やっぱ人類って"死んでも治らない系"だね 『華竜の宮』『深紅の碑文』上田早夕里 周回遅れの文庫Rock

現実が想像の斜め上を飛び越え続けている今日このごろ。

どれほど荒唐無稽な「お話」に出会おうとも

――へっ、そんなバカな!

など呆れて撥ねつけられる心理状態ではいられなくなってしまった。

 

今回言及する、いわゆる「人類大ピンチSF」もまた

絵空事と笑い飛ばせる物語ではない。

 

ごくかいつまんでストーリーを紹介すると

地球規模の海底隆起によって多くの陸地が水没。

この空前の危機を辛うじて生き延びた、25世紀の人類。

だが、一息つけたのも束の間。

今度こそ人類を滅亡させるかもしれない

地球内部からの大規模なマグマ噴出と

未曽有の気候変動が襲来するという事実が明らかに!

許された猶予期間は、最短で50年。

果たして、そのタイムリミットまでに、人類になにができるのか?

 

ざっと粗筋を斜め読みする限り

昔から何度ともなく取り上げられた〈クライシスSF〉の

ひとつに分類されるのかもしれない。

しかし既視感を覚えるのは、この基本設定のみ。

かつて〈この手のお話〉には、定番とも言える流れがあった。

イムリミットが近づくにつれ、次々と立ちはだかる難関や危機。

だがどんなピンチが訪れようと、ヒーロー&ヒロインは決して諦めない。

最終的には、何らかの希望に満ちたエンディングへと導いてくれる・・

というストーリー展開である。

 

ところが、この物語は

そんな甘っちょろいご都合主義を

かたっぱしからぶち壊し、踏み潰していく。

ただでさえ、陸上民と海上民という価値観の異なる民族?の対立にはじまり

もはや形骸化してしまった旧来の文化圏にこだわり

自分たちの利益ばかりを優先させ水面下で足を引っ張り合う国家連合。

かくして地球全域でテロ行為が頻発し

ようやく歩みだした〈生き残りプロジェクト〉もまた

存続の危機に直面していく・・

 

そう。

こんな時こそ全人類が一丸となって力を合わせるべきなのに

危機が迫れば迫るほど、人々は頑なに対話を拒否し

各自が正義と信じて疑わない〈妄執〉に向かって走りつづける。

これは、なんとか人類を未来へつなげようとする人々の不屈の戦いと

それでもなお破壊を繰り返す人々のこれまた不屈の戦いを描いた

いわば、宇宙版《賽の河原物語》なのである。

 

そして、この希望より絶望の度合いが深いストーリーに

魅了されればされるほど

気味が悪くなるような「いま」との類似点に背筋が寒くなる。

だから、祈らずにはいられないのだ。

 

自分の立場とか目先のことばかり優先しないで

どうすれば10年後だとか20年後にマシな世の中を作っていけるのか

好き嫌いだけで物事を決めたり、安易に一喜一憂せず

頭を冷やし、長く広く考え、着実に実行できる。

そんな、”あたりまえ”のリーダーが現れますように、と。

 

――なんだよ、結局他人まかせじゃん。

 

ではでは、またね。