"物語の万華鏡"から目が離せない! 『世界堂書店』米澤穂信 編 周回遅れの文庫Rock

ミステリーの名手・米澤穂信による、傑作小説のアンソロジー

日本、アメリカ、イギリス、フランスはもちろん

中国、ギリシャフィンランドウルグアイなどなど世界中から選び抜かれ

発表された時期も19世紀半ばから20世紀末?までと、150年を股にかける。

だけに作品によっては文体が古く、すんなり頭に入ってこない場合もあるが

そこは"噛めば噛むほど・・"との譬えを持ち出したくなる、文字通りの傑作揃いだ。

 

むろん、食べ物に好き嫌いがあるように

全ての作品が個人個人の嗜好とシンクロしないことも、また自明の理である。

そんなわけで、選者・米澤穂信

「これらは間違いなく素晴らしいと言いきれる(388p)」作品群の中から

畏れ多くも、"これ、好きだなあ~"と断言できるものをピックアップしちまおう。

 

ぶっちゃけ、冒頭の数編は、みな十数ページという短さだというのに

最後まで読み通すのが、楽ではなかった。

直前に読んだ7~8冊がリーダビリティ抜群のエンタメ小説たっだからなのか

すんなり物語の世界に入り込むことができず

"慣れない土地にどぎまぎしているうちに帰国便に駆け込んだ"ような

ザラザラした違和感と疎外感ばかりが残ってしまったのだ。

・・・もしや、ラノベかエンタメしか楽しめない頭になってしまったのか!?

 

ようやく、眠り続けていた〈霊波アンテナ〉がビビッと立ったのは

己の読解力に絶望を感じた始めた、6編目。

シュテファン・ツヴァイクの『昔の借りを返す話』だった。

編者曰く「これは気高く素晴らしい短編だ、と簡単に片付けるわけにはいかない」

という但し書き付きだったが、落ちぶれた元舞台俳優の涙に胸が熱くなる。

 

ひとたびレールに乗ってしまえば現金なもので

7編目以降の諸作品は、安打製造機さながら快く打ちまくってくれた。

ジュール・シュペルヴィエルウルグアイ)『バイオリンの声の少女』は

大人になるにつれ失われる〈能力〉を描いた物語。

これは、普遍の真理だろう。

キャロル・エムシュウィラーアメリカ)の

『私はあなたと暮らしているけれど、あなたはそれを知らない』は

ホラーともサスペンスとも異なる、不可思議だけど心地良い読み応え。

レーナ・クルーンフィンランド)『いっぷう変わった人々』は

「バイオリンの声の少女」に通じる"子供だけが持つ不思議な力"がテーマ。

三人の主役の一人、アンテロがどんな未来を迎えるのか、気になって仕方ない。

 

そんなふうに、気が付いたときには

何の苦労もなく、ひとつひとつ作品世界を満喫していた。

おそらく、車や自転車の運転と一緒で

久しぶりに"この手の小説"を読む場合は、多少の〈慣らし運転〉が必要なのだろう。

そういう意味では、前半の5作品には悪いことをしたのかもしれない。

 

ともあれ、いずれ劣らぬ快作?揃いの本作品集のなかでも

ひと際深い爪痕を刻み込んでくれたのが

ヒュー・ウォルポール(イギリス)の『トーランド家の長老』。

受け取った想いは、編者の解説?と見事に一致する。

もう本当に、やめて上げてほしい。読み進めるに従って、本の中に入り込んで「やめて! もう許してあげて!」と声を上げたくなる。394p

うたた的には、コンバート夫人の"悪へと続く善意"が、メチャ怖かった。

 

さらに激しく胸を鷲摑まれたのは

パノス・カルネジス(ギリシア)の『石の葬式』。

遺体の代わりに石ころが入っていた棺が見つかるところから、物語は始まる。

探偵役の神父が、この謎を追いかけるうち

村ぐるみで秘匿されていた、"ふたごの姉妹をめぐるエピソード"が明かされてゆく。

この姉妹の"美しさ"と"放浪の旅"に、たまらなく心を惹かれる。

加えて、思いもよらぬ結末が、鮮やかな色どりを添える。

おれの悪魔には翼があるんだよ、神父さん。353p

 

これもまた、マジック・リアリズム、ってやつなのだろうか。

いずれにせよ、パノス・カルネジスは要チェックだ!

 

ではでは、またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"生きる意味"がわかる、かも 『ほの暗い永久(とわ)から出でて』上橋菜穂子 津田篤太郎 周回遅れの文庫Rock

なんのために生まれ、なんのために生き、なんのために死ぬのか。         そういう問いかけは、「生物としての人間」の在り様にとっては、問うても意味がないものなのに、なぜ、問うように、脳ができているのか。〈中略〉          答えがないと、わかっているにもかかわらず、私は、繰り返し思わずにはいられないのです。なんのための「生」なのだろう、と。20p。

 

精霊の守り人』『獣の奏者』『鹿の王』シリーズの作者・上橋菜穂子

母の死を看取る日々の中で知己を得た、聖路加国際病院医師・津田篤太郎と交わした

往復書簡を、一冊の本にまとめたものである。

最大のテーマは、冒頭に引用した文章に象徴されているが

大樹が枝葉を一杯に拡げるように、「性とは」「死とは」「宗教とは」「創作とは」

「心とは」「身体とは」「命とは」など、多岐にわたる深い思索が綴られている。

 

なかでも面白いのは、小説家と医師という異なるスタンスの個性が交流することで

空想にも実証にも偏らない斬新な"推論"が、次々紡ぎ出されてくるところだ。

たとえば、「性と死」をめぐる考察は、以下のように展開していく。

 

「性」とは、親と異なる遺伝子を産み出すことで絶滅リスクを回避するシステム。

だがその結果、遺伝子を提供する〈両親〉は「死」すべき存在となった。

スペースや栄養分を食いつぶしてクラッシュするのではなく、性を通じた世代の交代により、個体は自らの実態を失い、他の何者かへ変化していきます。性のシステムが進化を推進するエンジンであり、個体に"寿命"という期限を設けたというわけです。32p

とはいえ、なるべく多くの遺伝子を生き残らせ、その遺伝子を長く、長く、伝えていく

ことこそが生物(人間)の"生きる意味"だ、なんて言われても納得できるわけがない。

本書にも、同じ疑問が提示されている。

大切なのは遺伝子で、あなたではない。あなたの生命は遺伝子を残すという重要な作業のために消えるようにセッティングされているのですよ、と言われて、なるほど、それはすばらしいですね、そのために私は生きているんですね! と、思って、死を納得できる人は、どのくらいいるものなのでしょう。73-4p

 

こうした、文字通り"等身大の"推論と考察を重ねるうち

浮かび上がってきたのが、以下の感慨?だった。

それにしても、人の心と身体の関係は不可思議です。                   命を繋ぐのに都合が良いように、信じられないほど巧妙にできている生物の身体。環境が変われば、それに適応できるように変化する余地をもっているほどに巧妙で、生き延びて、遺伝子を、どこにも存在しない「最終目的地」へ届けるために、ただひたすら進化してきた身体。                                でも、人の心にとって最も大切な「私という個」は、人の身体にとって、遺伝子ほどには重要ではなくて、やがて次世代に場を譲るために消え去るよう、巧妙にセッティングされた乗り物に過ぎない。                          「私」が消えることを恐れ、続くことを願う心と、生命を存続させる必要がある間は、生きたいと思わせるように出来ている一方、時が来れば崩壊するよう促していく身体。私たちは生まれ落ちたその瞬間から、果てしない矛盾を生きるように定められているわけです。158-9p

――なんだ、結局、〈矛盾〉と〈不可思議〉を語って終わりかよ!

文字面だけを摘み上げ、そう皮肉る方がいるかもしれない。

しかし、それでもうたた(俺だ)には、上記の〈不可思議〉な〈矛盾〉に

言いようのない"暖かさ"を感じ取ってしまうのだ。

 

ここまでざっくりたどった『生(性)と死問答』の他にも

本書の中では、細い目を思わず見開く刺激的な考察が、縦横に展開されてゆく。

おそらく読者によって、"食いつかれるポイント"は異なるだろう。

それでも、真剣に"生と死"を考えたことがあれば

きっとどこかで、痛みにも似た衝撃を体験できるはずだ。

 

最後に、個人的にいちばん「やられた!」文章を紹介して終わりにしよう。

多くの人は、意識せずとも、心の深いところで感じているのかもしれません。産むとい行為も、生まれるという行為も、魂を永遠から有限の世界へと引きだす、死への歩みをはじめさせる行為でもあるのだ、ということを。                 それはなんとも、哀しく虚しく、そりゃないよ、と言いたくなる、やるせなくて容赦ない真実です。75p

 

ではでは、またね。

 

 

 

 

 

 

 

 

体調不良の夏が来た!? MakeMakeの日々楽々・・なのかなぁ

昨日、午後あたりから

歩こうとして立ち上がると、右足の土踏まず周辺に痛みが発生。

「いたっ!」と呻いては、片側だけ爪先を上げ、"カカト歩き"に改めている。

実はこの足の痛み、10年ほど前からほぼ1~2年に1回のペースで起きており

最初の頃は、いよいよ痛風になってしまったか!?

などとビビッて調べてみると、どうやら単なる炎症らしく

2~3日も経てば自然に治ってしまうので

今回も"またこの季節?が来たか"程度のぬるい対応に終始している。

少なくとも、あわてて病院に駆け込むことはせず

とりあえず「様子を見る」のがスタンスだ。

受診したところで、十中八九は"しばらく様子を見ましょう"と言い渡され

せいぜい鎮痛剤や整腸剤を処方されるのがオチだから。

 

なので足の痛みは受け入れているのだが

本日の午後になってから、やたらとお腹がギュルギュル鳴り出した。

明らかに腸の中で異常発酵(ガス発生)が起きている。

朝&昼食の内容を振り返ってみたが、いつも通りで思い当たるものがない。

あるとすれば、暑い中を買い物に出たせいで喉がカラカラになり

牛乳にコーヒーを入れたものとグリーンダカラを、がぶ飲みしたことぐらいか。

トイレに行っても、なお遠雷のようなグルグルは治まらず

キーボードで文章を入力しながら、「しっかりしろ」と腹を叩いている。

 

ま、飲食物そのものに問題があれば、過敏気味の我が胃袋は

すかさず"ゲコゲコモード"に突入するはずだから

おそらく冷たい水分を摂りすぎて腹(腸)を冷やしてしまった・・・

というあたりが正解だろう。

せいぜいお腹にタオルや手を当て、温めてあげることにしよう。

 

そんなこんなで、中身のガキは変わらぬまま

肉体ばかりが、そろりそろりとポンコツになっていく。

そういえば、片道一時間の"ブックオフウオーキング"も

連日の"三十℃越え"の元で強行すると、もうその夜はグダクダだ。

ブログを更新する余力など、どこにも残らない。

要するに、無理はできない身体になってしまったのだな。

 

それと、ようやくピークを過ぎた印象のある「第七波」だが

ついに隣家で一家全員がコロナの陽性になった。

最近の感染状況を見る限り、どれほど気を付けようと

罹るときは罹ってしまうようだ。

幸い、3回目のワクチン接種は済ませているから

感染しても命に関わるリスクは少ない・・と思っておこう。

いずれにせよ、2年前から「なるようにしかならない」と覚悟しているので

たぶん「なるようになる」んじゃないかな。

賛同してくれたのか。

いままた、お腹がグルッと鳴った。

 

んで、こんな"むずかる"お腹を抱えたまま

「格安!!」の売り文句に誘われて

来月末の札幌旅行(2泊3日)を予約してしまった。

だって、安すぎだろ。

レンタカー付の北海道(成田-新千歳便だけどホテル付き)が

2人で総額3万円台なのだから。

同じ日程で温泉旅館のハシゴも考えたが

最低でも1泊1万は覚悟しなければならない。

それ以下の金額で、2泊3日の札幌旅行(車付き)に行けるなら

普通、そっちを選ぶよな~。

 

ではでは、またね。

安旨旅行のシメは、"台湾ラーメン"だ!  北見&帯広ふたり旅 2022.6.6-9 4日目 帯広ホテル🚗道の駅りくべつ🚗麵屋創介🚗女満別空港🛫成田空港

2022年6月9日(木)帯広⇒道の駅りくべつ⇒麵屋創介⇒女満別空港⇒成田空港

             青空は続くよ、どこまでも・・

 

帰りの飛行機が、女満別空港1540発。

帯広市内から空港(レンタカー会社)まで3時間以上かかるので

今日はあまりのんびりできない。

朝8時前、ホテル1階でシンプルな朝食を摂り、9時すぎには出発した。

 

        車窓からこの手の写真ばっかり撮っていた。

 

皮肉なことに、朝から天気は見事な快晴。

余裕があれば真鍋庭園に立ち寄るところだが、ぐっと堪えてまずは足寄方面へ。

見渡す限り広がる畑の真っただ中を1時間ほど走り

道の駅あしょろ銀河ホール21で、最初の小休止。

 

   手前は普通の「道の駅」だが、奥の白いビル(半カケ)はほぼ"松山千春館"。

  

やたら立派な建物の中は、松山千春の歌声が響き渡る。

地元出身のシンガー・松山千春の記念館が併設されていた。

たぶん出資者なのだろうけど、ファンはもちろん興味も関心もないので

売店などをぐるっとひと回りして、トイレに寄っただけで出発する。

 

  道の駅りくべつ前の風景。余りに空がきれいなので、反対側を撮ってしまった。

ますます緑と青空が色濃くなる道を北へ40分ほど走り

少々早いが、「オーロラタウン93りくべつ」という道の駅で二度目の休憩。

足寄のそれとは違い、手作り感あふれるローカルな雰囲気に無条件で好感を抱く。

農産物直売所を兼ねた売店のレジでは

地元のおばちゃんたちが世間話に花を咲かせていた。

 

 「なつぞら」サイン色紙コーナー。連ドラの力は絶大だ。ちなみに右下がスピッツ

 

見ると、目立つ壁の一角に

NHK連ドラ「なつぞら」出演者たちのサイン色紙が、何枚も貼ってある。

知らなかったが、この辺りもロケの撮影で使われたとのこと。

見学に来たのだろう、主題歌を歌った(相方に教わった)スピッツのサインもあった。

 

    トイレ(男子)のステンドグラス。開町90周年を記念したものらしい。

         おそらくこれは「冬場の超低温」がモチーフ。

 

観光客向けのお土産品と一緒に、手作りの品が多く並んでいたり

トイレ(男子)の窓も地元の風景を取り入れたステンドグラス(風)だったり

細かなところに工夫が凝らされていて、なんだか居心地のいい場所だった。

 

   よく見ると「銀河鉄道999」じゃないか!・・乗ってみたかったなあ。

 

あまり長居はできないからと、車に戻る途中で電車(一両)と駅のホーム?を発見。

そういえば足寄(道の駅)の中にも、鉄道駅っぽい一角があった。

後日調べると、ふるさと銀河線りくべつ鉄道という路線があり

年に5回だけ(4往復)運航するのだという。

 

そうか・・昔はJR(国鉄か)の路線があったんだっけ。

残念ながら、40年近く前に青春18きっぷで北海道一周をしたときは

今回車で走った足寄~陸別間には乗らなかったけど

その代わりに、昔の鉄道旅行のことが次々頭の中に蘇ってきた。

年末年始にかけて急行の夜行列車で青森まで。

青函連絡船で函館に渡ってから、鈍行また鈍行を乗り継ぎまくった。

除夜の鐘を合図に真っ白な雪に包まれた松前神社にお参りしたり

吹雪の中の浜頓別駅でひたすら乗り継ぎ列車を待ったり

朝五時に紋別から乗ったガラガラ列車で網走を目指したり・・

とんでもなく懐かしい情景が、脳内再生されてゆく。

    

    事故多発ルートっぽい十勝オホーツク自動車道を、ひた走る。

 

あ、いや、大昔の思い出話じゃなくて、2か月前の旅記録だった。

道の駅を出発し、遅れを取り戻すべく十勝オホーツク自動車道に乗って北見を目指す。

最近、事故のニュースでこの道の名を何度か目にしたけど

とても走りやすく、スピードが出せそうな(だから事故るのか!)ルートだった。

 

       「麵屋創介」入口。店内の撮影は丁重に断られた。

 

予定通り12時過ぎには、北見市内のラーメン店「麵屋創介」前に到着する。

ここで提供される「台湾ラーメン」を、ぜひとも食べたかったのだ。

運良くテーブルが一台空いており、すぐに注文することができた。

 

       名物(のひとつ)台湾ラーメン。舌の記憶に残る味。

 

味のほうだが・・

ずっと運転してきた疲れから口数が少なくなってた相方が

一口すすって、思わずつぶやいた。

――おいし~い。

かなりスパイシーで辛みが強い。

しかしその辛さが重さに結び付かず、楽々と食べれてしまう。

なるほど、確かに台湾っぽい、"ライトな辛さ"だ。

口に出してこそ言わなかったが

なんでわざわざ北見まで来てラーメン食べるの?

というオーラを発散していた相方が

食べ終わる頃には、すっかりゴキゲンになっていたのだ。

 

そんなこんなで今回の旅は、ホテルの朝食(無料で付いていた)を除けば

〈食事〉に関しては、ほぼほぼ100点満点をつけられそうだ。

ビアファクトリーの地ビールや、安くて旨い"帯広二連発"は言うまでもなく

セイコーマート豚丼に至るまで、うまいうまいの連続。

これじゃ、近いうちにリベンジするっきゃない!

 

            さらば北海道! また来るね。

 

・・と思っていたら、10月下旬に旅の予約を入れてしまった。

今度のルート、帯広インの女満別アウト。

でもってホテルは旭川三連泊だ!

―――ていうか、一番安いセットを探したらそうなっただけ。

追加料金ゼロのホテルは旭川市内の3軒だけ、とか・・。

旅費は今回よりも4000円ほど高いが、羽田発着なのでよしとする。

 

ではでは、またね。

「寄宿舎+乙女+Fushigi」の王道ファンタジー 『ひみつの階段➀➁』紺野キタ 周回遅れのマンガRock

しばらく開いていないと

無性に手に取りたくなるマンガがある。

本書もそのひとつで

2010年に入手して以来

だいだい2年に1回のペースで"禁断症状"に襲われ

そのたび書棚から抜き出しては

冒頭作『ひみつの階段』から順番に読んでいる。

なので最新のRe-readでかれこれ6-7回目になるのだけれど

まったく飽きることがなく、最初の1ページから紙面に引き込まれ

終始幸せな気分のまま2巻目のエンドマークへと到達。

そして、いつも必ずーー続編、出てくんないかなぁ。

と、せんない夢を呟いたりしている。

 

いやいや、決して、認知症を患っているわけではない。

事実、同じような"マイ殿堂作品"で

何度も読み返しているマンガは少なくないのが

多くの場合、印象的な場面やエピソードが近づけば

"・・そろそろアレが来るな"と、先の展開を思い出すのが常なのだ。

 

では、なぜ、本書に限って

何度読んでも飽きることなく、常に新鮮な気分で読み通すことができるのか。

おそらくそれこそが・・・おおっと、ここまで全く内容に触れずに来てしまった!

遅ればせながら、簡単なあらすじをば。

第一巻の背表紙には、次のように記されている。

不思議な出来事が起きる寄宿舎で

少女たちは友情を育み、悩み、大人へと成長していく。

心温まる学園ファンタジー!!

 

もう少し具体的に捕捉すると・・

舞台は、寄宿舎を併設した古い女子高校(だよな)。

歴史ある学び舎の常で、「七不思議」的な言い伝えが語り継がれている。

最も有名なのが、本書の表題でもある『ひみつの階段』。

3段ほどしかない渡り廊下の階段を踏み外した、と思ったら

一階分もの長い階段を転落。

暗闇の中で痛さにうめいていると、同じく階段を踏み外したらきし女学生と遭遇。

足首をひねったという彼女に肩を貸して階段を昇り、仕切り扉を開けて振り返ると・・

そこには誰もおらず、3段に戻った階段だけが足元に伸びている。

という「学校の怪談」なのだった。

 

季節は、衣替え前の初夏。

慣れない寄宿生活にようやく馴染み始めた「夏ちゃん」が

この「秘密の階段」を体験するところから、物語は幕を開ける。

どうやら他の生徒たちよりも、"霊感"?に秀でているらしき「夏ちゃん」は

その後も、様々な〈学校の不思議〉に遭遇。

やがてそれらが、"付喪神(つくもがみ)"のように魂を宿した古い寄宿舎の悪戯で

様々な世代の少女たちが、時を超えた出会いを繰り返していることに気づくのだった。

 

・・てな感じで、とんでもない仕掛けを秘めた学園のなかで

夏ちゃんと寄宿舎仲間・同僚・先輩・後輩・教師・寮監(老婆)など

幾世代にも折り重なった夢と希望と不安と挫折が、万華鏡のように交錯していく。

そのくせ、毎回物語の背骨を支えるのは

"祈れば叶うご都合主義のファンタジー"ではなく

生徒や教師、さらにもっと上の世代が抱える等身大の悩みや願いだったりする。

だから、夢見がちな少女たちの「おとぎ話」だとは知りながらも

ついつい感情をシンクロさせ、一緒になって、はらはらどきどきしてしまうのだ。

 

いうなれば、ファンタジーという大風呂敷のなかで

小さな"想いの玉"がコロコロ転がっているような、些細なエピソードばかり。

殺人や暴力はもちろん、大げさなアクションも呪文も登場しない

そうした〈薄口ストーリー〉だからこそ

何度読み返しても、飽きることがないのだと思っている。

 

もちろん個人的には、作者・紺野キタが描く絵柄が大好物という要素も大きい。

ひと昔前の少女マンガを思わせる(川原由美子とかが近いかな)

輪郭のくっきりした、そのくせ優しい線画は、何回だろうと見とれてしまう。

また、王道少女マンガならではの「手書き文字ギャグ」や「花背景」なんかも

ひかわきょうこ渡辺多恵子に親しんできた読者には、たまらない魅力だったりする。

 

そんなこんなで恒例《2年に一度の紺野キタWeek》は、絶賛継続中!

おりしも『つづきはまた明日(全4巻)』の2冊目にさしかかったところで

清(さや)ちゃんの可愛さと、リカコちゃんの「底値っぷり」に心を震わせている。

必ずしもベストセラー作家ではないけれど

間違いなく紺野キタは、マイ・フェィバリット・クリエイターのひとりなのだ。

 

ではでは、またね。

この3本で"1作品"。 文句なしに面白い! 『翼を持つ少女㊤㊦』『幽霊なんて怖くない』『世界が終わる前に』山本弘 周回遅れの文庫Rock

「BIS(ビーアイエスビブリオバトル部」シリーズの

第1作から3作までに相当する小説群である。

ちなみに「ビブリオバトル」とは

発表参加者が、自分の好きな本を順番に紹介。

すべての発表後に参加者全員で「一番読みたくなった本」に投票し

最多票を集めたものを「チャンプ本」に決定する

いわば〈お勧め本アピール合戦〉。

実際に学校・図書館・地域イベントなどで行なわれているこのビブリオバトル

臨場感たっぶりの青春小説に仕立て上げたのが、本シリーズなのだ。

 

メインの舞台は小中高一貫の美心(びしん)国際学園、略称BISで活動している

その名もズバリ「ビブリオバトル部」。

ここにSF小説が大好きな15歳の少女・伏木空(ふしきそら)が入部するところから

物語は始まる。

まず、迎え入れた部員たちが、"濃い人"ぞろい。

ノンフィクションしか読まない事実至上主義者の埋火武人(うずみたけと)

サイエンス部との掛け持ちで、科学関係書に特化した菊池明日香(きくちあすか)

ボーイズラブ命の混血少女、小金井ミーナ。

唯一の中等部生、かわいいものが好きな少年・輿水銀(こしみずぎん)

関西弁を駆使する話巧者の部長・安土聡(あづちさとし)、という5名。

 

こんな一癖も二癖もある個性派読書人たちが

各自「これぞ!」と思うオススメ本を熱く語り合うのだから

さぞかしウンチクやオタクトークが飛び交うのだろうな・・と、思いきや。

確かに、"好きな本について語り合う"幸せそうな情景だったり

紹介する本の背景を知るために必要な情報とかは提示されるものの

なにより「ぜひとも、この本を読んでほしい!」という

ひとりひとりの〈書物愛〉が強烈に伝わってきて

"読書中毒者仲間"としては、とてつもなく嬉しいのだ。

 

小学生の頃から"SF沼"にはまっていたので

なんといってもイチオシは、天然SF少女・伏木空。

逆に、「SF小説=絵空事=くだらない」と軽蔑しまくる

ノンフィクション至上主義者・埋火武人には

一刻も早く己の〈愚かな勘違い〉に気づいていただきたいと祈るばかり。

なので、話が進むにつれ

「SF小説の面白さを認めてほしい」と、武人に挑み始めた空にどんどん感情移入。

いったいどうやって武人をギャフンと言わせるのか?

みたいな興味をメインに、1作・2作と読み進んでいったのだ。

 

ーーところがところが。

シリーズ第3作『世界が終わる前に』に至り

なんと物語は、登場人物たちの〈心の裡〉に深々と斬り込んでいく!

まさに「やられた!?」としか例えようのない衝撃は

これはもう、読んでもらうしかない。

とにかく何年ぶりかで、本のページを開いたまま

うーーーん・・と、唸ってしまったのだ。

 

そんなわけで、ひとつだけ、心からのアドバイスを。

本作「BIS(ビーアイエスビブリオバトル部」シリーズを手に取ったのなら

是が非でも、3作目『世界が終わる前に』までは読み通していただきたい。

面白いか、面白くないか。

評価を下すのは、その後でお願いする。

 

少なくとも本が好きで、何百冊と読み継いできた人であれば

この面白さに感動しないはずない!!

・・と、言い切ってしまうのだ。

 

実は、2作目までを読み終えた時点では

自分自身がSFの魅力に捉われた「火星シリーズ」や「レンズマンシリーズ」

ハインラインの名作群や「砂の惑星」「ハイペリオン」など

ビブリオバトルに便乗して〈SF小説の魅力〉を語ってやるぞ!

などと目論んでいたんだけど。。。

3作目の衝撃で、ぜ~んぶ吹っ飛んじゃったよ。

 

ではでは、またね。

今月(2022年7月期)読んだ&揺さぶられた本 MakeMakeの読書録

連日の猛暑が続いたおかげで

片道1時間の"ブックオフ・ウォーキング"にも出かける気になれず

録画番組の視聴と読書ばかりに時間を費やしていた。

おかげで今月も読書量が増え、ほぼ2日に1冊のペースとなった。

内訳は、こんな感じ。

なぜかシリーズものが多かった。

 

2022.7 

★★※『鹿の王④』★★『鹿の王 水底の橋』上橋菜穂子 

★『萩の餅 花暦 居酒屋ぜんや』★★『朱に交われば』坂井希久子

★『武士道シックスティーン』『武士道セブンティーン』

 『武士道エイティーン』『武士道ジェネレーション』誉田哲也

★★『翼を持つ少女㊤㊦』『幽霊なんて怖くない』山本弘

★『正真正銘 五ツ星源泉宿66』小森威典 ●『子規の音』森まゆみ

★★『ほの暗い永久から出でて』上橋菜穂子 津田篤太郎

★『枕元の本棚』津村記久子

 

〔コミックス〕(※は読み返し)

★※『夏目友人帳㉒~㉘』緑川ゆき

★★※『GUNSLINGER GIRL 全15巻』相田裕

●『勇気ある者より散れ➀➁』相田裕

★★『葬送のフリーレン➀~⑧(※➀-⑥)』山田鐘人/アベツカサ

★『税金で買った本➀-③』ずいの/系山冏

★★※『ひみつの階段➀➁』紺野キタ

 

ちなみに、《今月面白かった本Best3》は

【小説】①『鹿の王(水底の橋)』

    ②『翼を持つ少女(BISビブリオバトル部シリーズ)』

    ③『朱に交われば』 

【小説以外】①『ほの暗い永久から出でて』

      ②『正真正銘五ツ星源泉66』ーーの5作

コミックは、『GUNSLINGER GIRL』と『ひみつの階段』。

かけ離れた内容だが、甲乙付け難い面白さだ。

『フリーレン』も悪くなかったが、どこか物足りなさを感じてしまった。

 

ではでは、またね。