『お友だちからお願いします』 三浦 しをん /引用三昧 12冊目

一章 ひととして恥ずかしくないぐらいには

最弱のマナー 昨今では運動会などでも順位をつけない、と聞いたことがあるが、それは負けん気や向上心の芽を摘むような、おおげさに言えば人間の本能と矛盾するシステムである気もする。そこで、いっそのこと「最弱」を競えばいいのではないかと思いついた。

「かけっこ最弱王」「営業成績最弱王」などに輝いたものを、周囲が本気で称-たたえ、祝福する。最弱王としては、かなり悔しい。次こそは「二番目に弱い」ぐらいを目指してやってもいいかな、という気持ちにもなろう。「最強」を目指すほどの実力も精神力もないものにとって、「最弱王の座だけはなんとか回避したい」というのは、さほどプレッシャーがかからず、さりとて自堕落になりすぎることもない、ちょうどいい目標値である。[61]

 

祖母の死 山田風太郎の『人間臨終図巻』(徳間文庫)は、膨大な数の人々の死に際の様子が、亡くなった年齢順に並べてある本だ。これを読むと、ある傾向が見えてくる。比較的若い年齢の場合、とても苦しんで死ぬひとが多いのだが(苦しむだけの体力が残っているためだろう)、九十歳を超えたあたりから、いわゆる「眠るような死」が増える。歳を取るとは、いろんなもの(恐怖や常識やしがらみなど)から自由になっていくことなのかもしれない。だとしたら、加齢は人間の精神にとって大きな救いだし、生命が本来持つ自由さを証す、希望とも言えるだろう。[88]                            

 

二章 そこにはたぶん愛がある 

甘い絆 バレンタインはいまや、各国から選-よりすぐったおいしく美しい高級チョコレートを、女性が買い求め、女性が味わうお祭りとなっているのだ。[108]

私のまわりでは、最近は「女性同士の友情チョコ」のやりとりもやや下火になった気がする。混雑するバレンタインフェア会場に突入する体力が失われた、ということもあろう。しかし一番の原因は、「それなりに値の張るチョコをあれこれ食べてみて、一定の値段を超えるチョコはみんな、『おいしいチョコ』の味がする、と納得がいったから」ではないか。いやもちろん、ショコラティエがさまざまに工夫し、腕を振るっているのだから、「おいしいチョコ」にもさまざまなバリエーションがあるのだろう。でも、そこまで微妙な差違って、素人にはあまりわからない。そのため、「混雑するバレンタインの時期に、必死にチョコを探求しなくてもいいや」となった気配がある。[109]

 

組織づくり Nさんいわく、大所帯の男子グループには必ず一人、主導権を握っている「カリスマ」的存在がいるのだそうだ。たとえば、カリスマが「今日はカレーを食いたいなあ」と言ってはじめて、その日の放課後にグループが取るべき方向性が決定づけられるのだとか。

グループ構成員は、「カレーを食べる」ということには一様に賛同し、「ではどこのカレー屋にするか」を相談する。「あの店がいいんじゃないか」とアイディアを出すもの、「いや、こっちの店のほうがいい」と対案を出すもの、「やっぱりカレーじゃなくてお好み焼きがいい」と根底から混ぜっかえすもの、「まあまあ」と調停するもの、「金あんのかよ」とみんなの予算を心配するもの、などなど、暗黙のうちにグループ内で役割分担ができているそうだ。

つまり、カリスマの傘の下に集い、それぞれの役割を自認し実践する、組織構造になっているのだ。まさに会社! 男性は若いころから、無意識のうちに組織を形成し、組織のなかで自分の居場所を見いだそうとする傾向にあるようだ。 [153]

   

毎回、鋭い観察眼が冴えわたる三浦印のエッセイ集。

ここまでで、全体のほぼ半分あたり。

もっと&しっかり読みたい人は、「元本」を入手しておくれ。

 

ではでは、またね。