2020年2月27日(木) ハバナ市内
旅行先(海外の)に到着したあと、最優先でとりかかるのは
両替・交通機関の予約確認・ネット環境の確保など「生活するためのベース作り」。
これらをクリアしないと、通りを散策したりお店に入ったりといった
いわゆる"フツーの観光"を楽しむ気にはなれない。
そんなわけで、最低限必要な両替&SIMカード手続き(実質未完だが)を終え
ようやっと、〈ハバナ旧市街街並み散歩〉に繰り出すことに。
とはいえ、スタンプラリーのように
名所旧跡や美術館をはじめとした定番観光スポットを見て回ったり
特産物や有名ブランドの店で掘り出し物を探すような
優等生的観光旅行には、さほど興味が湧かない。
どこに行っても一番気になるのは
その国(街)のひとたちが、どんな暮らしをしているのか?
だから必然的に、移動手段は徒歩か公共交通機関(電車やバス〉だし
お店も市場・個人商店・スーパーといった庶民が利用するところがメインになる。
てなわけで、実質的なキューバ観光のスタートとなった2日目午後。
まずは〈街の感触〉を味わおうと、ハバナ最大の観光スポット旧市街の中心部を
ふらふら歩きまわってみた。(大げさな前フリにしては地味な行動・・)
日本で言えば初夏のような強い陽射しの下、パステルカラーに塗られた街路を
観光客と地元の人(たぶん)が、半々の割合で行き交っている。
さすがに犬の糞は落ちていないものの、建物自体はどれも古びており
われらの宿(カーサ)付近と大きな違いはない。ただ、塗装が綺麗なだけ。
犬や猫も、そこいらじゅうでみかける。たぶんノラだが、近づいても逃げない。
また「音楽」がウリの観光地だけに、いつもどこからか歌や楽器の音が聞こえてくる。
その大半は生演奏。ストリートや店の中で、ライブを披露しているのだ。
両替所と同じ通りに面した「民芸品市場」を覗いてみるが
明らかに観光客相手の土産物ばかり。
しかも種類は少なく、どの店にも似通った商品しか並んでいない。
このあたりも、.開放直後に訪れた中国と同じだった。
やっぱり社会主義国だと、数を流通させることが最優先。
個人の嗜好やバラエティなどの〈贅沢〉は、二の次のようだ。
早々とお店巡りへの興味を失い
海峡(海)を目指して東へと歩いていく。
フエルサ要塞に面した海峡沿いの通りは、眺めがよいためか
ピンク・赤・青・黄色に塗られたクラシックカーが何台も停車し
ドライバーたちが客引きに精を出していた。
われらもたびたび「乗らないか?」と声を掛けられるが
軽く手を振るだけで、すぐ.諦めてくれる。
決して押しつけがましくなく、あっさりしているので、ほとんどストレスはない。
心地良い潮風に吹かれ、ときおり行き交うクラシックカーをながめつつ
海峡にそって南東~南へと、のんびり歩いていった。
1キロ少々南下したあたりで、小さなフェリー乗り場をみかける。
どこに行く船なのかな・・と近づいていくと
その一角に、地元の人で賑わうソフトクリームの屋台があった。
強い陽射しと喉の渇きで水分を欲していた体が、「食ってみたい!」と訴える。
さっそく行列に並び、チョコ味のソフトを注文する。
ところが、支払いの段になり、
得意満面でさっき両替したばかりの人民ペソを差し出すと
(高額過ぎて)お釣りがない、と返されてしまう。
それならもっと少額のお札に替えようと、財布の中を調べるうち
ソフトのコーンを受け取った右手への注意がおろそかになり
・・ベチャ。
テーブルの上に、落下させてしまう。
あー、やっちまった。
「しょうがない、2個ぶん払おう」と、再度お札を出すと
ふいに脇から小銭を乗せた掌が伸びてきて、店員に手渡された。
慌てて振り向く私に、ニカッと笑いかけ、OK、OKと返すばかり。
後ろに並んでいた男性が、代わりに払ってくれたのだ。
さらにお店の人も、何事もなかったように、再度ソフトクリームを作り直し
はい、どうぞ。と、無料サービス。
私が差し出したお札は押し返され、誰も受け取ろうとはしなかった。
――なんだ、この、親切ぶりは!?
確かにソフトクリーム.の値段は、日本円なら10円にも満たない安物だ。
だが、小銭(コイン)の持ち合わせがないからといって
当然のように立て替えてくれるものだろうか。
おまけにお店の人だって、落とした分の代金など、ハナから頭にない。
海外からの旅行者に対するサービス精神?
キューバの対外イメージアップ作戦?
ひょっとして、「世界いい人コンテスト」でもやってるのか?
いやいや、最初から身についていなければ、こんなに自然な仕草はできない。
じゃあ・・・教育か? 教育が違うのか!?
だったら、キューバの公共道徳レベルって、日本よりずっと上なんじゃね??
タダでゲットしたソフトクリームを、相方と分け合って食べながら
そんなとりとめないことを、ぐるぐるぐるぐる考えていた。
(味自体はソフトクリームには程遠く、子供の頃食べたアイスキャンディーのレベル。
チョコ味のくせに、塩が効いてて、しょっぱかった)
――だが、しかし。
この庶民的氷菓を口に入れた瞬間から
キューバならではの、終わりなき《生水地獄》が幕を開けるのだった。
ではでは、またね。