"羊の皮をかぶった狼"ラノベ 『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』宮澤伊織 周回遅れの文庫Rock

あれこれ読み散らかしている間に

アニメ版の放送が始まってしまったので

あわてて〈未読の森〉から救い出し、ページを開いてみた。

題名・表紙・あらすじ・「百合が入ってる」という噂などから

”よくある異世界チート自己実現小説”の仲間なのだろうと、勝手に立てていた予測が

ものすごくいい意味で、裏切られた。

 

久方ぶりに〈ページターニング小説〉の醍醐味を味わい

一気に読み終えた後の素朴な感想は――タイトル冒頭に挙げた言葉、そのまんま。

いかにもラノベっぽい語り口でサクサク進行するストーリーの奥に

半透明のぶっとい背骨が一本通っている・・。

そんな、思いがけない読み応えを感じてしまったのは、私だけだろうか。

 

もともと、ホラー系の小説には、いまひとつ心惹かれず

「怖さ」をアピールされればされるほど、醒めてしまうタチだったのだが

なぜか、ネット上の「ホラー都市伝説」をエピソードの芯に据えたこの小説には

ストンと感情移入でき、空魚・鳥子・小桜それぞれの視点で楽しんでしまった。

いったい、どうしてなのだろうか?

本来であればハナ頭から否定するはずの「裏世界=異世界」の設定に

得体の知れない納得感を抱いてしまった?

主な登場人物が抱える〈心理的な境遇〉に、共感を抱いたせい?

それとも、単に言葉の使い方や心理描写が、好みにピッタリ合ったから?

 

正直なところ、いまだ判然としていない。

ただ、間違いなく断言できるのは

「2巻以降も読まずにはいられない」――ということだ。

幸い、現在のところ5巻まで出版されているらしい。

続編を手に取るのが、いまから楽しみだ。

ひよっとしたら、この作品がきっかけとなって

ホラー系小説に対する苦手意識が解消され

さらにワンステップ、《本の世界》が広がるかもしれないのだから。

 

あと、本書を読んだ後に

録画しておいたアニメ(第1回)も拝見した。

率直な感想は――――微妙。

敢えてキツい言い方を許してもらうと

なんか「フツーの異世界ホラー話」に収まってしまった、みたいな感じ?

小説に感じた、形容しがたい”おののき”が

「悪い怪物(妖怪)に遭遇した、やっつけろ!」という

バトル漫画にありがちな〈判りやすい恐怖〉に翻訳されちゃった、とか。

 

登場人物の心理描写にしても

アニメの〈お約束〉を無条件に取り入れているのでは。

たとえば、ラストで空魚が浮かべる表情。

小説に描かれた彼女の想い(生きてきた道・背負っているもの〉を

しっかり掴み取っているのであれば

あんな簡単に、あけっぴろげな笑顔を見せるわけがない。

それともアニメ制作陣は、原作より大衆受けがいい

『美少女異世界ラブラブ百合ストーリー』を目指していたりして。

だったら、もうなにも言うことはない。

アニメは諦めて、小説を満喫。

勝手に頭の中で《オリジナル作品》を上映するだけだ。

 

ではでは、またね。