死ななきゃ「人間」になれないの? 『銀河の死なない子供たち㊤㊦』施川ユウキ 周回遅れのマンガRock

★要注意★本稿はネタバレを含む★

 

自身が普通に成長し、やがて死ぬことに対して

「すっごくドキドキする!」と笑顔で語る、"死なない女の子"π(パイ)。

このシーンをクライマックスとする本作品に対し

各界から絶賛の声が湧き上がっているようだ。

 

けれども、実際本書を手に取り、上下巻を通読してみた結果・・

残念ながら、感動や共感を得ることは出来なかった。

むろん、うたたのひねこびた性格も手伝っているのだろうが

なによりも気持ち悪いのは

永遠の命の代わりに、成長&死という運命を選び取った女の子・π(パイ)が

その決断以前に、少なくとも数百年以上の長い時間を"生きている"ことだ。

しかも上巻のほぼ半分を使い、復活&再生を繰り返す"不死身の存在"だと描かれる。

 

何を言いたいのかというと・・

彼女は、不死身かつ完全健康体の状態で時間を止められ

数世紀・数十世紀に渡って延々と単調な日々を過ごしてきた子供、ということ。

つまりーー変化せず生きるのに飽きたので、成長し、老化し、死んでゆくのが楽しみ。

・・それだけのこと。

いったいこの言動のどこに感動すればいいのか、正直まったくわからない。

それって単なる身勝手じゃんーーとしか思えないのだ。

まだしも、「母さん」と残ることを選んだ少年・マッキの方が共感できる。

 

わからないと言えば、もっとわからないのが、瀕死の状態にありながら

最後まで頑なに永遠の命を拒んだ、人間の女の子・ミラの気持ちだ。

「人間として生きて、人間として死ぬ」と言い切り

「あなたも可哀想」と上から目線で「母さん」を断じて死んでゆく彼女からは

"死ななければ人間じゃない"、という頑なな思い込みしか伝わってこない。

さしずめ〈人間原理主義〉ってところか。

「人間」の二文字を宗教名に入れ替えれば熱烈な信者だし

国の名前にすれば、筋金入りの愛国主義者だ。

 

・・・それとも、あれか?

天国みたいな死後の世界が存在するって、信じてるのか!?

なら「私は星になってふたりのことを永遠に見守っています」とのメッセージも

言葉通りに受け取ればいいしね。

うーーん、結局は〈宗教観の違い〉に落とし込むしかない話題なのか。

"あの世"とか"前世・来世"とか"生まれ変わり"とか

欠片も信じられないうたたには、文字通り別世界のお話だもんな。

 

てなわけで、本作品から湧き上がった強い想いは、次の一点。

 

一度でいいから、(πのように)飽きるまで生き続けてみたい!!

 

『5億年ボタン』じゃないけど、千年や万年は飽きずに過ごせる自身があるぜ。

"すっごくドキドキ"しながら死を待つのは、その後でいい。

 

「死を受け入れることで人間になれる」

という本書のロジックは、ちょっと魅力的だけど

それもまた、ひとつの〈宗教観〉でしかないと思う。

少なくとも《人間だから不死より死を選ぶ》には、直結しないはずだ。

 

以上をひとことにまとめると・・

別に、人間じゃなくてもいいじゃん。

死なない自分になれるなら

 

ではでは、またね。