物語の登場人物になれる、この快感! 『楊家将』上下巻 北方謙三 周回遅れの文庫Rock

実はこの本

十年以上前に一度読み終えている。

しかし、情けないことに

その時の記憶は、ほとんど残っていなかった。

ただひとつ

物語の終盤で、思わず「あーーーっ!」と声を漏らしてしまうほど

強く、どうしようもなくやるせない想いに襲われた

・・そんなぼんやりとした感動だけが、心の片隅に転がっていた。

 

数年後、続編『血涙』が文庫化され

その時点では、まだ初読の感動が残っていたため

先を読みたくてすぐ購入した……というのに

いつのまにか本棚の奥へと送り込まれ

今日に至るまでずーっと埃を被っていた、という次第。

(実際、そうやって途中停車したままの感動作が何冊もある。困ったものだ)

 

それがなぜ今になって

積読山脈の地下深くから掘り出され

『楊家将』『血涙』の全4冊(文庫版)通読の機会に恵まれたのかは

昨年末頃に発案し、スタートした《サイコロ読書システム》のお陰だった。

これは、現時点で1000冊以上溜まってしまった未読文庫本を

どうすれば効率よくかつ満遍なく読破していけるか

ない知恵を絞って考え出した、〈運任せの読書法〉である。

これについては、また別の日に改めて説明したい。

 

それはともかく、十年余りの鬨を置いて再読した『楊家将』。

――なんだこれ!? やばい! 面白い! 胸が熱い!

ところどころうっすらと記憶に残っている箇所もあるが

ほとんど初見の気分で読み進めることができた。

なにより、主人公?楊業の7人いる息子たちの描き分けがすごい。

読書中、しばしばおこなうことだが

「俺はこの中だったら誰に成りたいだろうか・・」と考え

一番(そうだったらいいな)と願う人物に自分自身を重ね合わせてしまう。

困ったことに、敵方(遼軍)にもまた

とてつもなく魅力的な将軍「白き狼」がいるが

幸い?こちらは、どう背伸びしても手が届かない孤高のヒーローだ。

だが、それだけに魅力的で

つい「負けて欲しくないな~」と願ってしまうのだ。

もちろん、全責任を他者に押し付け

ヒーローたちの主人公たちの足を引っ張る

傲慢にして無能な将軍たちも、全開バリバリで大活躍する。

で、大変困ったことに、

この自分の損得しか考えないろくでなしたちにも

読者(私)は盛大に感情移入し

「まいったな。こいつ、俺に似てるかも・・」と

無意識のうちに彼等と自分を重ね合わせ

卑劣な行動の裏に見え隠れする心の傷に、胸を痛めてしまったりするのだ。

――まさに、読書のヨロコビ、ここにあり!

 

そんなこんなで、数十万の大軍同士が入り乱れる乱戦のなかでも

あっちの四男坊に寄り添ったり、こっちのダメ将軍に思わず同情したり

はたまた、気持ちばかりが先走る若き女将軍を応援したりと

いたるところに心を飛び移らせては

10世紀末の中国世界を味わい尽くすことに。

 

こうして、ついに物語の終盤。

唯一、確かな記憶に残っていた場面にたどりつく。

 

あーーーっ! そうそう、これだった!!

 

狙ったわけでもないのに、また同じ声が漏れてしまう。

そして、前回とは異なり

すぐ続編の『血涙』を読み始められる!という喜びに

思わず、身を震わせるのだった。

・・・いや、大げさでなく、ここマジですから。

 

てなわけで

次回の「文庫Rock」は『血涙 新・楊家将』。

もう第二章まで読んじゃったけど

《続き》も凄いぞ――――。

 

ではでは、またね。