わかりやすい笑い。
たとえば、テレビのバラエティ番組で
お笑い芸人(くずれ)が着ぐるみじみたオーバーアクションとともに
目玉をかっと見開き、大声で叫んだ瞬間。
待ってましたとばかり、ガヤ(笑い声)の音声素材が鳴り響き
同時、画面の下半分を埋め尽くすテロップが
芸人(くずれ)が発した言葉(叫び)を、巨大な文字で表示する。
あらゆる手段で〈ここは笑うトコロ〉サインを連呼し
「面白いのかよ、これ?」
といった疑いの発露など、問答無用で押しつぶす。
・・・ま、それはそれで、別の意味で「笑える」けどさ。
けれども。
どこを面白がって、いつ笑うか。
本来、ひとりひとり違って当たり前のはずなのに
タイミングや笑いのボルテージまでもが、決め付けられ、強制される。
それって、ある意味「ファシズム」だということに
どうしてみんな、気づかないんだろうね。
今回、田島列島の短編集『ごあいさつ』を手に取った流れで
性懲りなく『子供はわかってあげない(上下巻)』と
『水は海に向かって流れる(全3巻)』を読み返しているうちに
ふと、そんなことを、しみじみ考えてしまった。
要するに、彼女の作品は、どこを見ても
冒頭に挙げた〈定番ギャグのツボ〉を外しまくり
「面白いと思った人だけが笑えば、いんじゃない?」的な
いわば『offbeatの笑い』に満ちあふれているのだ。
おかげで、何度読み返しても
自分が気に入ったツボに来ると、やっぱり笑ってしまい
バカにできないほど、胸が暖かくなってくる。
と寡作な人だから、このあと数年は新刊が出ないはずだ。
それでも、半年に一回ぐらいは本棚から引っ張り出し
同じツボで吹き出しては、ちょっとばかし幸せになるのだろう。
以下、うたた式「笑った」り「感じ入った」トコの引用。
※ホントは、こんなもん読むより、マンガを楽しんで欲しいんだけどね。
〇姉の不倫を教師(担任?)に告げた妹
妹「‥‥ビックリしたでしょ?」
教師「うん」
◇回想/姉と妹の会話
姉「社会じゃよくあることなんよ。
そのへんの土ほじくり返しゃ出てくる話なんだから」
〇妹と教師の会話に戻る
妹「『昼ドラなんて土器よ』って」
教師「何を言ってんだか。
俺のところにはカケラも出てきませんが?」
妹「昔 海だったからだ」 (『ごあいさつ』12-13ページ)
〇姉の不倫相手の妻を自宅に招き入れ
妹「浮気されるって どんな感じですか」
※妻、ゆっくり麦茶を飲んでから
妻「湾岸戦争を テレビで見る感じがする。
リアリティがないのよ いまいち」 (『ごあいさつ』25-26ページ)
〇不倫に破れた女友達の話をする姉と妹
姉「恋する乙女の心の中にはね‥ 官僚が住んでるのよ」
妹「住んでてほしくないなあ‥」
△ここでいきなり、漫画内漫画「それゆけ!陳情くん」(2ページ)が挟まる
※不倫を止めようと官僚トリオに陳情するが、しあわせ・安全・安全の抽象論ばかり。
しまいには全員一斉にボールペンでノックを開始。帰れのサイン。(笑顔のまま)
△「それゆけ!陳情くん」のパネルを提示している姉
姉「わかりやすくまとめてみましたが
ひたらく言えば他人の話聞かなくなるんですわ 恋する乙女は」
(『官僚アバンチュール』46-48ページ)
「なんなのよ おっぱいって」
「昨日 電車でふと思ってしまったんですよ
私ってもう一生おっぱい吸わないんだなーって
赤ちゃんの頃は 男も女もおっぱい好きだったのに
大人になったら 女は女のおっぱい吸えないんですよ 男は吸えるのに
不公平だと思いませんか? そう考えたらいてもたってもいられなくなり」
「フツーはそういうこと考えずに一生終えるのよ」
(『おっぱいありがとう』63-64ページ)
他にも、文字(会話)だけでは面白さが伝えられなかったり
絵がないと意味すら分からないツボが、そこいらじゅうに散らばっている。
デビュー作『子供はわかってあげない』に至っては
毎ページマイページが、某新興宗教も呆れるほどの"ツボ"だらけ。
いまからでも、遅くはない。
田島列島のマンガで、笑いの〈自由〉と〈自立〉を、取り戻さないか。
ではでは、またね。