まだ、16巻を読み終えていない。
というか、あっさり読み終わらぬよう
一話が完結するたび、いったん本を閉じ、別のことを始める。
そうやって昨日から、作品世界にしがみついている。
続刊を入手するたび、改めて第1巻から読み直す。
なので5巻以下は、最低でも10回以上の再読となる。
それでも、ページを開くたびに胸が熱くなり
いつのまにか、登場人物ひとりひとりと一緒に歩きながら
怒り、笑い、悲しみ、悩むことを繰り返してしまう。
そうやって、いつも痛感させられる。
両手の指に収まる「超お気に入りマンガ」(連載中)のなかでも
これが、文句なしのナンバーワン。
俗に言う、「無人島に持って行きたい一冊」なのだと。
おねいちゃん へんなんだ
前は 会わない日とか いっぱいあっても
ぜんぜん 平気だったのに
へんなの‥‥ 何で?
「心が通じた」って思ったら 今度は
「会えないとさみしい」って 思い始めたの
おねいちゃん どうしよう。
――すごいっ
これは 一大事だよ!! (16巻Capter173 102-3ページ)
将棋のプロを目指したことは、ない。
せいぜい、コマの動かし方を覚えている程度のド素人だ。
若くして親兄弟と死に分かれた経験もなく
ましてや美人三姉妹とお近づきになれるチャンスにも、巡り逢えなかった。
いっこも取っ掛かりのない「世界」のお話なのに
なぜこんなにも強く、熱く、重く、激しく、魂が共鳴するのだろうか。
ヒントは、『おさらい読本・中級版』末尾に掲載された
「スペシャルインタビュー」のなかにあった。
羽海野 割と悩みをすぐ描く人もいますが、私は経過観察が必要なので、10年くらい経ってから描かないと、直情しか入んなくなっちゃって。それはそれでいいんですけれども、私は自分の作品は割と長く読んでもらって、孫に聞かせるようなものと思っているんです。〈中略〉
羽海野 考えなくなるんじゃなくて、考え続けてます。ずーっと考えてます。毎日考えて、いじめのことも何十年も考えていて。〈中略〉
羽海野 今やっと描こう、みたいな。そうだ!どうしたらいいかが分かってからでないと描けないんだ。無責任になっちゃうから、自分のだけだと単一方法になっちゃうから、友達のケース、それが親だったケースとかも合わせて。 (165-6ページ)
とことん考え続け、悩み続けた末に
やっとのことで掘り当てた「エウレカ(これだ)!」を
ひとコマひとコマのなかに、刻み込んでいく。
だからこそ、何回読んでも新鮮な
文字通り『孫に聞かせるような』作品に成りえたのだろう。
そんなわけで、どの巻の、どのページを開いても
"うわーっ"と自家赤面してしまう言葉に、ぶち当たってしまうのだ。
田中さん あづにゃん大丈夫ですかね?
ヤケおこして どっかに行っちゃったりしませんかね
それは大丈夫
自分の弱さから 目をそらすヤツがするのが ウサ晴らし
弱さを見つめる人間がうるのが 立て直し
彼はきっと 走って帰って勉強するよ (15巻 Chapter160 90-91ページ)
いま願うことは、ひとつ。
どうか本作が、無事完結しますように・・。
過酷な入院&闘病生活(「あとがき」で初めて知った)に加え
最愛のパートナー・ぶんちゃん、戦友・三浦健太郎氏。
相次ぐ別れのたびに傷つく心を想像しつつ。
それでも、わがままで自分勝手な読者(俺だ)は
『3月のライオン』をラストまで読ませてほしい!!
と、切望してしまうのだ。
いつだって人生は、"別れ"で幕を閉じる。
本日もまた、瀬戸内寂聴さんの死を知った。
享年99。
40年以上前の、初夏の午後。
まだ結婚して間もない頃だった、と思う。
相方とふたり、京都の寂庵を訪ね
在宅中だった寂聴さんと、話す機会を得た。
ズケズケため口を叩くバカガキを前に、終始笑顔で接し
相方と一緒の記念写真にまで応じてくださった。
そのときの記憶は、今も心の底に温かく残されている。
残念ながら、直接お会いすることは叶わなかったが
『ハチミツとクローバー』以来
羽海野さんとも、同じ時をいっしょに歩んできた気がしてならない。
だから――どうか、お元気で。
ついでに、遅くなっても構わないので、なにとぞ続刊を!
ではでは、またね。