ひたむきな"背中"の物語。 『ルックバック』藤本タツキ 周回遅れのマンガRock

挫折と再生の物語?

唯一無二の"友情"の物語?

・・そんなテンプレじみた文言で表せる作品ではない。

 

ともあれ、キーワードは「背中」だ。

 

背中が語る。

背景が語る。

言葉と説明を削ぎ落されたコマのひとつひとつが

熱く、痛く、激しい想いを、なにより雄弁に届けてくれる。

 

マンガが、大好きだ。

「オタク」「キモイ」と言われても、描かずにいられない。

それでも努力は報われず、くじけそうになる。

そんなとき・・

「背中にっ!! 背中の服にサインくださいっ!!」

文字通り、"背中を押される"ことで、否定が肯定へと裏返る。

 

振りだした雨のなか、スキップして走り帰る。

濡れた身体のまま机に向かい、一心不乱に描き始める。

激しく窓を叩く雨が、出口を見つけた主人公の情熱と重なり合う。

 

逢うべき人に出会えることを、人は「しあわせ」と呼ぴますーーby中島みゆき

 

背表紙に記された「あらすじ」は、昔懐かしのポエム仕立て。

自分の才能に

絶対の自信を持つ藤野と、

引きこもりの京本。

田舎町に住む2人の少女を引き合わせ、

結びつけたのは漫画を描くことへの

ひたむきな想いだった。

月日は流れても、

背中を支えてくれたのは

いつだって――。

 

確かに「友情物語」とカテゴライズしてしまうのが

適切な"落としどころ"なのかもしれない。

だが、"時を駆ける四コマ漫画"が、安易なジャンル分けを拒み続ける。

そのくせ、ご都合主義丸出しの歴史改変モノにも日寄らない。

じゃあ、結局、なにを伝えたいのか。

 

※この先ネタバレにつき注意※

おそらく、ラスト近くの"主人公(のつぶやき"が、ソレだ。

だいたい漫画ってさあ‥‥

 私 描くのはまったく好きじゃないんだよね。

 読むだけにしといたほうがいいよね 

 描くもんじゃないよ

もうひとりの主人公(≒作者)の声が、素朴な疑問を投げかける。

じゃあ 藤野ちゃんは なんで描いてるの?

答えは、そのあと6ページに渡って続く

セリフなしの9コマのなかで、語り尽くされる。

 

絵もセリフもぜんぶ頭の中に入ってるし

今さら読み返してもなぁ・・と、思いつつ

ひとたびページを開くと、また、喰い入るように熟読してしまう。

必ずしも好きな絵柄ではないのに

そんな些細な嗜好なんか、いつの間にか吹き飛んでいる。

 

たぶん今後も、椅子をぐるっと回せば手が届く本棚の特等席に

白地の緑の背表紙が収まっていて

時々抜き出しては、〈パラパラのつもりが熟読コース〉を繰り返すだろう。

 

傑作は厚さと無関係だ。

切れ味鋭い、142ページの「座右の書」である。

 

ではでは,またね。