”全力を注げる幸せ"がここに! 『春や春」森谷明子 周回遅れの文庫Rock

幼い頃からスポーツは苦手だ(と思い込んでいた)ため

中学から高校にかけては、理科部と天文部に所属していた。

それも「部活」とは名ばかりの活動内容で

理科部は単なる「だべり部」であり

天文部に至っては「星」をダシにした「遊び部」に過ぎなかった。

天体写真を撮ったり観測記録を付けることもなく

毎週どこかに遊びに行ったり

校庭の片隅でバレーボールのトスごっこをするばかり。

夏休みに高校の宿舎があった山中湖畔に繰り出し

「観測」の名目で、夜になってから小高い丘の上に登り

寝っ転がって流れ星を数えたり、こっそり酒盛りを楽しんだりする。

ひたすら、ゆる~い部活動を漫然と続けていたのだ。

しかも名ばかりとはいえ、そんなグダグダ部活の

部長(実質は雑用係)まで勤めていた、苦労知らずの能天気ストである。

 

そんな〈元不良文化部長〉の目に

藤ヶ丘女子高校俳句同好会の活躍ぶりは

余りにも眩しいだけでなく

なんとなく過ごしてしまった青春を心底から後悔させるものだった。

 

――お前は、本当に己の持てるすべてを《それ》に注ぎ込んだことがあるのか?

 

正面から、そう問われたとき

恥や失敗だらけだった学生時代は言うに及ばず

辛うじて大学を卒業し

その後40年身を投じた「業界」での仕事を思い返してみても

――そうだ、俺は全力を尽くした!

と、胸を張って答えられる〈成果〉の余りの少なさに、愕然とする。

 

さらにまた、この作品の登場人物とさほど変わらぬスタンスで

「言葉を扱う仕事」を長年続けてきた自分自身に対し

――お前は、ここまでひとつひとつの言葉に真剣に向き合ってきたのか?

そんな問いかけに

卑屈な照れ笑いで誤魔化すぐらいしかできない己に直面し

二度とやり直すことのできない青春や

こういう年齢にならなければ決して気づくことの叶わない人生の皮肉に

かぎりなく深い溜め息をついてしまうのだった。

 

作品をダシにした自分語りばかりになってしまったが

早い話、60を過ぎたおっさんに

こんな感慨を吐き出させてしまうほど

登場人物たちは、惜しむことなく全力を俳句に注ぎ

全力で俳句甲子園のトップを目指すのである。

 

学生時代、全身全霊で部活動に燃えた方々はいうまでもなく

睡眠不足もなんのそのと惜しげもなく我が身を削るビジネスパースン

そして誰より、こうした「全力で頑張る面々」を

な~に熱くなってんだよ・・

と冷ややかに眺めていらっしゃる〈省エネ主義〉の方々に

ぜひとも、一読していただきたい。

 

全力をかけるって

こんなにも心を熱くするものだったんだよね。

 

ではでは、またね。