シベリア・モンゴルの曠野を舞台に
めっぽう"男前の"ヒロインが
舞い踊り・駆け回り・闘いまくる、超冒険物語だ。
時は1920年代のはじめ。
日本が日露戦争に勝利し、イケイケドンドンで大陸に進出していたころ。
12歳の少女が、海を渡り、はるばるハルピンまでやってきた。
天蓋孤独だという少女の名は、「フミ」。
その夢は、なんと――大陸一の売れっ子女郎になる!
これまで山ほど小説を読んできたけど
「売春婦になるのが夢」と瞳を輝かせる12歳のヒロインなんぞ
後にも先にも、お目にかかった記憶がない。
だってヒロインだぜ!?
それも現代なら、やっとこ中学に入ろうかというお年頃だ。
なのに「フミ」ちゃんってば、すでに"ひととおりのこと"は体験済み。
セックスなんかあいさつ代わり、といわんばかりのオープンぶりなのだった。
そんなこんなで、女郎見習いフミは
ヒロインにまつわる読者の夢と幻想を、かたっぱしからなぎ倒しつつ
ひたすら前向きに、パワフルに、己の未来を切り開いてゆく。
ひと晩に7~8人もの客を取るのが、当たり前。
文字通り"我が身を削って"日々を過ごす女郎たちは
多くが三十になるやならずで身体を壊し
浮世の底へと消えてゆく。
先輩女郎が吐き捨てるようにつぶやく言葉が、象徴的だ。
「あたしたちはみんな一度死んで、ここに落ちてきた。だから、もう一度死ぬことなんか、簡単なんだよ。ちょっとしたきっかけで、すいっと踏み越えちまう」①156p
それでも女郎屋で、下働きに励しかない「フミ」だったが
ひょんなことから日本時代に習い覚えた踊り(角兵衛獅子)の才能に注目され
身体を売る女郎ではなく、踊りを売る芸妓への道を歩むことになった。
続きを書くのはメンドイので、『芙蓉千里』バックページを拝借したい。
夢を共有する美少女タエ、妖艶な千代や薄幸の蘭花や各々の業を抱えた姉女郎達、そして運命の男・大陸浪人の山村と華族出身のの実業家黒谷‥‥煌めく星々のような出会いは、彼女を何処へ導くのか!? 〔巻末〕
なんだか、"投げっぱなしジャーマン"のような予告文?だけど
まさしくこの文言通り、フミの人生は作者以外誰も予想しえない未来へと舵を切る。
いや、ほんとに、女郎(遊郭)話かと思って読み始めたら
"大陸一の踊り子"を目指す、日本舞踊&バレエのストーリーへと変貌。
「ガラスの仮面」や「チョコレート・コスモス」っぽくなってきた。
20世紀初頭の芸能ワールドが主軸になるのか・・と思いきや
命懸けで築き上げた名声もキャリアもあっさり投げ捨て
まさかまさか、"そっち方面"に全人生をつぎ込むとはーー!?
波乱万丈。天衣無縫。急転直下。絶体絶命。
うーん・・つまるところ、愛こそすべて? ってヤツなのか。
なにはともあれ、1巻から2巻、2巻から3巻、はたまた3巻から最終の4巻まで。
起承転結の型に収まりかねないストーリーのタガを、片っ端からハズしまくり
天に届けとばかり燃え盛るどでかいキャンプファイヤーをぶっ立てた
著者・須賀しのぶの〈男前ぶり〉に脱帽するしかない。
なにせ、こんな物騒なセリフが"しれっ"と発せられるのだから。。
「覚えておけよ、おフミ。一番利用しやすいのは、自分は正しいと信じこんでいる善良な莫迦だ。この大陸で生き延びるなら、常に疑う悪党になれ」①175p
ーーいまこのときの世界に必要不可欠な〈知恵〉だ。
2巻以降の名文・メイゼリフは、ぜひご自身で見つけ出していただきたい。
では最後も、『芙蓉千里』のうたい文句をコピペしちまおう。
‥‥女が惚れ、男は眩む、大河女子道小説ここに開幕!! 〔巻末より〕
ではでは、またね。