コロナが生んだマンガ大賞 『葬送のフリーレン①-③』山田鐘人/アベツカサ 周回遅れのマンガRock 

今年のマンガ大賞に輝いたというので

屋内に積んであった1巻から3巻(審査対象)までを

とりあえず、読んでみた。

 

以下、「マンガ大賞」の選評や、専門家の方々の論考などは

いっさい目を通していないので

あくまで。個人的(脊髄反射的?)な『感想文』に過ぎないが

"オタクのプロトタイプはこんなふうに考えた"

とでも、受け取ってほしい。

 

まず、なによりも強く感じたのは

・・全編を通して漂ってくる《静けさ》だった。

 

もちろん、「人の死」「追憶」「世代を超えた時の流れ」といった

〈すでに終わったこと・過ぎ去ったこと〉を下敷きにしたストーリーが展開。

それをまた、50年を「わずかな時間」としか認識できない

数千年?の長寿を持つエルフ・フリーレンが主人公(語り部)として

様々な登場人物たちと関わって(再会して)いくのだから

どうしても〈一歩引いたところから世界を眺める〉描き方になるのかもしれない。

 

でもって、中身に関しての、率直な感想に移ろう。

 

確かに「魔王を打ち倒した、"その後"の勇者一行を描く」という発想は秀逸。

くわえて、最も長寿(数千年?)の主人公(ヒロインのエルフ)が

各メンバーの老いと死を体験。

遺され、託された人や想いを担い、新たな旅へと歩み出していく。

ストーリー展開も、従来の〈異世界冒険もの〉とは一線を画する斬新なものだ。

 

セリフもカッコよく、ときどきドキッとさせられる。

たとえば、僧侶ハイターが天国を「あるべきもの」だと思う理由とか。

勇者ヒンメルが、行く先々で自分の銅像を作ってもらう理由とか。

どれも、"人の想い"が伝わってくる、味わい深いことばだ。

 

いっぽう、作画も――完全な素人目線ではあるが――文句のつけようがない。

・・なんて言うそばから、つけちゃうんだけどね。

 

作画、というか、各コマの空気感が「固い」。

このあたりは、「デスノート」や「クレイモア」にも通じる印象なので

ほとんどの人は気にしないのだろう。

 

あと、一点、引っかかってるのが――

剣や魔術が紙一重の差で交錯する激しいアクションシーンであっても

一枚一枚の「絵」から〈動き〉が伝わって来ない、ということ。

失礼を承知で言ってしまえば、ストップモーションの繰り返しで

"紙芝居を見せられている"ような印象なのだ。

 

むろん、こうした〈絵作り〉も、故意に仕掛けたもの。

エルフが感じる長大な時間感覚を表現した〈演出のひとつ〉である。

などと言われてしまえば、返す言葉もないのだが。

 

あと、もういっこ、ついでに言っちゃうと

「小コマ」「捨てゴマ」が、冷たくて、そっけない。

情景(自然の山河・城塞・街並みなど)とか

遠目から人物を小さく描いたもの。

なんだか、人形をポンと置いたみたいで

メインキャラもモブキャラも、おんなじ労力しか使ってない、感じ?

でもまあ・・うーーん

この(ロングショットを多用した〉コマ組みも

"時間表現"のひとつだ、とか理論武装されちゃったりして。

 

最後に、超個人的な好みにも触れると

ページを繰る手が思わず止まり

このシーン、いいなぁ!・・と、しばし見とれてしまう〈名シーン〉が

ほとんどなかった気がする。

どれほど原作が面白かろうと、漫画の主役は、断然「絵」である。

そう頑なに信じるオッサンにとって

上記の〈名シーン〉は、傑作認定への必須条件なのだ。

 

そんなこんなで、ぶっちゃけの総評は。

――面白いことは否定しないけど・・これが大賞?? ってとこかな。

「原作」はともかく、個人的に「作画」は

もっと〈定型〉から飛び出し、チャレンジしてほしいと思った。

 

ただ、〈巡り合わせ〉も働いた気がする。

たとえば、他の候補作は「ジャンプ系」が多かったこともあり

SPY×FAMILY」「怪獣8号」など、全力ストレートで勝負するタイプ揃いだった。

(なにせ、努力・友情・勝利! だもんね)

そんななか、本作の《静けさ》は、明らかに異質な光を放っていた。

似た色合いのものが並ぶと、どうしても対極の方向に手が伸びがちだし。

 

あと、ひねくれた性格ゆえ、ひとこと付け加えさせてもらうと。

"時代が背中を押した"・・んじゃないかな。

世界規模のパンデミックが続くこの時期だからこそ

「世代を超えた長い長い時間感覚で過去・現在・未来を見つめ直し

 改めて〈人が生きる意味〉と向かい合おうとする」

本作が、2021年のマンガ大賞に選ばれた。

――そんな気がして、ならないのだ。

 

あれこれケチを付けてしまったが

さっきも書いたように、面白いことは間違いない。

続きも気になるし、当分は追いかけるよ。

 

ではでは、またね。