『円』に圧倒され、『カラヴィンカ』に引きずり込まれる 先月(2024年2月期)読んだ&揺さぶられた本 MakeMakeの読書録

今月13日に出るマレーシア旅行の支度で、徐々に忙しくなってきた

なんとかその前に沖縄旅行の記録を終わらせたいのだが

まずは毎月恒例の「読書録」を済ませたい

ちなみに先月読了した本(小説・それ以外・コミック)は以下の通り

 

2024.2

★『Re:ゼロから始める異世界生活』㉝ 長月達平

★★『つばき餡』 坂井希久子

★★『円 劉慈欣短編集』 劉慈欣 ★★『カラヴィンカ 』遠田潤子

★★『がん-4000年の歴史-』㊤㊦ シッダールタ・ムカジー

★『地図のない場所で眠りたい』 高野秀行/角幡雄介

乾隆帝――その政治の図像学中野美代子

昨年末から続いていたスローペースの元凶⁉『がん』(上下巻)を

ようやっと読了することができた

(厳密には本日1日までかかってしまった)

たぶん3月からは以前のペース(1月あたり十数冊)に復帰できるはず

 

〔コミックス〕

★★『BLACK LAGOON』①-⑬[⑬のみ初読] 広江礼威

★★『推しの子』①-⑬〔⑫⑬は初読]赤坂アカ×横槍メンゴ

★『怪獣8号』①-⑪〔⑩⑪は初読] 松本直也

 

結果、2月の《揺さぶられた本ランキング》は

【小説】『円 劉慈欣短編集』 劉慈欣 

    ※最初から最後まで圧倒されっぱなし(『円』は再読だが関係なかった)

     月並みだけど、ただただ凄い!! としか言いようがない

     とりわけ心に響いたのは、解説でも触れていたが

     ミクロな個人の営みとマクロな宇宙の視点が見事に融合しているところ

     この興奮と感動は、実際に読んだ者でないと絶対に分からない

     分厚くて少々とっつきにくいかもしれないが、ぜひとも手に取ってほしい

    ①『カラヴィンカ 』 遠田潤子

        ※『円』をさんざん褒めといてなんだけど、こちらも同着1位

     ひとたび本を開いてしまったら、もう先が気になって止められない

     行き先不明の特大ジェットコーススターに乗った気分で

     一気呵成に最後のページまでたどりついたときには

     とうに夜は明け、朝よりも昼に近い時間帯になっていた・・

     小説読みにとって、これ以上ない至福の一夜を送ることができた

     3年ほど前に始めた〈サイコロ読書システム〉のおかげで

     ずっと読みたいと思っていた遠田潤子だけど

     ツボはまったときの彼女の作品は、圧倒的な吸引力で迫ってくる

 

     もっと続けて読みたいが、"1作家2冊まで"という自己ルールを順守し

     (そうしないとどんどんジャンルが偏ってしまうのだ)

     あと一冊(『アンチェルの蝶』になった)でストップしておく

 

【小説以外】①『がん-4000年の歴史-』㊤㊦ シッダールタ・ムカジー

    ※読んだ内容が頭に入らず、いったい何度"寝落ち"したことか

     そのたび意識下途絶える少し前まで逆戻りしては、改めて読み直す

     そんな"七転び八起き的読書"を繰り返すうち

     上巻の半分を過ぎたあたりで、やっとのことで〈読書エンジン〉がかかった

     あとは一気呵成・・とまではいかないまでも、一行一行興味深く読み進め

     次々明かされる「意外な事実」に、目からウロコがポロポロボローー

     どこかSFにも通じるセンス・オブ・ワンダーの興奮を提供しつつ

     人類最大の難敵「がん」の正体とその治療法にまつわる

     "正しい現在地と未来予測"をきっちり示してくれる

     良質にして秀逸なドキュメンタリーである

     『円』なんて目じゃないほどとっつきにくいが

     がんのことをちゃんと知りたいんだったら、読まなくちゃ

    

【コミック】①『推しの子』①-⑬〔⑫⑬は初読]赤坂アカ×横槍メンゴ

   ※久々に新刊が出た『BLACK LAGOON』も捨てがたいけど

    ここはやはり"そこまでやるか!"の「推しの子」に軍配を挙げたい

    残念ながら、密かに願っていた"アイの生まれ変わり"は登場しそうにないが

    明らかにクライマックスが迫ってきた現時点においても

    いまだ先を予想しきれない展開にワクワクドキドキが止まらない

    (リアルタイムで連載を追ってないから、意外にあっさり終わってたりして)

 

    ともあれ、死神娘?を子役に引き入れるほどの"トンデモストーリー"が

    いったいどこまで弾けてくれるのか、期待と不安でいっぱいなのだ

 

              ではでは、またね。

島野菜は美味!だけど・・ 沖縄うたた旅 2024.1.28-31 2日目③ 大宜味村立芭蕉布会館🚘笑味の店

2024年1月29日(月) ホテル🚘PLOUGHMAN'S LUNCH BAKERY🚘名護城公園🚘大宜味村芭蕉布会館🚘笑味の店🚘芭蕉布会館

季節の島野菜をたっぷり使った家庭料理「まかちぃくみそぅれランチ」の味は!?

 

来た道を車で戻ることおよそ3分

さきほど通り過ぎた「笑味の店」脇の駐車スペースにレンタカーを入れる

そのすぐ先、街道とは反対側に店の玄関はあった

「笑味の店」の立て看板、その向こうが入口らしい

めんそーれ、いらっしゃいませと賑やかそうだが、店先はとっても静か

一瞬、誰もいないのかな?と不安になった

入口正面に立つと、「笑味の畑」の看板が目に入った

ぐるっとあたりを見回すと・・

道路を挟んだ向かい側にも「笑味の畑」の立て札が

どうやらこのあたり一面で、料理に使う様々な食材を育てているらしい

これなら採れたての島野菜が楽しめそうだ

入口右手には、本日のランチメニューが貼り出されていた

事前に料理の予約を入れていない客は、どちらかを選ぶスタイルだ

 

あけっぴろげな店の中に足を踏み入れる

誰もいないのかと思ったが、声をかけると奥から小さな返事が返ってきた

しかも思ったより広い店内では、7~8人の先客がテーブルについて食事中だった

そこそこの賑わいなのに、誰もほとんど声を出さない・・・なんで?

店内に貼ってあった「畑の地図」、予想より遥かに広大だった

おそらく生産効率など度外視し、農薬も使わず野生に近い形で育てているのだろう

徹底した自然志向が透けて見える

迎えに出た店の女性に名前と予約時間を告げると、奥の予約席に案内された

それにしても、何組もの客がいるのに話し声かほとんど聞こえてこない

ときおり耳に入るものの、それもひそひそ話のレベルだ

ひょっとして「会話は控えてほしい」みたいな暗黙のルールでもあるのだろうか?

表に出ていたメニューと同じものをテーブルに広げる

せっかくここまで来たのだからと、相方ともども色々な料理が楽しめそうな右側

「まかちぃくみそぅれランチ」(2100円税別)を注文する

ちなみに「まかちぃくみそぅれ」とは、おまかせという意味だという

ちなみに要予約の豪華版ランチがこちらの「長寿膳」

ランチ以外にも、氷ぜんざいやサーターアンダギーなどが食べられるらしい

 

風の音しか聞こえない(厳密にはたまに裏手の街道を過ぎる車の音が耳に入るが)

奇妙なほど静けさが漂う店内で、待つこと10分

大きな丸いお盆に載った「まかちぃくみそぅれランチ」が、目の前に現れた

目の前の畑で採れた島野菜をふんだんに使った、「笑味の店」の"おまかせランチ"

ざっと数えただけで十数種類の小皿料理が、大きなお盆いっぱいに並ぶ

いろんな島野菜があるみたいだけど、どれがどれだかさっぱり分からないなぁ

・・なんて思っていたら、ちゃんと「テキスト」が用意されてた

ひとつひとつの料理を丁寧に紹介・解説してある透明ファイル

確かにこれなら、それぞれの正体を学習しながら味わっていくことができるな

ーーーと、ようやく店内を覆う"奇妙な静けさ"の理由に思い至った

そうか、この店の静けさは教会の礼拝堂のそれに近い

もっと言えば、ここは島野菜料理を楽しむ食事処の息を超え

健康食である島野菜に関する知識や価値を学習する

"教育と信仰の場"に近いのではないだろうか

 

そんな裏読みをしたくなるほど

ひとつひとつの食材をじっくり噛みしめ真剣に料理に向き合い

ときおり言葉少なにひそひそ声を交わす利用客たちの

異様な雰囲気の説明がつかないのだ

 

翌日訪れる久米島の浜辺で

太陽に向かって両手を広げ真剣に祈りを若い女性を見た

それと同質の"スピリチュアルな沖縄"の一端を、島野菜の店にも見た

・・なんていったら、大げさすぎるかもしれないけど

料理の味そっちのけで、店内に広がる沈黙のワケに思いを巡らせる

この写真を撮ったときも、10名程度の客がテーブルについていたけれど

まるで無人の古民家にいるかのごとく、話し声ひとつ聞こえてこない

 

最初は料理に使われる島野菜について相方と話しつつ食べていたが

やがて周囲の静けさに圧迫されるように言葉少なになり

いつしかふたりとも黙々と食事に専念していた

 

気が付けば、膳に載せられた皿はすべて空になり

「ごちそうさま、おいしかったです」と店の人に声をかけて席を立つのだが

現実には、"身体にいい食事をいただいた"という記憶しかない

なんか口や舌より、健康長寿とか医食同源とか〈頭で味わった〉印象が残っている

間違いなく島野菜は美味しかった!

でも、どこか宗教っぽい"スピリチュアル臭"を感じてしまう

もっとフツーに食べればいいのにーーと余計なチャチャを入れしたくなったよ

たまたま店にいた間だけ、ヘンな空気が漂っていたのかもしれないけどね

 

ではでは、またね。

寒緋桜から糸芭蕉へ 沖縄うたた旅 2024.1.28-31 2日目② PLOUGHMAN'S LUNCH BAKERY🚘名護城公園🚘大宜味村立芭蕉布会館

2024年1月29日(月) ホテル🚘PLOUGHMAN'S LUNCH BAKERY🚘名護城公園🚘大宜味村芭蕉布会館

バナナの仲間のイトバショウ、食用ではなく幹から糸(芭蕉布)を作るのだ

 

感動的に美味しいパンを平らげたあとは、北谷から西海岸に出て一路北を目指す

一年前とは違い、空は見事に晴れ渡り、どこを見ても青い空と海ばかり

車の窓を開けては何度もデジカメのシャッターを切った

たぶん名護湾の手前あたり、1月末にしては上々の空模様だ

 

目指す大宜味村まで、残る道のりは4分の1ぐらいか

しかし時刻は10時半を回ったばかり

このまま直行すると予約より2時間も前に到着してしまう

せっかく天気もいいことだし、時間つぶしを兼ねて寄り道することに

名護市内に入ってから道を右に折れ、名護岳のふもとにある名護城公園を目指した

 

実はここ、ちょうど一年前にも寒緋桜を見ようと立ち寄ったことがある

そのときは、名護岳の頂上を目指したものの

ふもとから中腹まで登ったところで時間切れとなり、ギブアップ

天気の方も曇りがちだったため、花見も中途半端なまま立ち去っていたのだ

 

てなわけで、いざリベンジ! 

と、名護桜まつりの会場でもある名護城公園を再訪

今度こそ青空の下で存分に寒緋桜を眺めようと展望台付近で車を停めた、のだが・・

あちこちに立つ桜の木が妙に寂し気

それもそれはず、ほとんど枯れ枝といっていいほど花が咲いておらず

かろうじて日当たりのいい場所の枝先に、赤い色彩が認められる状態だったのだ

1年ぶりの名護城さくら公園だが、開花状況はせいぜい1分か

ようやく枝の先端がほころび始めた寒緋桜を、苦労してファインダーに収める

 

それでも天気のほうは一年前と違い、ほぼ快晴

気を取り直して、展望台の一番高い場所まで昇ってみた

展望台から眺める名護市街・・靄があるのか期待したほどではなかった

なにより景色を引き立てる寒緋桜の濃いピンクが、どこにもない

名護湾の沖合に何隻もの白い船が浮かぶ、何をしてるのかな?

 

もっと桜が咲いている場所を探そうと、展望台の奥に続く遊歩道へと車を進める

ここから名護岳のふもとをぐるっと一周する遊歩道は

速度制限はあるものの、そのまま車で走ることができるのだ

(一年前訪れた時にしっかりと確認しておいた)

 

点々と寒緋桜が並ぶ遊歩道は、普通車がやっとすれ違えるほどの細さ

対向車が来たら、時々設置された退避スペースまで後戻りする必要があった

ありがたいことにそうした事態になることは一度もなく

数分後には、東屋がたたずむ名護岳中腹の広場へと到着した

遊歩道の最高地点(たぶん)となる開けた場所

実は一年前に名護岳山頂を目指したとき、ちょうどこの"東屋ポイント"で時間切れ

そのあと展望台を訪れ、車に乗ってここまで来れることを知ったのだった

 

東屋周辺は日当たりがよく、麓よりも寒緋桜の花が多くみられた

・・といっても、せいぜい2分咲きといったところか

なるべく花の密度の濃い場所を探して、一枚

甘い蜜を出すのだろう、ミツバチがせっせと働いていた

 

無人の東屋で日向ぼっこをしながら、今年最初のお花見を満喫する

それから車に戻って、遊歩道の残りを踏破した(対向車は一台もなかった)

 

さあ、あとはランチの店まで一直線!

と言いたいところだが、まだちょっとし気が早い

予約した13時まで、1時間以上も余裕があったのだ

古宇利島を左に見つつ、国頭方西街道を北上してゆく

店の前で待つのももったいないから、先に大宜味村を攻略しよう

目指すは、大宜味村芭蕉布会館

沖縄の伝統工芸・芭蕉布のあれこれが見学できるらしい

しかも嬉しいことに、入場無料

 

予約した「笑味の店」の脇を通り過ぎ

3分ほど走れば芭蕉布会館のある集落・喜如嘉(きじょか)だ

公民館向かいの駐車場に車を停め、会館に続く緩い登り坂を歩いてゆく

と、左手に一面の鮮やかな緑が

芭蕉布の元になる植物・糸芭蕉の畑だった

バナナの木そっくりのイトバショウ

食用バナナ(実芭蕉)とは異なり、幹から採取した繊維で生地(芭蕉布)を作る

それにしても(食用)バナナそっくり

実際バナナかと見間違う実がたわわにできるが、種が多く食用には向かない

建物の入口手前には、詩人・山之内獏の歌碑「芭蕉布

では、お昼過ぎの芭蕉布会館に"おじゃまします"

広さはバレーボールのコート一面ぐらい(もうちょい小さいかな)

こぢんまりした空間に昔の道具や資料などの展示物、芭蕉布を使った品々、記念品、

芭蕉布作りビデオを鑑賞するエリアなどが設けられている

ここ喜如嘉で古くから伝えられてきた芭蕉布作りにまつわる品々

芭蕉布の一部を額に入れたもの、とってもオシャレなインテリアになりそう

芭蕉布製のお札入れに心が動くも、100パーセント手作りだけに・・・た、高い~

 

カウンターにいた親切な女性職員の説明を聞きながらあれこれ眺めていたら

あっというまに予約時間の10分前

2階の作業場で実際の芭蕉布作りが見学できるが、ちょうど昼休みなのだとのこと

それを聞いて、お昼ごはんを食べた後、もう一度おじゃますることを告げ

いったん芭蕉布会館をあとにする

建物の外に出て、背後に連なる丘を見上げると

抜けるような青空の下で、紅い花にも見える木々の梢が・・

道を挟んで駐車場の向かいには、喜如嘉公民館

開放的なようで気軽には入り難い、なんとも言えない佇まい

よく見ると、広い入口の軒先に

暖簾(のれん)のような簾(すだれ)のような、不思議な飾り物が

・・この土地独特の"しきたり"なのか、謎多き集落・喜如嘉

そのへんの探究は後にして、とりあえずは昼飯だ

島野菜料理で評判の「笑味の店」へGO!


ではでは、またね。

毎朝食べたい"ハードパン" 沖縄うたた旅 2024.1.28-31 2日目① ホテル🚘PLOUGHMAN'S LUNCH BAKERY

2024年1月29日(月) ホテル🚘PLOUGHMAN'S LUNCH BAKERY

一年前より遅咲きだったが、この春も可憐な寒緋に逢えた(名護城公園にて)

 

沖縄旅2日目は、ランチがメインイベント

北部大宜味村の「笑味の店」で島野菜を使った料理をいただくのだ

完全予約制だったので、出発前に予約を済ませておいた

とりあえず、その時間(13時)まで現地に到着すればいい

 

朝食はホテル徒歩圏でもよかったのだが

あいにく那覇中心部でこれといった店が見つからない

いい感じの空腹状態でランチに臨みたいから

近頃はやりのビュッフェバイキングはありえない

(朝食ごときに2000円払う気にもなれなかった)

かといってコンビニで済ませてしまうのも避けたいところ

 

結局、やんばるに向かう途中で朝から開いてるパン屋に立ち寄り

軽めのテイクアウトをしていこう、ということに

 

んで、あまり遠回りしない場所に適当な店がないかと探してみたら

ホテルから30~40分ほど北上した北中城に
PLOUGHMAN'S LUNCH BAKERY というこじゃれた名前のパン屋を発見

沖縄の店しては早い朝9時から営業しているみたいだったので

少しゆっくり支度して、朝8時半にホテル脇の駐車場を出た

 

朝の那覇は例によって通勤ラッシュがひどく

あちこちで小さな渋滞に巻き込まれたが

本島中央を北へ伸びる国道330号線に入るとスムーズに流れはじめ

9時10分過ぎごろ、小高い丘の中腹にある専用駐車場に停めることができた。

坂を上った正面に設置されていた店の案内板

表示の通り、駐車スペースは右に、店舗は左にと分かれており

両者は150メートルばかり離れていた

ちょっとしたお散歩気分で、丘の上に建つBAKERYまで登っていこう

 

ちなみに、開店直後&こんな辺鄙(失礼)な場所だというのに

早くも駐車スペースには2~3台の車が停まっている

もしや結構な人気店なのでは・・と遅ればせながら気づいた

 

前述の通り、パーキングを出てからいったん坂道をくだり

案内板の手前を過ぎて、しばらく細い道をたどると

左手の山腹に、小さな石段が上に続いていた

生い茂った木立に隠れるような数十段をよっこらせと登っていくと・・

ツタのからまるPLOUGHMAN'S LUNCH BAKERYの店先

パン屋さんというより、別荘とかコテージと呼びたくなるたたずまい

とにもかくにも、扉を開けて入ってみると

そこは、正真正銘のパン屋さんだった

入ってすぐ左手の棚の上に、まるまるとしたパンが勢ぞろい

あきらかに作り立てだとわかる、甘い小麦の香りを漂わせている

ざっと見たかぎり、総菜パン(おかずパン)的な品はなく

いずれも小麦粉ベースに色々な食材を練り込んで焼いた

いわゆる「ハードパン」のたぐいらしかった

 

パンが陳列されているのは、入口周辺のエリアのみ

その先に広がる店内にはテーブル席が並べられ

先客と見られる数組のカップルが静かに朝食(ブランチ?)を食べていた

 

店を切り盛りしているのは、髭の男性とそのパートナーらしき女性

どこかアーティスティックな雰囲気をまとっている

ひとことで言うと、頭のてっぺんからしっぽの先まで"オシャレなベーカリー"なのだ

ひょっとして、ここは味より雰囲気を楽しむスポットだったのか

・・・頭の片隅にひねた邪推が浮かぶが、気を取り直して目の前のパンに目を戻す

いずれも握りこぶし程度の大きさで、お値段は1個あたり400円程度

強気な値段設定だなぁと思ったが、すぐそんな先入観は消し飛んだ

適当に選んで購入した2つのパンが入った袋を持った瞬間

そのずっしりとした重さに驚かされたのだ

ーーこいつは、見た目よりもはるかに食べ応えがありそうだぞ

 

2個のハードパンが入った袋を抱え、徐々に膨らむ期待を胸に車へと戻った

しばらく走ったところで自販機を発見し、飲料ボトルを購入

そのまま車内でパンにかぶりつく

 

まずは、なんといっても絶妙な噛み応え

硬すぎず、そのくせ柔らかすぎない食感に引き込まれた

そして噛めば噛むほど押し寄せる小麦・バター・アーサーetcの風味・風味・風味

「味より雰囲気を楽しむスポット」だなんて、とんでもない

ここ数年、いや十数年で口にしたパンのなかで文句なしのナンバーワンである

 

初日入った糸満漁民食堂のときも頭をよぎったけど

今回の沖縄旅行は、かつてないほどの"グルメ運"に恵まれたらしい

たった3度の食事で「沖縄に来たら絶対入りたい店」が2カ所もできたのだから

 

おいしいパンだったね~~と相方と感動を分かち合いつ、一路車はやんばるへ・・

 

ではでは、またね

大衆食堂で"家庭の味"を 沖縄うたた旅 2024.1.28-31 1日目② 糸満漁民食堂🚘百名ビーチ🚘ホテルサン・クイーン👣お食事処三笠👣宿

2024年1月28日(日) 羽田🛫那覇🚘糸満漁民食堂🚘百名ビーチ🚘ホテルサン・クイーン 👣お食事処三笠👣宿

南部の絶景・百名ビーチ、日曜午後ながらほぼ無人

 

沖縄旅行の初日は、昼ご飯だけで十二分に満たされてしまった

とりあえず、車で数分の道の駅糸満をひとめぐり

道の駅で出会った「沖縄ナッツ軍団」、端から順に食べてみたい。

 

農産品市場でバジル、パクチーレモングラスなどを買い込んだものの

時刻はようやく午後1時を過ぎたあたり。

このままホテルに行って部屋でひと休み、という選択肢もあったが

15時まで待たなければチェックインは無理

 

せっかくのいい天気だし、日曜午後で混んでるかもしれないけど

30分ほど行ける南海岸のビーチでのんびりするか。

なるべく混雑してないところがいいかな

と、商業施設が少なそうな百名ピーチを目指す

 

南部の丘陵地帯をくねくね走り

農道らしき細い脇道を下ってしばらく進むと

数台の車が路肩に停車している場所に行きついた

前方に目をやると、鉄柵が立って行き止まりになっている雰囲気

どうもこのあたりからビーチまで歩いて行けるようだった

こちらもレンタカーを路肩に寄せて停車

鉄柵付近まで近づいてみると、右方向に踏み分け道が伸びており

その先に、白い浜辺と青い空が広がっていた

間違いない、こっちが百名ビーチ

傘の代わりになりそうな巨大な葉に見とれつつ踏み分け道を歩いてゆくと

100メートルも進まぬうちに、目の前の情景が一気に開けた

こちらが百名ビーチ、開花シーズンではなかったのかお花畑はどこにもなく

白いサンゴの浜辺には、緑色の海藻らしきものがべったり。

ちょうど干潮時間だったので、水面下のもろもろが露出していたようだ。

ちょっと見アオノリのような海藻が石の表面を覆う・・ひょっとして食えるのか?

 

「絶景ビーチ」という前評判が刷り込まれていたので

正直なところ期待外れの気分で、もう少し沖の方を眺めてみた

でも、よく見ると水はきれいに澄んでおり

沖に向かうにつれて海の色も黄色から水色、水色からマリンブルーへ彩を変える

ーーさすがは沖縄の海だ

ちょうど一年前に訪れたときは、ほとんど曇りか雨だったので

"晴れ渡った沖縄ならではのビーチ"を満喫することができなったのだ

 

日向ぼっこでもしながら、のんびり過ごすか

木陰を見つけサンゴの浜に腰を下ろした相方をよそに

何か生き物はいないかと、ときおり強い陽ざしが注ぐ波打ち際を行ったり来たり

浅瀬に顔を出した岩場、見ようによってはネッシーのような

雲が切れて太陽が顔を出すと、青い空と白い雲が一気に輝きを増す

1月下旬でも、沖縄の陽射しはかなり強烈だ

30分ばかり滞在しただろうか、徐々に雲が広がってきたので退散することに

短い間だったが、美しいビーチでゆったり過ごすひとときは格別だった

 

その後、1時間ほどかけて国際通りの先に地位するホテルへ移動

今回はエアーチケット+ホテル+レンタカーという3点セットだったので

ホテル自体は可もなく不可もなく、といったところ

客の大半が外国人(中国か韓国)なのはいつものことだが

今回、ホテルの専用駐車場を予約したのは、ちょっと失敗だったかも

専用と言いながら、実際はホテル脇の路地に作られた従業員用の駐車スペース

5台ほど並べて入れることはできるが、とにかく狭くて停めにくい

入口が近い分、荷物の搬入・搬出には便利だけど

車の前後左右をこするのではと、心配しっばなしだった

また泊まる機会があったら、近隣の格安駐車場に鞍替えしたい

 

ともあれ、部屋に入った時点で4時少し前

その後しばらくはベッドに寝ころびひとやすみ

晩御飯を食べに出かけたのは、すっかり暗くなった6時過ぎ

 

さて、なにを食べようか

とにかく昼の地魚料理が大満足だったので、海鮮はパス

定番の伝統的な沖縄料理といきたいところだが、正直まだあまり空腹を感じない

この半端な腹加減で名物料理を攻めると、食べきれずに苦労するかも・・

よし、ここは軽く「大衆食堂」にチャレンジしてみよう

 

ホテルが立つ国際通りの東端をスタートし

牧志駅前~市場通り入口~ブルーシール前まで一直線

その先を右に折れて久茂地橋を渡ることしばし
20分弱の時間をかけて、目指す大衆食堂へとだどりつく

地元客でにぎわうお食事処 三笠、大衆食堂なのに夜9時まで営業している

安くて旨いとの前評判通り、到着時(18時30分)にはご覧の行列

最後尾につきながら「こりゃ1時間は覚悟するか」と覚悟するも

長居する客が少ないのか、30分少々で店内に案内された

 

とりあえず瓶ビールを注文して、お疲れさま!の乾杯

だが、酒のつまみになりそうな料理はメニューに並んでおらず

沖縄そば以外は、みなライスとみそ汁がセットになった「定食」ばかり

なるほど、ここは"酒を楽しむ店"じゃなく"ご飯を食べる処"なのだな

気を取り直し、ぞれぞれ700円程度の格安定食を注文した

相方が頼んだのは、ひき肉を使ったかつ丼?っぽい定食

こちらは確か豆腐と肉の炒め物、だったような記憶が・・

どうせすぐに忘れるんだから、メニューを撮っとけばよかった

お茶碗二杯分あろうかというごはんに

"ここは食欲旺盛な人向けの食堂なのだな~"と納得

そういや、若い男の一人客がやたら目についた

(ちなみに相方は完食できず・・)

 

もちろん、味の方も高水準

ただし、味付け自体にさほど驚きはない

観光客が喜ぶような、いゆわる"沖縄料理"とは異なる

ほんとうに、地元の人々が通う昔ながらの大衆食堂なのだ

店内の雰囲気も含め、普段着の沖縄を体験するには格好のスポットじゃないかな

 

ではでは、またね。

漁民食堂で地魚の旨さに目覚める 沖縄うたた旅 2024.1.28-31 1日目① 羽田🛫那覇🚘糸満漁民食堂

2024年1月28日(日) 羽田🛫那覇🚘糸満漁民食堂 

沖縄の魚は旨い!!と気づかせてくれた、ビタローのバター焼き定食

 

昨年秋から年末にかけて、ラオス・台湾と海外の旅に出たものの

円安ドル&ユーロ高の昨今、懐を気にせず楽しめる渡航先がなかなか見つからぬ

悩んだ末、「暑いときは北、寒いときは南」という近年のパターンを踏襲

比較的安いオフシーズンの〈沖縄3泊4日レンタカー付き)に決めた

ちなみに料金は2人合わせて63000円、割増料金なしのJALなら高くないだろう

 

そんなわけで、海外とは違い緊張感ゼロで出発日の朝6時過ぎ

羽田空港第一ターミナルに到着

いつものように自動チェックイン機の前に立ったところで、はたと気づいた。

・・・・あれ? eチケットってどこにあったっけ??

そう、海外旅行2連発で、パスポートさえあればチェックインできると思い込み

eチケットのプリントアウトを、きれいさっぱり忘れていたのだ

(座席の予約だけは予約と同時に済ませていた)

 

ひょっとして、これは出発前日に他のツアーと勘違いしてキャンセルしてしまった

昨年秋の北海道(帯広)ツアーに続く大失態なのでは・・

すーーっと血の気が引いていくなか、近くにいたJALの職員に事情を説明した

すると、「利用する便と身分証明書があればチケットを売れ取れますよ」との答え。

指示されたカウンターで便名・氏名(身分証明書)・申込時の電話番号を確認し

無事、チケットを発行してもらうことができた

そうでなくても年々記憶力が低下し、念を入れて確かめる必要があるのに

すっかり旅慣れた気分で、重大なチェックを怠ってしまうなんて・・

旅行前のチェックリスト作成と確認作業を、必須手順として心に刻みつけるのだった

 

なにはとれあれ、首尾よくチケットをゲット

搭乗時間とにらめっこしながらラウンジでコーヒーを一杯

30分前にゲートに着くと、朝のラッシュで登場案内のスタートは10分前だった

★JAL903羽田発720⇒1020那覇

予約と同時に座席指定を狙ったけれど、キャンペーン期間だけに旅慣れた客か多く

進行方向右の窓側で残っていて席は、翼の真上のみ。

こりゃ景色は期待できないか、と観念しつつ窓の外を眺める。

定刻より15分ほど遅れて滑走路へ。多少時間がかかろうと、無事がいちばん。

どんよりした曇り空の下、東京湾を後に一路南へ

この空模様じゃどのみち富士山とのご対面は厳しいか、と諦めたのだが・・

離陸後しばらくすると、いつの間にか雲の層は消失

気が付けば、翼の後方に純白の富士山が!

いつ、何度見ても感動してしまう。特に積雪期の富士は格別だ。

調子に乗って、無人の山頂にズームイン!

ありがとう、今回もいいもの見せていただきました。

 

それから"音楽鑑賞&読書ときどきうたたね"のひと時を過ごし

はっと目覚めたときには、機体は沖縄上空へと到達

定刻より20分ほど遅れたものの、無事滑走路に滑り込んでいた

 

その後、レンタカーに乗り込むまではいつも通り

早い便だったおかけで、時刻はまだ11時を少し過ぎたあたり

せっかくだから、美味しいランチでも食べにいこうか!

気合を入れて向かったのが、空港の南・糸満にある有名レストラン。

糸満漁民食堂」だった。

 

店の脇に設けられた駐車スペースに着いたのは

12時まで15分といった頃合い

当然満車で、しかも2台ほどが路上で空くのを待っていた

ずっと待つのも嫌だし、やめとこうかな・・一瞬挫折しかける

だがここで妥協し、道の駅などでお茶を濁してしまったら、いつもと一緒だ

ランチだから長居する客は少ないだろうと思い直した

運転席の相方を残し、店の入口へと向かう

糸満漁民食堂の看板。店の前には順番待ちする客のためのベンチが点在していた

予想通り客の名を書き込むシートが入口の脇にあったので、迷わず記入する

その後、15分ほどで空いた駐車スペースにレンタカーを停め

先に待っていた客と一緒に、じわじわ順番を待つ

「食堂」というネーミングに反して、店内は明るくオシャレな雰囲気

入ってすぐの場所に魚の名を並べた黒板があり、すでに半分ほど消されていた

目玉メニュー「本日のイマイユ(地魚)バター焼き定食」の種類なのだろう

人気のある(or希少な)魚から順に、早い者勝ちでオーダーするシステムらしい

 

とはいえ脇に並ぶ値段を見ると、一番安い魚でも半身で1980円とある

前菜やデザート込みのセット料金と考えれば決して高くはないものの

実はこの時点で、バター焼き定食を注文する気はなかった

なぜなら、昨年秋から冬にかけて行なった宮古&沖縄旅行の際

「おいしい」と評されていた魚(刺身など)が、どれを食べてもいまひとつ

やっぱり魚介類は、旨味が濃縮された北(北海道)のほうが旨い!!

なんて思い込んでいたのだ

そんなわけで、ふたりとも魚汁定食(1480円)を注文するつもりだった

 

ところが、たまたま順番待ちで後ろに並んだカップルが地元の常連客

彼氏のほうが「ビタローは旨いから食べたほうがいい」とアドバイスしてくれたのだ

(ビタローとはフエフキダイの仲間の呼び名)

・・・そんなに言うなら、せっかくだからダメもとで食ってみるか

徐々に気持ちは傾いていった

 

いっぽう思ったよりも早いペースで順番待ちは進む

先に7~8組の名前が書きこまれていたので、1時間待ちは覚悟していたけど

開店と同時に入った客が続々と店を出る時間帯だったのだろう

到着から30分少々で名前を呼ばれ、無事着席

黒板を見ると、一番安いビタローの半身が残っていたので、迷わず注文する

これが噂の「イマイユのバター焼き定食」

よく見ると、前菜・デザートともに充実しており、総額1980円は安いものだった

白木のテーブルを前に、冷たいさんぴん茶をいたたぎながら出来上がりを待つ

注文を受けてから焼き始めるので、そんなにパッとは出てこない

メニュー表と一緒に置いてあった「いとまんのさかな」一覧を眺める

この真ん中あたりにある「フエダイ」の仲間が、ビタローの正体らしかった

まずは前菜が登場、新鮮な刺身に特製の「しびれ醤油」がビッタリ

しかも、これはなんだ?・・・妙に美味しい!

今まで口にした沖縄の魚とは、どこか違う気がする

続いてはメインディッシュ、イマイユ(ビタロー)のバター焼きが登場

まずは「半身だから小さいだろう」という先入観があっさり覆される

そして、アオサたっぷりのバターソースをまとうビタローの白身をひとくち

ーー初めて知る沖縄地魚の"おいしさ"が、口のなかにひろがった

北の海に棲む魚介類の"分かりやすい旨味"とはまるで異なる

噛みしめれば噛みしめるほど、じわりじわりと湧き出してくる極上の風味・・・

 

文字にすればするほど鎮撫になっちまうな

とにかく食べてほしい

そうすりゃ何を伝えたいのかが、まるっと分かるはずだ

「一食は百言に如かず」ーーってとこか

 

あと、相方がオーダーした「魚汁定食」もメチャ旨!!

この一食で沖縄の魚(地魚)に対する評価が180度ひっくり返った

それくらいの、いわばカルチャーショックだった

デザートに選んだ豆も絶品モノ

魚汁定食とバター焼き定食、両方頼んで食べ比べて本当によかったよ~

いきなり「この旅でイチバン!」を引き当ててしまったようだ

いや、これまで10回近く沖縄を訪れたなかでもナンバーワンかもしれない

それくらい衝撃的なひとときだった

 

残る3日間でもう一回食べに来ようか、とも思ったが

これまで数百日を旅先で過ごしたきたものの

〈2回目が初回の感動を上回ったケース)は一度もなかった

ここはぐっと我慢し、愉しみは次回の沖縄旅行まで取っておくのだ

 

ではでは、またね。

愉しもう、一度しかない生と死を  『飛族』 村田 喜代子 引用三昧 -37冊目-

いろんなことを感じ、様々なことを想いながら読んだ

きっと読み返すたびに、頭や心に浮かぶ想いは違うのだろう

解説で桐野夏生が触れていたけど、ちょっとだけ死ぬのが怖くなくなる      

 

枯れ木は火力が足りないため、死人が出るとすぐ人々は山に木を伐りに入った。伐り出される生木-まなきの半端でない量に、人焼きは木焼きであると知った。人が死ぬと大勢の木が死ぬ。まるで木の殉死だ。島では穴を掘って土の中に埋-いけ込む。岩礁の島だから深くは掘れない。それで島では犬は飼わないのだ。猫ばかりいる。犬は穴掘りの名人だから埋け込んだ死人を掘り出すという。                                                             [9]

海女は子どもを産んでも、中年になっても、小娘のような乳房で小腰で引き締まった腹部をしていた。魚のような流線型の肢体でないと素早く水に潜れない。                   [11]   息を止めて水深、二十から三十メートルも下りるような海女は、次の息を吸うまでに海草の林を分けてアワビを獲って上がって来るる。豊かな乳房も尻も潜水の敵である。

 こうしてみると人間の老化ほど激しい肉体現象があるだろうか。魚は老いない。鳥も老いない。老いても外見で姿形が変わるものでない。長生きの象でさえ、人間の年寄りの体ほどに崩れてしまうことはない。                                                                             [12]

「しかし電気や電話よりもっと高いインフラがあるぞ。何か知っとるか?」              「うむ。水は雨水の濾過-ろか装置ば入れて、これまたカネはかるが‥‥」                「そんなもんは屁のカッパじゃ」                                                                                      と役場の鴫さんはみんなの顔を眺め渡して、                                                                 「本土から生活物資を運んで来るものは何じゃ? 病院も学校もなくていいが、これだけは止めるわけにゃいかんぞ」                                                                                         あーっ、と鴫さんたちは、そのとき一時に気が付いたような声を上げた。               「定期船か!」                                                                                                                  役場の鴫さんがうなずいた。声を潜めてみんなを見た。                                              「そうや、一つの島に定期船を出すだけで、船の油代が年間二千万じゃ。そのほかに船のメンテナンスとか、そんなものは入っとらん。週一日のばさまの足代じゃ」             ウミ子はそろそろとテントの影から後ずさった。何と途方もないおカネだろう。月に五、六万円の生活費で暮らしている年寄りに想像もできない額である。                        八人の女年寄りが住む祝島はいい。まだいい。養生島は二人である。二千万円の札を束にして積んで見せたら、イオさんは何と言うだろう。ソメ子さんはどんな顔をするだろうか。                                                                                                                              [26]

「とにかく無人島には問題があるのね」                                                                         「でもお年寄りばかりの島も、別の意味で危ないです。無人島と間違えて入って来た密航者たちと、突然、お年寄りが島の中で出くわしたらどうなるか。どっちもびっくりするでしょう。もしか驚いた侵入者に危害を加えられないとも限らない」 [38]       

「いや、あの、出て行かれても、困るんです‥‥」                                                         と前を行く鴫が振り返った。                                                                                         「イオさんたちが出て行くと、ここも無人島になってしまいます。国境に近い島がまたひとつカラッポになるんですよ」                                                                                      人の住む島は海の砦-とりでと同じだと思う。人が去ると砦はカラになり、侵入者がそこを占拠する。                                                                                                               「無人島を一つ分捕ると、国境線の位置が現実にズレ込んでいきます。国境は動かしようがないけど、実際にはいろいろ物騒なことが起こるかもしれません」                        離島の争奪合戦は、椅子取りゲームみたいなものだと鴫は言う。海に散らばった島々は、格好のゲームの椅子である。いつどの椅子が空くか、虎視眈々-こしたんたんと狙う眼がどこかにあるのだろうか。                                                                                  [40]

イオさんたちが水死人に敏感なのは、海で働いてきたからだ。海に潜ると少なくない水死体と遭遇するのである。死人は漁師や海女、船乗り。養生島の近くの海域だけでも、海底を浚-さらえば過ぎた歳月の数だけ死者の数は積み上がる。                                     海域をもっと広げると旅客船の沈没事故もある。太平洋戦争で激戦区となった海底には何千何万の艦・飛行機が沈んでいる。それから世界の海のあちこちで起こる津波の死者。昔から陸地で人間が死んできたように、それよりもっと広い海洋も人間の死に場所となってきたのは当然だ。                                                                                                 生きている人間の数は微々たるものだ。死んだ人間の数は歴史時代以前から始まる時間に比例する。ウミ子は死んだ者を呼び寄せるのは、パンドラの箱を開けるようなものだという気がする。際限がなくなるに違いない。                                                            [50]

「この絵は、あのミサゴですか」                        「そうよ、ミサゴは海ん神様じゃ」                        とソメ子さん。嵐よけの神様らしい。                      「カツオドリの旗もあるでしょう? こないだ揚げてた」               「ああ、カツオドリは豊漁の神様じゃ」                     鳥は何でも神様になるのだろうか。                       「そんならハチクマは?」                           立神岩の当たりで見た大きな鳥柱が目に浮かぶ。                「あの鳥は岬の森でスズメバチを食う。それでハチクマという。陸の鳥じゃ」     「でも渡りをするでしょう? 海の上を飛んで行くじゃないですか」       「何千キロも渡る鳥は陸も飛べば、海も飛ぶんじゃ」               ソメ子さんが歯のない口で笑った。灰色の尖った舌が震えた。女の年寄りは鳥に似ているときがある。                                                               [58]

「だいたい国境なんて線引きが無理なんですよ」                 と思い出したように鴫が言う。                        「中国の浙江-せっこう省辺りから筏-いかだを流したら、十日ぐらいでこっちに着くって父が言ってましたよ」                            ウミ子も昔、ベトナム難民の船が漂着して騒動になったことを思い出した。     島を出た後のことだ。                             波の上に国境の線引きは難しい。                                                 [67]

「ところで鯵坂-あじさかさん。ミサゴって英語で何ていうか御存知ですか」      ミサゴの英語名だと?                            「知らないわ。聞いたことないです」                      ウミ子は首を横に振る。                           「英語ではね、オスプレイっていうんですよ」                  まさか、と鴫の顔を見た。テレビや新聞に出る図体が大きいアメリカの軍用機が目に浮かんだ。ずんぐりむっくりした胴体の両翼にザリガニの爪みたいな、不格好なプロペラを付けて、飛行機のくせにホバリングして垂直離着陸をする。あれは不気味な形だ。「機械が生きものに似てくると気味が悪くなっていくわ。似てこられて本物の鳥のミサゴの方が可哀想」                              「ええ、まったく。ミサゴは格好良い鳥です」                  鴫がしきりにうなずいた。                                                        [67]

海水の養分がなくなったのは近隣の島の森が伐採されたからだ。森の土壌から流れ出る養分が海を肥やし、大量のプランクトンを育てる。もし地球上からすべての陸地がなくなれば、海はただの巨大な水溜まりになるだろう。                  [88]

「陸の上なら国境線を超えて入るとすぐわかりますよね。しかし海に国境線は引かれていませんからね。つまり陸上みたいな検問所というものがないんです。だから密漁とか何か実際の違法行為をやらない限り、日本の領海内を通るだけなら外国船だって航行できるんです」                                 すると海ほど防備の不完全な国境はないのだった。日本はそんな曖昧な水の境界線に国中が取り囲まれている。                           「ただし、日本の領海に密漁船が入ってくれば警告を受けますよ」        「そのときは追い出していいのね」                      「だから向こうも考えているんですよ。彼らはわざと時化-しけの海をめがけて、船団を組んでやってきたりします。海上保安庁の船が渓谷に出て行くと、嵐に遭って避難しにきたと言うんです。避難と聞けば日本は逮捕できません」            「そんな手口があるのね」                          「百隻近くの船団で来ることもありますよ。全部で千人くらいの漁民が乗っていたりするときもある」                                そうなるとこちらの島民の方が少なくなる。想像すると恐ろしい眺めである。       [89]

戦時中の皮の軍靴が渚に打ち上げられたり、中から人間の足の骨まで出てくることもある。現役時代、イオさんたち海女はアワビやカキ、サザエなどを採取しながら、よくそうやって古い遭難者の霊も拾い上げた。                                                                    [109]

浜には食べられる海藻のほかにも、貝殻や流木、ハングルや中国文字の入ったプラスティックな容器や瓶、缶なども雑多に流れ着いている。人間が暮らしに使う物はどうしてこんなに汚いのだろう。ゴミになるしかないものばかり。                                      [111]

 

200ページをいくらか超える程度なので、半分以上来てしまった

生と死にまつわる深イイ話は、ここよりも先で待っている

ぜひご自身で手に取り、噛みしめていただきたい

 

ではでは、またね。