片手に本、片手にスマホの"海外旅行" 『特捜部Q-吊るされた少女-(上下)』ユッシ・エーズラ・オールスン 周回遅れの文庫Rock

「世界が注目する北欧ミステリ」の中でも

代表格といえるだろう、人気シリーズの第6弾だ。

相変わらず、見事なまでの"ダメオヤジ"っぷりを披露してくれる

(強烈に共感してしまう)主人公カール・マーク警部補。

巻を重ねるたびに、謎の素顔がチラリチラリと顔をだすようになってきた

中東出身のアシスタント、ハーフェズ・エル・アサド。

これまた、多重人格者ぶりに磨きがかかりまくりの

若き女性アシスタント、ローセ・クヌスン。

ある意味、ヘビとカエルとナメクジの三者三すくみにも似た

丁々発止のくんずほぐれつが、今回もフルスピードでぶちかまされる。

 

よく言えば、オールスター総出演の吉本新喜劇

ひねた見方だと、"いつもの人間関係"に多少の進展をふりかけた

定番・安心のブランド・シリーズ、といったところか。

いや、これっぽっちも悪意はないんだけどね。

実際のところ、プロローグ後の10ページ目から

あっというまに〈特捜部Qワールド〉に引きずり込まれ

気づいたときには、「訳者あとがき」だった

――というぐらい、リーダビリティ抜群のエンタープライズなのだから。

 

そんなわけで(どんなわけだ?)

『アサドの祈り』まで日本語版の続編が出版されているし

ストーリーや内容の吟味・分析に関して

すでに優れた書評が何本も公表済みだろうことは、間違いない。

 

よって、今回初体験した《スマホながら読書》について書くことにする。

とはいえ、わざわざ名前を付けるほど、新しい試みではないはず。

スマホをパートナーに生きる若者たちにすれば

「なんだ、いまさら、それかよ!?」なんてバカにされるのがオチだろう。

でも、うたた的には"人生初"だったのだから、許して欲しい。

 

とっとと説明すると・・

スマホのグーグルマップで現地の情景を眺めながら、読書する。

たったの、それだけのこと。

しかし、地図帳(歴史地図も含む)で場所を確認しながらストーリを追う作業は

これまでにも何度も実行していたが

スマホのマップで現地のリアルな映像を見ながら物語を楽しむ〉のは

基本的に脳内(想像)だけで文章を映像に変換していた、半世紀余りの「読書」とは

明らかに、次元の異なる体験だったのだ。

 

例えば、バルト海に浮かぶ「ボーンホルム島」の写真を見たとたん

"あ、なんか見たことあるぞ"と、強烈な既視(デジャブ)感に襲われた。

と同時に、スマホでは知り様がないはずの、熱気・陽射しの強さ・風・匂いといった、

五感がらみの〈旅の記憶〉が、次から次へと湧き上がってきたのだ。

 

もちろん、実際に「ボーンホルム島」を訪ねたことなどない。

唯一の"デンマーク上陸"は、コペンハーゲン空港でのトランジット体験のみ。

それでも〈同じ空気が流れる土地〉を知っている、確かな記憶があった。

3年ほど前に訪れた、エストニアの西に浮かぶ「サーレマー島」だ。

 

もちろん、地形から町並み・建物の形などは、いずれも異なっている。

なのに、スマホの小さな画面に表示された画像を眺めただけで

「この空気感、サーレマー島と一緒じゃん!」と

同じバルト海に浮かぶ島で過ごした日々を思い返すことで

カール達と共にボーンホルム島へと降り立ち

ひとつひとつ彼らが体験する「リアル」を、自分の感覚として体験できたのだ。

・・いやはや、これは楽しいぞ!!

 

そんなわけで、すっかり《スマホながら読書》に魅了されてしまった次第。

今後、海外の作品を読むときは

「片手に文庫本・もう片手にスマホ」のスタイルが、必須となるに違いない。

海外渡航の体験をお持ちの方は、ぜひ一度、お試しあれ。

1年余り続く〈禁断状態〉も、少しは紛れるはずだ。

 

ちなみに、国内を舞台にした作品を読むと、"旅の記憶"は勝手に蘇ってくる。

スマホでチェックしても、「感激」したことは(今のところ)ない。

きっと、日本とは気候風土が異なる場所だけに通用する〈裏技〉なのだろうな。

 

ではでは、またね。