格安カーサは、泊まるだけでもひと苦労 キューバふたり旅 2020.2.26-3.5 1日目(後編)

2020年2月26日(水) 成田⇒メキシコシティハバナ

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翌朝挨拶してくれた女学生たち。(余裕がなく昨夜の写真はゼロ)

団体客と思われる日本人の集団に紛れて、入国審査を無事通過・・

と思ったら、出てすぐのところでストップがかかる。

目の前には小学校サイズの小さな机を前に座る

白衣姿の若いキューバ人女性の姿。

眉間に皺を寄せ、広げたノートにの上でペンを走らせている。

我ら二人にも「パスポート」と「ホテル予約票」の提出を求められた。

そう。まんいち新型コロナの感染者が出たときのために

(主に日本人)入国者の名前と滞在場所を、記録していたのだ。

まだ入国制限がかかってないとはいえ

すでに.感染者を出している国から来た人には

ひとりひとり追跡調査ができるよう、厳密なチェック体制が取られていた。

さすがは?医療先進国・キューバ

日本の空港とはまるっり異なる張り詰めた雰囲気に

いまさらながら〈コロナの怖さ〉を実感させられるひと膜だった。

 

それでも、チェックさえ済めば、あとは普段通り。

無事到着した荷物をピックアップし、入国ゲートをくぐる。

すでに時刻は夜の11時半近く。

まずはとにかく両替だ。

左側に並んでいる両替所に・・と思ったが、そこには壁があるだけ。

いったどうなってる? あわてて、手近にいた空港職員とおぼしき制服姿の男性に

「両替所はどこ?」と訊くと、ニッと笑って上を指差した。

どうやら2階(現在地は一階)にあるらしい。

フロア中央に設置された、そこだけオシャレなガラス張りのエレベーターに乗り込み

二階へ上がると・・確かに、成田空港と似たような形態の両替所が2ブロック。

深夜にもかかわらず、先に入国した観光客が数グループ並んでいた。

よし、ここで間違いなさそうだ。

最後尾に並ぶと、15分ほどで当座の現地通貨を手に入れることができた。

 

やれやれ、まずは一安心。

あとは、何が必要だったっけ・・

と考えながら、歩き出した目の前に、一人の若い男が立ちはだかる。

えっ、と思う間もなく「タクシー?」の声。

反射的に「イエス」と答えてしまうが

ここで「前もって料金を確認すべし」との注意を思い出し

ハバナ・シティ、ハウマッチ?」と訊くと、「サーティ(30)」の答え。

ネットなどで調べた金額と同じだったので、つい頷いてしまうと

それを「OK」と解釈したのか、すぐさま我々のスーツケースに手を伸ばし

空港ビルの外に向かって歩き出した。

・・え? あの、まだちょっと、水とか買っておきたいんだけど・・・

なんて細かい情報など伝えられないまま、あわあわしながら後をついて行く。

 

自動ドアを抜け、外に出た途端、温かく湿った空気に包まれる。

2月末とはいえ亜熱帯気候の土地。

夜でも気温は20度近くあり、気のせいかフルーツの匂いも漂ってくる。

そんな南国気分を味わう余裕もなく、荷物を人質に先行する若者の後を追いかける。

と、正面の道に沿って20メートルほど左へ進んだところで、彼は足を止め

停止中だった一台の車の運転席に座る男に声をかけ

我らのスーツケースを車内に収めると、自分も助手席に乗り込んだ。

どうやら、若者は客引きで、運転手は車内で待機するシステムらしかった。

こうなっては、もはや嫌も応もない。

日本なら確実に車検を取らないだろうおんぼろセダンの後部座席に

われらも乗り込み、宿の予約票を見せて「ここに行って欲しい」と告げる。

それを見ながら、運転手と客引きは、しばらくスペイン語でやりとり。

ほどなく、小刻みに頷きながら「OK!」と言って、車を出した。

 

真夜中過ぎの真っ暗な道を、車は猛スピードで突っ走る。

前を行く車を、つぎからつぎへと追い越していく。

その間も、運転手と客引きのふたりは、妙にテンションが高い会話を交わしている。

・・ひよっとして、もっと安く乗れたかも?

相手の言い値で了解したことに、今更ながら後悔し始めたが、後の祭りだった。

ともあれ少々乱暴な運転のおかげで、20分ほどで宿の近くに到着する。

宿の近くで2~3回道を確かめていたが、それでも予定より10分ばかり早かった。

「ここだよ!」と運転手が指差す先に、確かにネットで確認した外観の建物が。

その名も、Casa de Dayami de Cervantes。

 

共産圏に共通しているが、キューバも国営ホテルの宿泊費は高めに設定されている。

そこそこのホテルは、みな日本円で3万円以上というのが相場だ。

とはいえ安宿志向のわれらにとって、その値段は論外。

結果、近年急増中のカサ・パクティカル(キューバ式民宿)をネット予約した次第。

ちなみにこのときの値段は、朝食付きのツインルーム2泊で、48ユーロ。

一泊あたり三千円以下と、とってもリーズナブル。

しかし、安いからには、当然それだけのマイナス面もあるわけで・・

それはおいおい身をもって痛感することになるのだった。

 

ともあれ、約束した30CUC(キューバの兌換ペソ。クックと呼ぶ)を渡すなり

上機嫌で走り去ったタクシー?を見送り、目の前の宿にスーツケースを転がしていく。

路地のような入口を10メートルほど進むと、左に閉ざされた柵の扉を発見。

ここかな? と思って押したり引いたりするが、びくともしない。

困ったな・・と前方を見ると、まだ先に明るい戸口があった。

なんだ、こっちか! 

さらに7~8メートル進むと、小さな部屋の中に一人のおばちゃんが坐っている。

なんとなく挨拶を交わし、予約票を見せると・・

それに目を落としたおばちゃんは、にっこり笑ってさっき入れなかった扉を指差す。

ここはおばちゃんが住む部屋であり、やっぱり宿は手前から入るようだった。

だけど、鍵がかかってんだよなぁ・・

戸惑いながらも柵の前まで戻ると、くだんのおばちゃんがついてきて、

上に向かって大声て呼びかけてくれた。

たぶん「あんたんとこのお客さんが来てるよ~」とでも言ってくれたのだろう

すぐバタバタと足音が聞こえ、30代あたりのスマートな奥さんが扉を開けてくれた。

そうか。声を掛けりゃよかったんだ。でも、そのハードル、けっこう高いんだよね。

(もちろんネットで、到着は24時ぐらいになると伝えておいたんだけど)

 

そのあとは、こちらの英語(中学生レベル〉✖相手のスペイン語と英語(数語のみ)

という、ジェスチャーがメインの会話で、なんとか予約を確認。

無事、部屋に入ることが出来た。

しかし、備え付けの冷蔵を開けると・・ああっ、やっぱり!

欧米はもちろん東南アジアのホテルなら、安宿でも必ずといっていいほど入っていた

ミネラルウォーター(ボトル)の姿が――ない。

こちとら、入国以来の緊張続きで、のどがカラッカラだというのに。

 

あわてて、まだその場にいた奥さんに、「外で水を買ってきたい」と訴えるが

「もう宿の鍵(下の扉だと思う)を閉めるから無理だ」と断られる。

となると生水・・いやいや、ここで飲んだら一発アウト.。

高確率でゲリピーの日々が始まるに違いない。

ああ、やっぱり空港で買っておくべきだった・・!

だんだん可哀そうな人を見る眼差しになってきた奥さんに

「のどがカラカラ。ミネラルウォーターが飲みたいが、持ってこなかった。

 なんとか助けてもらえないか」と、必死にお願いするばかり。

すると、そこは相手も民宿の経営者。

この手のトラブルは、しばしば体験しているのだろう。

「OK。沸かした水を持ってくるから、待ってて」と答えて、部屋を退出。

数分後、ジュースを入れる背の高いコップを両手にひとつずつ持って、戻ってきた。

どちらにも、なみなみと「湯沸し水」が入っている。

・・・助かった。

正直、1リットルぐらい一気に飲み干したい気分だったが

これならなんとか、朝までしのぐことができる。

宿の奥さんに感謝の言葉を送り、ようやっとベッドに倒れ込むのだった。

  

それにしても、なんと中味の濃い1日だったことか。

設備の整った欧米やアジアのリゾートとは、まるっきり勝手の違う旅の始まり。

これからキューバで過ごす日々への期待と不安は、高まるばかりだった。

 

ではでは、またね。