開けてビックリ!! 違和感の"詰め合わせ" 『バスジャック』三崎亜紀 周回遅れの文庫外Rock

運任せの「サイコロ読書法」に切り替えて以来

我が"積読山脈"の深層や背後に眠っていた《化石図書》の発掘が

徐々にではあるが、進み始めている。

16年前に出版された三崎亜紀の短編集も

そうした"読書改革"のおかげで手に取ることができた

いわば「オノダ本(ルバング島小野田少尉)」のひとつ。

"文庫シフト"の前にゲットしたので、単行本だし。

 

で、正直なところ、内容にはあまり期待していなかった。

デビュー作の『となり町戦争』こそ読んでいたが

その他は『コロヨシ!!』シリーズ程度。

『失われた町』も『刻まれない明日』も『廃墟建築士』も

未読のまま、積読山脈の地層の一部を形成したままの放置プレイである。

 

そんなわけで、たまたまサイコロの気分で"ご指名"が決まった

(おまけに性別を間違え〈女性作家カテゴリー〉でピックアップした)

ぶっちゃけ、「しゃーない、ノルマだし、さっさと読むか」程度の

メチャ失礼な心構えで、読み始めたのだった。

 

・・・・・・・・。

いやはや、とんでもなく、面白い!!

いまさらながら、己の横っ面に怒りのビンタをかましてやりたくなった。

 

家族や親戚、友人らと交わす会話の最中でも

ときどき、「・・え? なに!?」と、耳を疑いたくなるような

「ズレ」や「すれ違い」を体験するときって、あるよね?

そのときに抱く違和感を、数百倍に巨大化。

しかも全身を超合金で武装させた強力無比な《ヘンテコモンスター》が

ページとページの狭間から、ヤットコヤットコ繰り出してくるのだ。

 

そのくせ、文章や語り口は、どこまでもスムーズ。

それこそ熟練のラノベに対したときのように

何の抵抗もなく、スルスルスルスル目から頭へと流れ込んでくる。

おかげで・・ん? それって、変だろ? ちょっと待てよ!?

と、普通であれば、いったん本を閉じ、ふーっと息を整えるべき箇所でも

最初の「ん?」を発したとき、すでに次の文節に目が流れているため

〈とにかく先を知りたい!〉という気持ちを抑えることが、難しくなっている。

そんなこんなの繰り返しで

気づいたときには、ラストの一行と対面していたのだった。

 

まったくもう・・なんだろうね。

この"気持ちの悪い〈気持ちよさ〉"の、正体ってやつは・・。

 

『となり町戦争』『コロヨシ!!』の読書体験から

この作者が、"日常の中にスルッと〈異常〉を滑り込ませる名手"

――だということは、承知していた・・つもりだった。

けれども、長短とりまぜて7つの作品それぞれが

こんなに色も形も輝きも匂いも手触りもまるで違う

「おもちゃの缶詰」ならぬ「違和感の缶詰」ワールドを見せつけてくれるとは。

 

町内の回覧板で設置を強要される「二階扉」。

仲睦まじいカップルの間で、不気味にズレまくる「記憶」。

エンターテインメント化した「パスジャック」。

たった5ページの余韻がいつまでも残る「雨降る夜に」。

そして、個人的には一番ハマった表出・融合・拡散・固定が決め手の「動物園」。

(この辺の「形式」や「言葉遣い」は『コロヨシ!』を連想させる)

 

なにはともあれ、初めて足を踏み入れた動物園(水族館)のように

ひとつひとつのゲージ(水槽)=作品の前で、心の足を止め

じっくりと「三崎ワールド」に浸ってみてほしい。

このところ妙に薄っぺらく、計算ばかりが目に付いてしまう

〈話題のベストセラー〉では味わえない、"読書の喜び"に出会えるはずだ。

 

この本に出逢えて、またひとつ

小説を読む楽しみが増えてしまったよ。キャー(嬉しい悲鳴)

さっそく「サイコロ読書システム」に組み込み

『失われた町』『刻まれない明日』と、読み次いでいかなくては。

・・ああ忙しい、忙しい。

 

ではでは、またね。