俺でも 描けそうじゃない? (冒頭より)
高校二年生の春
東京藝大という「頂点」を目指すことに決めた主人公・八虎は
マンガの中で描かれた知識&技術をどん欲に吸収し
自らの心と身体をギリギリまで削りながら
少しずつ、少しずつ、〈美の核心〉へとにじり寄っていく。
もちろん、どれほど努力と研鑽を重ねようと
才能なき者は、決して「頂点」に昇りつめることはできない。
「天才」と呼ばれる者だけが放つ突出した輝きに加え
さまざまな「運」もまた、必要不可欠な要素であることを
この作品はしっかりと、見せてくれる。
そう。このマンガは、よくある〈外側から天才の奇行を描くパターン〉ではなく
〈フツーの人目線〉で、まっすぐ美術にガブリ寄っていく。
つまり、世に溢れる美術関連書物のように
黄金分割とか、シンボルとテーマとか、絵の背後に流れる思想だとか
何度読み返してもイマイチ納得しきれない、もやっとした分析や解説ではなく
とことん〈明快で具体的なアプローチ〉を武器に
《これが美術だ》《これが絵画だ》と語り、見せてくれるのだ。
おかげで、私のようにダビンチの「モナ・リザ」と対面しようと
システィーナ礼拝堂の天井画を見上げようと
ついぞ魂が震えるほどの感動は湧いてこなかった〈美術オンチ〉であっても
主人公・八虎と心を重ね合わせ
一緒に〈アートの階段〉を登っていくことで
――まだ道半ばとはいえ――
半世紀以上、様々な「美術の本」を読み続けたことで得た知識よりも
はるかに《美術がわかったぞ!》という気になれたのである。
それは、このマンガを手に取らなければ
おらそく生涯、知ることのなかった〈別世界〉との出逢いだ。
だから、決して大げさではなく
次のように言いかえることが、できる。
ありがとう・・またひとつ、「いまと違う人生」を見せてもらったよ。
そして、最新8巻。
晴れて藝大1年生となった八虎は、藝祭の華・神輿作りに挑む。
私もまた、名もなき同級生のひとりになって
彼と仲間たちの奮闘を、見守っていくことにしよう。
ではでは、またね。