"ヒロインっぽくないヒロイン"が最高。『スキップとローファー①~⑥』高松美咲 周回遅れのマンガRock

能登半島の外れに暮らす学業優秀な女の子が

バリバリのキャリアウーマンを目指して

東京の名門高校に入学するところから、物語は始まる。

 

待っててみんな

小さな町に奇跡的に生まれた神童の私が

立派になって帰るから!

 

自身と希望に満ちたモノローグにふさわしく

主席合格者として、入学式に臨む彼女・岩倉美津未(いわくらみつみ)だったが・・

 

まっさきに驚かされたのが

この主人公・美津未ちゃんの《ヒロインらしくなさ》。

いなかモンの妙チキリン

と、同級生の一人(女子)が評する通り

他のクラスメイトと並べてみても"描線の少なさ"ばかりが際立つ

文字通り絵に描いたような〈脇役キャラ〉なのだ。

 

しかもテストの成績こそトップクラスとはいえ

実生活においては、おっちょこちょいのドジっ子で、空回りばかり。

入学式当日にも電車を乗り間違え、通勤ラッシュに揉まれて遅刻寸前になる始末。

ダッシュでギリギリ間に合ったのの

新入生代表で宣誓を終えた直後、緊張が解け、担任教師の胸に思いっきり嘔吐。

初日早々、「吐いた人」というニックネームで囁かれる・・と。

これ以上ないほど見事な〈ボッチ路線〉を突っ走っていく美津未ちゃん。

 

普通、ここまで失態が続くと、ヒロインはダークサイドへと転落。

挫折続きのダメダメ高校生活が繰り広げられるところだが

とあるイケメン同級生(もちろん男子)の

岩倉さん オレたち友達になろうよ ――をきっかけに

オセロのコマがパタパタパタと裏返されるごとく、全てがいい方へと変化してゆく。

 

てな感じで、ざっくり序盤のあらすじを文字化してみると

「あーはいはい、昔ながらのシンデレラ・ストーリーでしょ」

なんて勘違いされかねないかも。

実際、欠陥だらけのヒロイン(不美人&性格に難あり)が、なぜかモテモテになる。

という展開は、まさに"白馬の王子様物語"そのものだからだ。

 

だが、それにしても、美津未ちゃんの"フツーっぼさ"は、群を抜いている。

彼女に比べれば、恋愛のために努力を惜しまない江頭ミカとか

超絶美人だからこそ、他人を警戒するようになった村重結月とか

身なりに全く気を遣わないオタク女?久留米誠の方が、遥かにヒロインっぽいのだ。

 

それでも、ドジばかりを重ねながらも、決して後悔に逃げない

ヒロイン・美津未ちゃんのアグレッシブな姿は、とてもすがすがしい。

私はね 志摩くん 

多少ド派手に転ぶことが多い人間だけど

そのぶん起き上がるのもムャクチャ得意なんだから!

など、徹底した「ポジティブ・シンキング」を発揮し、楽々と乗り切ってゆく。

そして、あたかも教室に紛れ込んだ一匹の子犬のように

本来つながるはずのなかった生徒たちの心を、結び付けていくのだ。

 

そうだ。

いま気づいたけど、現実離れした素直さや子供っぽさを発揮する

本作のヒロイン美津未ちゃんの存在は

彼女と関わる人々の本心を映す「鏡」の役割を果たしているような気がする。

実際、美津未ちゃんの"他意のない発言"がテコになって

周囲の人々の内面が、一気に露呈していく場面が幾度もあったのだから。

 

本来脇役である登場人物が、その瞬間だけ「物語の主役」になり

自分でも知らずにいた"本当の気持ち"に向き合ってゆく。

こうした〈自己との出逢い〉的シーンが随所にちりばめられていて

そのたび、うたた(俺だ)は、にんまりせずにいられない。

 

いっぽう、巻を重ねるにつれ、盛り上がっていくのが

登場人物ひとりひとりの核心に迫る、鋭くも緻密な〈内面描写〉。

正直、五巻目辺りまで来ると、ヒロイン美津未ちゃんの"恋の行方"より

文学オタク娘・久留米誠を中心とした、結月との友人関係や

本多先輩への密かな恋心のほうが、遥かに強く胸を撃つ。

(江頭ミカの内面に迫る6巻も絶品。己の告白体験まで思い出してしまった)

 

実際、美津未ちゃんのお相手?「志摩くん」はもちろん

同級生のミカ(女子)や山田&向井(男子)など

ヒロインの言動が起点となって動き出す"周りの人々の心"が

本作最大の"みどころ"だ!ーーという気がしてならない。

東京で彼女に住居を提供している叔父(叔母)・直樹も、そのひとり。

 

そういう意味では、一週間ほど前に書いた『ひらやすみ』と同様

これもまた、美津未という「触媒」によって発生する

"登場人物たちの変化や成長"を楽しむ作品、なのかもしれない。

 

いずれにせよ、何度も繰り返して読んでも

いつも同じ箇所で手が止まり、しばし開いたページを眺めてしまう。

ここまで強い求心力を放つ作品は、めったにない。

相も変わらず〈美形〉とは程遠いヒロインの姿にホッとしつつ

高校生活2年目を迎える彼ら、彼女たちの日常に寄り添っていきたい。

 

ではでは、またね。