なぜか心が"ほっこり"する「迷宮攻略物語」 『ダンジョン飯①~⑪』九井諒子 周回遅れのマンガRock

ダンジョンの主・魔術師を倒すため、最奥部へと乗り込んだ騎士ライオスら一行。

だがあとひと息のところで、ドラゴンに襲われ全滅の危機に。

妹ファリンの転移魔法により、辛うじて地上に戻ることができたが

その代償として、彼女はドラゴンの腹の中へ。

完全に消化される前に助け出し、復活の魔法をかけないと、妹は助からない。

まさに一刻を争う状況だが、財布はカラ。

となれば、充分な装備も食料も揃えることができない。

そこでライオスが繰り出した「奥の手」こそ

――ダンジョン内のモンスターを食らい、妹の救助に繰り出す!

というものだった。

 

要するに、自給自足によるダンジョン制覇・・なのだが。

本書を読み始めてしばらくの間は

どうせ料理漫画の異世界版だろう。料理がらみのウンチクがどんどん出て来て

ダンジョングルメ対決!とか料理バトルがおっばじゃないかな。

などと、〈グルメ一辺倒ストーリー〉を予想したのだが

・・読み進むにつれて、こちらの描いた想定からどんどん外れていった。

 

2巻目あたりまでは、各話ごとに新しいモンスターが登場し

それを退治⇒調理⇒食べる、というスタイルを維持していたのだが

話が進むにつれ、〈グルメパート〉は少しずつ縮小。

"腹が減ったので、入手した食材(モンスター)を使って食べる"という

ダンジョンで生き抜くための一要素にまで後退していった。

 

代わりにクローズアップされたのが

ダンジョンに関わる人々が抱える、様々な動機や裏事情。

そこに暮らすモンスターや獣人たちにまつわる、生態系の話。

さらに、いったんは復活に成功した妹とダンジョンを守るため

迷宮の主を目指す主人公と、それを阻止しようと現れたエルフ軍との戦い・・

と、文字にするとシリアスなバトルシーンが浮かんできそうな内容だが

実際のところは、主人公を含めた登場人物が繰り広げる

奇妙にとぼけたコミカルな言動のため、なんかもグダグダな展開なのだった。

 

でも、正直なところ、どれほどヤバイ状況に突き落とされても

決して"のほほん"を忘れず

ひとまず食べて飲んで 体を洗って眠ろう 明日のために (11巻81ページ)

常に能天気な前向きぶりを発揮してゆく主人公の騎士・ライオスと

あーー嘘ついちゃった(11巻129ページ)

その場のノリだけで猪突猛進するエルフのマルシルが面白く、目が離せない。

 

いったいどこまでが「計算通り」で、どこからが「なんちゃって」なのか

どうにも判然としないものの

登場時には怖ろしげに描かれていた恐怖の魔法使いシスルも

エルフの迷宮調査隊「カナリア」も、どんどんボロを出してヘッポコになっていく。

この調子だと、この後どれほど厳しい窮地に突き落とされようとも

最後には、みんなでファリンの肉?をぺろりと平らげ、彼女を救ってくれるはず・・

そんな、"なんかとなるなる感"に満ちているのだ。

 

とにもかくにも、登場人物ひとりひとりが、"やりたい放題"生きている。

「ご都合主義」と言われてしまえばそれまでだけど

いかなる悪役にも、〈可愛らしさの標準装備〉を忘れず

そしてなにより、生活のカナメ・食事を決してないがしろにしない。

ギャグとシリアスと見事な〈闇鍋〉をこしらえている本作を

今後も新刊が発売されるたびに、何度でも1巻目から読み返すことだろう。

 

ではでは、またね。