逃避ではない。充電である。 『ハクメイとミコチ』⑩  樫木拓人 周回遅れのマンガRock

いつもどおり、既刊の1~9巻を読み返してから

最新(といっても発売は昨年末)の10巻を、じっくり堪能する。

勝手に「殿堂入り」させた作品に対する、いつもどおりのアプローチだ。

気に入ったマンガは、何度読んでも飽きるということがない。

 

まして、飛び込むニュースがこうもきな臭く、リラックスには程遠い状況のなか

ドキュメンタリーはもちろん、歴史・犯罪・サスペンスなど

少しでも現実とリンクする書物を開くと

すぐさま"かの地の戦禍"が、脳裡でムクッと身を起こすのだから、たまらない。

 

そういうわけで、コロポックルらしきふたりの少女?が

多彩な隣人や獣人(昆虫人?)たちと繰り広げる

"桃源郷"としか例えようのないファンタジー・ワールドは

いつにもまして深い安らぎと慰めを、ヘッポコなうたたにもたらしてくれるのだ。

 

さて、最新の10巻で「メインキャラ」的役割を果たすのは

主人公(ヒロイン)コンビのかたわれ、ハクメイだ。

オンチだけど歌うのが好きな彼女の"雨中特訓"にはじまり

新たな世界(大工組合)との出会い

その奮闘をねぎらうパートナー、ミコチの"温泉招待"。

極めつけは、隠れた重要アイテム「種帽子」をきっかけに語り起こされる

若きハクメイの"愛おしい"旅立ちエピソードまで。

連作読み切りの強みを十二分に活かした

脇道&寄り道だらけの、融通無碍な物語世界が、どこまでも心地よく拡がってゆく。

 

くわえて今巻では、初登場以来大ファンになったジャダさんも大活躍。

まるっきり色っぽくない「温泉回」では

安心して 同類がここにいるよ

一緒に お風呂で おっかなびっくりお喋りしましょ

と、人見知りの研究オタク・センにやさしく寄り添う姿に、胸を熱くさせたり。

港町アラビへの一人旅では、荒っぽい人々におっかなびっくりしながら

それでも『苦手な町だったけど いい人に会えたよ』と

全身をアラビ土産で飾ってほんわり微笑む姿が、たまらない。

 

さらに、初登場時には、不愛想な言動ばかりだった研究オタク・センが

少々強引な友人たちのサポートのおかげで、少しずつ心を開き

素直な感想を発したり笑顔を浮かべる様子に、こちらまでニンマリ。

 

そんなこんなで、ありがたいことに

どうやら当分の間は、この素敵な物語は続いてくれそうだ。

いまはただ、いつの日か来るだろう「お父様」とハクメイとの再会を期待しつつ

1年後に訪れる第11巻発売日を、じっと待つことにしよう。

 

それにしても、第一巻からさりげなく描かれていた

主人公ふたりの「帽子」に、こんなに深い意味があったとは・・

各話のラストに紹介されるコラム『足下の歩き方』からも漂ってくる

緻密な設定と裏エピソードの多彩さに、思わず細い目を見張るのだった。

 

ではでは、またね。