本気で"全力を尽くした"ことって、ある? 『ブルーピリオド』山口つばさ(1~10巻) 周回遅れのマンガRock

昔から言い伝えられている〈法則〉のひとつに

「東大生の8割以上は、入学した時点で"燃え尽きて"いる。

 在学中も卒業した後も、成長することはない」

・・というものがある。

小学生あるいはそれ以前から「東大入学」を目指して努力を重ねた結果

晴れて悲願を叶えることができた。

しかし、"その先"へと続く明確なプランを持っておらず

生涯、「東大卒」なる肩書だけにすがって生きることとなる。

 

実際のところ、秘かに東大への憧れを抱きながら

記念受験にさえ参加できなかった、"本気を出せばできるんだ族"のやっかみが

相当量入り混じった偏見≒都市伝説に過ぎないのかもしれない。

それでも、個人的な実感ではあるが

〈東大生8割の法則〉は、なかなかに信憑性があると確信している。

 

本書『プルービリオド』の6巻以降。

晴れて東京藝術大学美術学科に現役合格を果たした主人公・矢口八虎もまた

入学早々、同じ〈燃え尽きシンドローム〉に、襲われてしまう。

 

受験絵画は、作品ではない

これ、絵画でやる意味ある?」など。

担当教授の面々から、受験生時代に積み上げた努力を全否定され

ただでさえバンパンに膨れ上がっていた若者の自意識は

いともかんたんに、弾けて消えた。

 

俺さ 合格した時からずーっと

俺なんかがここにいていいのかなって思っていたんだよね

 

とはいえ、そこは、同じ〈ガラスの心〉を持つ若者たちを読者にもつ

大人気絶賛連載漫画。

仲間やライバル、指導者らの"後押し"

1回生の夏、最大のイベント「神輿づくり」

さらに、様々な芸術作品との出逢いを通じて

〈自己否定の塊〉だった主人公は、徐々に"自らの進むべき道"を見出していく。

 

そんな、極めてレベルの高い「成長物語」であると同時に

各学生の思想・美意識・作品に浴びせられる"時に容赦ない評価"など

リアリティに満ちた〈苦悶と葛藤の日々〉が

読者ひとりひとりを、夢想の対象でしかなかった藝大ライフへと誘ってくれる。

 

さらに、ここにきて俄然面白くなってきたのが

ユニークながらも現実感に溢れた「教授・先輩芸術家」たちの言動だ。

実際に藝祭のステージ上でダンスのステップを披露した学長は言うまでもなく

それ以外にも、「これ、絶対実在のモデルがいるだろ!」と指摘したくなる教授陣は

よく言えば"子供の心を持った大人揃い"。

 

なかでも、年齢不詳のカワイイ系アーティスト

"猫屋敷あも"の闘う姿から、目を離すことができない。

本音を隠しつつ、アートと金儲けの狭間をスイスイ泳ぐ彼女のひとことひとことが

いい歳こいたうたたの心に突き刺さり、いつまでも抜けてくれないのだ。

 

そのプライドって 作品よくするより大事?

 

ラッピングは この世で一番可愛い嘘ですから

 

だって私の全部をギブしないと みんな私の作品を見ないもん

 

果たして、この一癖もふた癖もある〈ダイヤのやすり〉が

八虎や世田介ら「原石」を、どんな輝きを放つ宝石へと磨き上げてゆくのか・・

2回生以降の成長(&右往左往ぷり)が、今から楽しみで仕方ない。

「課題提出」にまつわる美術知識の平易な解説とともに

のんびりゆっくりキャンパスライフを歩んでいけることを、願っている。

 

ちなみに、この秋からアニメ化が決定しているとのこと。

楽しみな反面、"変にカッコつけたアート作品"になっちまわないか、心配している。

原作を忠実に映像化してくれるだけで、充分満足。

頼むから、内輪にしか通じない"勘違い演出"だけは勘弁してちょ。

 

ではでは、またね。