我々の身体は、すべて細胞でできている。
――誰もが知っている、生物学の基礎知識だ。
当然、"常識"のひとつとして、理解しているつもりだった。
しかし、本書を読み、「超」顕微鏡で数千~数万倍に拡大された写真に接するうち
そうした"常識"が、どれほどいーかげんなものだったか、思い知らされた。
たとえば、皮膚・筋肉・骨・血管・血球・内臓・脳神経・眼球などなど・・
人体のあらゆる器官を作っている組織(細胞の集合体)の種類は
上皮組織、支持組織、筋組織、神経組織の四つだけだ。
さらに、気管支や肺胞を含む「肺組織」、食物の通路である「消化器官」
肝臓・膵臓・胆嚢・腎臓など主な内蔵はことごとく
上皮(皮膚)細胞が体内にめくり込まれる形で出来上がっている。
要するに、体内に収まっている重要な臓器の圧倒的多数が
手足や顔の表面と同じ「体の外側」にあり
汗や唾液を流すように、様々な物質を〈生成・分泌〉することで
消化吸収を初め、多種多様な働きを完遂させているのだ。
そして、こうした細胞ひとつひとつの内部では
それぞれの細胞の維持に必要なたんぱく質や遺伝物質が合成され続ける。
老廃物や毒物は、"細胞の胃袋"リゾソームが捕え分解・排出してゆく。
肉眼では捉えることのできない超ミクロの世界で
こうした〈合成&分解〉のシステムが、一糸乱れず実行されている。
しかも、一人当たり60兆個に及ぶ細胞のほとんどすべてが
早ければ数日、遅くとも数ヶ月のペースで、新たな細胞へと世代交代している。
※死んだ細胞は血管を通って腎臓でこし取られ、便に混じって排出される。
ちなみに大便のおよそ半分は、こうした「細胞の死骸」だ。
我々の身体を形作る細胞が、ほぼ3カ月ごとに"全とっかえ"になっていることは
その細胞がここまで緻密で精妙な"活動"を繰り広げているとは・・
自分自身の細胞に「すごいな、お前!」と、声を掛けたくなってくる。
さらに、天寿を全うして死んでゆく「壊死-ネクローシス」とは別に
細胞自らが命を絶つ(アポトーシス)という機能も、改めて認識させられた。
細胞の自殺は決して珍しいことではなく、からだができあがってくる過程では頻繁におきる現象だといってもよい。胎児期の脳では、成体の二倍もの神経細胞が作られるが、そのうちの半分がある決まった時期に自殺を遂げ、生き延びたものだけが、今、我々の脳の中で活動している。〈中略〉指が五本あるのも、手ができる途上で指間の細胞が自殺してからにほかならない。細胞の自殺によって、初めてからだができてくるといってもよい。元気に活動している私たちのからだの中でも、毎日おびただしい数の細胞が自殺をしていることはいうまでもない。 〔111ページ〕
上皮細胞(皮膚)を互いに密着・結合させている〈接着装置〉も凄まじい。
一番外側(外気に触れる)の部分から順に
「ジッパー」「ボタン」「結合路(細胞間の情報伝達を兼ねる)」と
必要に応じて〈ソフトから緊密へ〉という、段階的な繋がりを確立。
さらに下方(内部)では、隣接する細胞同士が小さな突起を出し合い
あたかも指を絡めるように、しっかりと結合しているのだ。
これが、いまこの瞬間も、数兆個に及ぶ表皮細胞で機能しているという事実に
(でなければ出血その他で正常な生命活動ができなくなる)
恐怖にも近い驚きを禁じ得ない。
興奮に任せ、思いついた順に書き連ねてしまったが
他にも、「マジかよ!?」と心の突っ込みを入れたくなる箇所が
文字通り、"てんこ盛り"なのだ。
切りがないので、サブタイトル(自家製もあり)だけを並べてみると。
花粉症の元凶?――肥満細胞。
体内の掃除屋――大食細胞。
骨をも食い尽くす破骨細胞。
赤血球誕生!の決定的シーン。
光を感知する円盤・視神経のトンデモ構造などなど。
なにより、たったひとつの細胞から体を構成するすべての細胞と組織が産み出される
――文句なしの、奇跡。
そう・・これこそ奇跡と呼ばず、何と呼べるだろうか。
とにかく、ページをめくるたび
両目どころか大脳皮質から、鱗がボロリボロリと剥がれ落ちてくる。
時に文章はそっけなく、立ち並ぶ専門用語が消化しにくい場合もあるだろう。
そんなときは、主語と動詞(結論)だけを頭に刻みつけよう。
豊富な図番と写真のおかげで、充分"すごさ"は感じとれるはずだから。
《知る喜び》を、ぜひこの一冊で味わっていただきたい。
ではでは、またね。