何度読んでも幸せになる"宝物" 『ハクメイとミコチ①~⑨』樫木祐人 周回遅れのマンガRock 

ものすごく、読み終えるのに時間がかかる作品である。

なぜなら、ページをめくるたびに本を持つ手が動かなくなり

ひとコマひとコマの絵を、何度もじっくり見入ってしまうからだ。

 

これまで半世紀以上、少なくとも数百作を読んでいるが

似たような体験をした作品には、ほとんどない。

・・いま思い当たるのは、羽海野チカぐらいだろうか。

 

まあ、それぐらい

見事に「ツボ」にハマった、傑作漫画だったりする。

設定とストーリーは、いずれもシンプル。

木の家で暮らすコロボックル?の女の子ふたり

ハクメイとミコチを主人公に据えた、ファンタジー漫画である。

この世界では、親指姫サイズの彼女たち一族が

いわば人類の代わりとなって街を築き、社会を営み、日常生活を送っている。

 

いっぽう、動植物を含めた"それ以外の自然"は

原則、あらゆるものが現実世界と同じサイズで存在している。

しかも、昆虫を含めた動物類は、すべて人(コロボックル)と同程度の知能を持ち

普通にコミュニケーションをとることができる。

だから読者も、親指姫や一寸法師の視点で、森羅万象に向かい合い

自分と同じサイズの虫やカエル、巨大なイタチ・アライグマと一緒くたになって

社会生活を営んでゆくのである。

 

また、連載が始まった当初は、「付喪神」「動く骨」など

ファンタジー作品ならではの不思議エピソードが続いていたが

途中からは、そうした"なんでもあり"的な話題は抑え気味になっていく。

代わって中心を占めるのは

家の改装、建物・石垣の修理、野営、料理、染物&服作り・・などなど

むしろ〈小さな身体でもここまで文化的生活が実現できる)という

コロボックル暮らしのディテールを紹介する機会が増えてゆく。

 

とはいえ、本作の主題は、終始一貫して変わらない。

ハクメイとミコチを中心に

森や町の「住人」たちが繰り広げる喜怒哀楽の"人間模様"だ。

ちょっとそそっかしい吟遊詩人の"歌姫"コンジュ。

骨を使った生命科学に情熱を注ぐ研究者・セン。

ハクメイにとって"大工の師匠"、イタチの鰯谷親方。

街の酒場「小骨」マスター。

鰯谷が所属する大工組合「石貫会」の親方・ナライ。

ひとりひとり、その名を思い浮かべるだけで

ずば抜けた個性を持つキャラクターが、頭の中で動き、話しかけてくる。

ほんとうに、なんてみんな、生き生きと《生活》していることか!

 

この後、いくら続けても、きっと称賛の言葉しか出てこないと思うので

適当なところで、切り上げたほうがよさそうだ。

とにかく、第一巻が刊行された2013年(12年末?)以来

年に一冊のペースで続巻が出るたび、読み返しているが

まったく見飽きることがない。

それどころか、1巻目を読み終えただけで

"たっぷり楽しめた"という充実感が胸の内に膨れ上がり

続きの多さに"こんなにたくさん読める!"なんて感激する始末なのだ。

 

そんなありさまだから、面白い漫画に出会えない日々が続くと

つい書棚に並ぶ本書の背表紙を目で追いかけ

〈年に一回、新刊が出た時に最初から読み直す〉という

己に課したルールを破ってしまいそうなのが、唯一の悩みといえば悩みである。

 

ちなみに、うたたの一番好きなキャラクターは

美容室『翡翠の卵』の主、ジャダさん。

何度読んでも、彼女の一挙一動にニヤっときてしまう。

モヒカン、いいのに‥‥‥

 

あ、旅のカメラマン・ミミも好きだな。

それから、"佳作の針姫"ナイトスネイルに会いたい!

・・・だめだ、こりゃ。

 

ではでは、またね。