"マラハジャ・ノベル"と名づけたい 『知らない映画のサントラを聴く』竹宮ゆゆこ 周回遅れの文庫Rock

とらドラ!』『わたしたちの田村くん』『ゴールデンタイム』

という順で読了して以来

おそらく5年以上ご無沙汰していた(元?)ラノベ作家の

新潮文庫書き下ろし第一作目にあたる小説だ。

 

アニメ⇒原作のルートで『とらドラ!』にズボッとハマり

ひところは新作が出るたびに読んでいたのだが

『ゴールデンタイム』で保留マークが点灯。

その後、新刊こそ確保し続けたものの、〈積読の森〉へと直行していたのだ。

しかし数年前に始めた『サイコロ読書法』の結果

このたびめでたく本作に白羽の矢が的中。

かつてのクラスメイトと同窓会で再会するような気分で

ページを開いたのだった。

 

んで、一読した後の率直な感想は・・。

ここに取り上げているのだから、悪いわけがない。

マンガのようにスイスイ読めてしまうリーダビリティの良さは、そのまんま。

(この場合の「マンガ」は、もちろん誉めことば〉

以前に読んだ〈ラノベ三作〉同様、常識のナナメ上をすっ飛んでく

設定・行動・小道具などの突飛さもまた、好き嫌いは別として、相変わらずだ。

ただ、『ゴールデンタイム』では、ときどきついて行くのがキツく思えた

登場人物たちの〈心の動き〉が、以前のような〈熱気〉は保ちながらも

ずいぶん"地に足がついてきた"印象かな。

おかげで、ちょっと意外なラストまで"置いてきぼり"にされず

同じ世界に暮らす者のスタンスで、楽しむことができた。

 

ひとまとめにするのは失礼だとも思うが

このあたり、森絵都須賀しのぶたち〈ラノベ出身で成功した作家〉同様

〈己の武器〉を冷静に客観視し、コントロールできているのなだな、と思った次第。

 

しかし、「丸く(オトナに)なる」ことだけが、.作家の成長ってわけではない。

たとえば、本作において強烈に.伝ってきた《ゆゆこテイスト》は

この後どんな大作家に化けようとも

決して捨てて欲しくない唯一無二の〈必殺技〉だと、勝手に信じている。

それこそが、冒頭のタイトルにあげた『ミュージカル』だ。

 

.常識的に考えると、「オペラ」や「ミュージカル」と呼ばれる舞台芸術って

ものすごく〈ヘン〉だよね。

だって、直前まで、ごく普通のやり取り(芝居)だったのが

ごくわずかなきっかけ(感情の効用・新たな人物の登場・楽器の音など)で

いきなり大声で歌い、踊り始めるのだから。

だけど、理屈だとつながるはずのない「芝居(日常)」と「歌舞(非日常)」が、

〈感情のフィルター〉を通すと、ぜんぜんおかしくない。

それどころか、水と油でしかないはずの2つの要素が

互いを高め合い、数倍にもふくれあがった感動を、人々に与えてくれるのだ。

 

同じように、彼女の作品は、

感情の高まりを「ジャンプ台」のように使って空中に飛び出し

突然、《歌い踊り始める》のである。

たとえば、こんなふうに。。

 

黙ってしまったら負けだと思って、これまで懸命に言葉を返し続けてきた。

が、もう限界だと枇杷は思った。

ドン引き、なんて言葉では足りない。今、自分が辿り着いた境地は、言うなればゴン引き。鬼ゴン引き。後ろ向きにこのまま射出されて、地球を一周回ってまたこの席に戻ってきてしまい、さらにもう一周おかわりの旅に出る、ぐらいの激しさで、こいつに対してぐるんぐるん引いている。                  (162ページ)

 

目を閉じる前までは輝くようだった夏の海の光景は、なんだかいきなり寒々しくなってしまった。枇杷も一人でなかったら、後ろの熟年たちみたいに「えー!?」とか「うそー!?」とか喚きたかった。思ってたのとこれでは違う。なんというか、これは……嵐だ。

世界を変えるはずの夏の小さな一人旅が、いきなりサスペンスの香りを帯びてしまったではないか。嵐の中をいくスーパービュー踊り子……閉じ込められた密室の車両……一人ずつ減っていく乗客……「殺人犯のうる車両になんかいられるか! 俺は一人でも降りるぞ!」=死亡フラグ! いや、別に閉じ込められてなんかいないのだけれど。

                               (325ページ)

正直なところ、これら「突然始まる"心の暴走"」が

ストーリーの核やカギとなる言動と深く関わっているわけではない。

それどころか、無関係だと言い切っても構わないだろう。

だから、これは単なる〈個人的な願望〉だ。

インド映画で突然大群衆を引き連れて踊りだすマハラジャに負けず劣らず

この、いわば《文章のマハラジャ化》こそ

竹宮作品における最高最大の魅力だと、勝手に決めつけさせてもらう。

たとえそれが、さらなるメジャー化(直木賞獲得とか)の障害になろうとも。

 

・・ま、いち読者がどんなに吠えたところで

次の作品でポイッと投げ捨てちゃった可能性は、少なくないんだけどね。

てなわけで、今回だけ「サイコロ読書法」の順番に従わず

さっそく今夜から次の作品

『砕け散るところを見せてあげる』(平成28年刊)を読むことにしよう。

(『手蹟指南所「薫風堂」』の野口卓さん、横入りしてすまん)

 

ではでは、またね。

 

 

 

 

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