『日本人はどう死ぬべきか?』 養老孟司 隈研吾 / 引用三昧 21冊目

心に留めておきたい言葉がありすぎ、取捨選択に四苦八苦。

気がつけば、全部マーカーの色で染まった参考書みたいになっていた。

心を鬼にして、特にビビっときた「金言」を厳選したつもり・・なのだが

わずか90ページで"お腹いっぱい"になり、ギブアップ。

月並な表現だが、目からウロコがボロボロ落ちる音が聞こえるぜ。

 

第一章 自分は死んでも困らない 笑って死んでいった父

僕は太平洋戦争の直前に生まれて、幼少期は戦争中です。それこそ、死は日常でした。僕の場合は、死と自分というものの距離が、最初からものすごく近かったわけです。この世とあの世との橋を渡る、その感覚がとても身近にある。その中でいつしか、死は眠りと同じで、僕たちは毎日寝ている。だとしたら、それ以上は考えても無駄、以上、となっていきました。 [14]

 

イマジネーションのないやぶ医者

死というものは、個人に関して言うと「時間」の話です。でも、他人から見ると、その人がいる、いないの「空間」の話になるんです。他人として死を語ることはできます。でも、自分の死は、あくまでも生きているうちの話です。だから、自分の死を考えても、それは無駄の典型ですよ、と僕はお答えします。[20]

 

第二章 年を取った男はさすらうべきだ  年寄りのいない田舎がフロンティア

養老 若い人たちが今、移るところは、ただの田舎じゃないんです。

隈 どういう田舎なんですか。[25]

養老 つまり、年寄りのいない田舎なんです。若い人にとって、年寄りって邪魔なんですよ。だって既得権を持っているでしょう。田舎っていうのは一次産業がなければやっていけないところで、そうすると畑のいいところは全部、年寄り連中が持っている。                       

 

隈 田舎に夢を描くことと、現実はまったく違う。

養老 ただ、それは田舎という土地がだめなわけでなく、田舎にいる年寄りがだめということが多い。年寄りで今、地元に残っている人たちというのは、僕らの世代から団塊の世代まででしょう。そういう人たちが既得権を持ってしまっているからで、ものごとが動かない。テレビのニュース番組で農業の後継者問題なんかを取り上げると、田舎のじいさんが「後継者がいなくて‥‥」と、こぼしているんだけど、「お前がいるからだろう」って、思わず画面に向かって言いたくなることがある。年寄りって、いるだけで邪魔という面があるんです。[26]

 

養老 年寄りは万事にあまり固着しない方がいいんじゃないか、ということです。そこに住んでいるのはしょうがないけど、邪魔にならないようにしましょうよ、ということです。芭蕉西行は、若い人たちの邪魔をすることなく晩年までうろうろしていたじゃないですか。あんな感じがいいなあと思っています。[28]                  

 

日本人の50%は本音とは逆のことを言う

養老 隈さん、僕は最近「日本人50%論」という論を立てることに興味があってね。

隈 どういうものなんですか。

養老 要するに日本人というのは集団の中で50%の人が本音の反対を言う、つまりウソをついているんじゃないかという人間観察論です。例えば原発について100%の人が賛成したとしても、そのうち50%はウソをついていて、実際の本音は半々なんですよ。同じように全員が反対だと言っても半分はウソを言っていて、本音は五分五分になる。これって、賛成八割、反対二割だったとしても、結局本音は五分五分になるんです。

隈 賛成の八割と、反対の二割のそのぞれ半分がウソをついているということですね。                              

養老 つまるところ、日本人の本音はいつでも半々だということなんですね。

隈 どんな問題に対しても、日本人の本音は五分五分で、どっちつかずだということなんですね。

養老 そう。この論が面白さは、「日本では半分の人間がウソをつく」という、シンプルな仮定だけがあるところなんです。[29]

 

隈 お金を儲けることが企業の目的なのに、会議でそれを言ってはいけない。だから日本の会議は、すごくフラストレーションがたまります。しかも「この人は、何を言いたいんだろうか」と思惑が分からなくても、そこで「あなたは何を欲しているのですか?」と聞いたら、場が「それを言っちゃあおしまいよ」みたいにしらっとなって、本当におしまいになる。大企業の会議は不思議な雰囲気が漂っています。[31]                 

 

ロンドンで知った日本人の甘さ

養老 盧溝橋事件の本質って、決して日本の「侵略」ではないんです。そんな単純な話ではなく、要するに、中国が覚悟をもって策略した、中国における本土決戦ということなんですよ。つまり、中国本土に日本軍を引き込んだんだから。

隈 当時は満州国の勢いがありましたから、中国はそれに対して真剣に危機感を持っていたことでしょう。

養老 満州国というものが既定路線で、できあがりそうになっていた。うっかりすると中国の金持ちも満州に投資をした方がいいという流れになっていたんです。そんな中で日本に最終的に勝つためには、日本軍を本土に引き込んで持久戦に持ち込むしかない。そのように中国の首脳は決断したんです。

隈 逆に言うと、それに乗せられてしまったのが日本軍だったんですね。

養老 僕は終戦の時、小学校二年生でしたが、日本軍が「一億玉砕」と本土決戦を豪語していながら、結局、決戦は沖縄でしか行われず、広島と長崎に原版を落とされて降伏したことが腑に落ちていなかった。要するに、日本軍は本音では本土決戦をやる気はなかったんだな、と後から気が付いたんです。

隈 日本の軍部は甘かった。

養老 そうなんです。甘いんですよ。それで敗戦後、欧米人が日本で戦争の責任を追及すると、「あの場の空気では、ああするのはやむを得なかった」という話になった。欧米人たちは、「そんな非論理的な理由はあり得ない」と怒る。

欧米では子供のころから主体が存在するとうことを思考の原則として叩きこまれるでしょう。だから「戦争責任の追及」という行為が可能になるんです。何であんなことになったんだ、それはナチが悪い、ヒトラーが悪いと、個人の責任に行き着く。

隈 でも我々日本人は、その物語構造を共有していないですよね。

養老 日本で戦争責任を問うと、「あの場の空気がそうだったんですよ」となる。隈 日本人にとっては、それがある意味で最も客観的な見立てになります。[34]

 

隈 脳科学を研究している人たちが、「果たして人間に自由意思というものはあるか」という考察をされていましたよね。

養老 それ、論理的に突き詰めると、「完全なる自由意思の存在は否定せざるを得なかった」という結論になったんです。

隈 自分の日常を考えたって、自分が全部決定しているわけではなくて、天気とか体調とかによって左右されます。周りの景色とか雲の動きとか相手との関係性とか、そういうものが全部関与していますよね。

養老 それこそが日本人なんです。だから国際社会から戦争責任と言われても、今一つぴんと来ない。[35]

 

養老 日本の経済で最も伸び代-しろが残っているのは、実は社内の効率なんです。

隈 日本の会社の効率が低いというのは有名な話です。

養老 その核心の原理が、日本の場合は「面倒」という言葉にあるとアトキンソンさんは言っています。ほら、何か新しいことをしようとすると、「それをしたら面倒なことになりますよ」と必ず言われるでしょう。

隈 いや、本当です。

養老 「それはちょっと面倒ですな」という話法が必ず出てくる。それは事態が面倒なことになるんじゃなくて、お前が面倒くさいだけだろうということなんだけどね。[38]                      

 

親しい人の遺体は解剖できない

養老 心理学でいろいろ言われていますが、例えば政治家だって、一度でも顔を見たことのある人物って強い影響力を持つんですよ。彼らは人に顔を見せると票になるって分かっているから、あんなにニコニコして握手して歩くんです。         

隈 握手でいえば、先生は以前、解剖では手にメスを入れる時が一番抵抗があるっておっしゃっていましたね。手には顔以上に、三人称も二人称に引き寄せる妙な力があるんじゃないかなって気がします。 [41] 

 

心臓を別に分けて埋葬するハプスブルク家

養老 最近、イギリスのBBCが作ったテレビドラマ『SHERLOCK』が話題になったでしょう。あの番組を見た人が、死体のとらえ方、扱い方にびっくりしたと言っていました。

隈 どんなことをするんですか。

養老 要するに現代版のシャーロック・ホームズが活躍する話なんだけど、そのシャーロック自身が「高機能ソシオパス(超優秀な社会不適応者)」という現代的な設定になっていて、死体にめちゃくちゃ鞭を打って、どのような痕が付くか、平気で調べたりしている。あと、テロリストのハイジャック情報を得た国家機関が、ハイジャックされる予定の飛行機の中に死体を詰め込むとか。そうやって、偽-にせの乗客を入れた飛行機をテロリストに乗っ取らせて、爆撃できるようにするんです。

隈 ぎょっとしますね。

養老 乗客の死体には子供のものもあって、そういうものをM16(イギリスの秘密情報部の通称)は有事のためにちゃんと保管しているというお話になっている。本当かウソかは知りませんよ。ただ、隈さんがおっしゃったように、あっちの人って、人間の死体に関して家畜的な取り扱い方ができるメンタリティがある。[46]                             

養老 もう、甲野さんなんか典型でしょう。「そんなこと、やめたら?」みたいな目で見られている人が多いんですよ。でも、僕は「自分が人と変わっているのは当たり前じゃないか」ということを言い続けているから、それで背中を押されるみたいですよ。僕の本を読んだ人から、「気が楽になりました」とよく言われるもの。変わり者って、社会にとっては貴重で、簡単につぶしてはだめで、何かの形でブレイクをさせてあげなければいけないんですよ。[49]

 

「ごみ置き場」のようなお墓を作る

隈 日本でお墓が建つようになったのは何年ぐらいからでしょうか。

養老 ヨーロッパでもそうなんですが、時代によってずいぶん違うんです。

古墳時代の日本は、偉い人には墓がありましたよね。でも、日本の場合、忠誠の一般人は風葬がほとんどです。神奈川の鎌倉なんか典型で、ちょっと土地を掘ると骨だらけなんですよ。

隈 ああ、鎌倉ではいっぱい出てくると聞きますね。

養老 いっぱい出てくる理由は、溶けないからなんです。中世の時代は残った骨を海岸に埋めていた。海岸は中性の土壌だから骨が溶けないで残るんですね。でも、関東地方だったら関東ローム層という酸性の土地なので、骨は全部溶けちゃいます。

ヨーロッパは骨が溶けずに残る土壌です。中世のヨーロッパもよっぽど偉い人以外の個人の墓は珍しい。とにかく教会の共同墓地ですね。それで骨だらけとなります。[54]                             

 

自宅で葬式をしない日本人

養老 SARSの致死率は平均11%と言われていますからね。だったら日本では、マダニにやられる方が危ないかもしれませんね。マダニのウイルスの死亡率は、SARSと同じかそれよりも少し高いかぐらいでしょうかね。人類にとってはこれぐらいの致死率が、一番きついんです。それ以上に高くなると、人類側の生存者も減って、細菌やウイルスもろともに死滅してしまう。アフリカのエボラウイルスが、凶悪なものなのに、これまで世界で爆発的に流行ってこなかったのは、致死率が80%近かったからということもあるんですよ。そこまで高いと、地域の部族全員がやられちゃうので流行りようがないんです。[61]

 

「命は自分のもの」という思い込み

隈 養老先生は、死ぬのだったらこの病気で、というのはありますか。

養老 考えたことがないですね。やっぱり自然に年を取って、何も分からなくなって死んじゃうのが一番いいんでしょうね。癌みたいに余命とかがあんまり分かっちゃうのも嫌だね。最近は余計なお世話で、余命はいくらですとか言われるじゃないですか。

隈 治療の選択肢もいっぱい出てきましたしね。

養老 そうそう。五年生存率が48%とか訳が分からないよね。本人にとってはゼロか百なんだもん。だから、僕は考えないようにしています。だって毎日寝ているんだからさ。つまり毎晩、意識がなくなっているんだから、別にそこから戻ってこなくなっても何の不思議もないですよ。 [62]

 

隈 若年の自殺は痛ましい限りですが、昨今の世の中では親子心中も後を絶ちませんね。

養老 それは日本では、子供は親のもの、特に母親の一部という意識があるからなんです。昔の間引きの習慣もそうです。生まれた直後までは母親の一存で生死が決まる。

そんな間引きの意識が後まで残っているのが無理心中の形なんじゃないかと思います。その延長が、高校生になった子供を保険金目的で殺すような親ですよね。無理心中と同じで、子供が親の一部だから、そういうことをする。自分のものだから、どうやってもいいでしょう、という意識だと思いますよ。 [64]

 

養老 戦争中や戦後みたいに極端な食糧難の中では、人間は自分でも思いもよらぬ悪事をします。その悪事の中で、善悪のバランスと自分が生き延びていく感覚がある程度、身に付いていくんだけど、今の人は悪事の方の感覚がまったくない。平和ボケとはつまりそのことで、子供のために安全を追求していると思い込んで、それがすべての言い訳になる。そういう人って、状況次第では殺人を犯しかねないんだけど、そこについては、全く思いが至らないんですよ。

隈 新聞記事にある犯人像って、普通の人というのが多いですよね。

養老 殺人犯の身近にいる人にたずねると「あの真面目でおとなしい人が‥‥」っていう紋切り型が返ってくるでしょう。

隈 真面目でおとなしい人が時々人も殺す、ということなんですね。

養老 それを他人だと思わないで自分だと思わなきゃいけないんだけど、今やそのバランスがまったくなくなっている気がします。 [66]

 

飛行機墜落死は怖いか

養老 「死」そのものについては、実は語れることってないんですよ。だってそれは、あるようでないようなものだから。共同体から言えば、誰かがいなくなるということですけど、本人から言えば関係ないんだもの。自分が死んでも、困る自分はもういないよ。[69]

 

「死」と「定年」の恐怖

隈 男と女で生命力が違うとか。

養老 それはもう分かりきっていることで、女性の方が強いに決まっているんですよ。哺乳類は女性の方が平均寿命が長い。哺乳類の染色体は女性がXXで男性がXY。メスの染色体が基本で、そこから作られるのがオスなんです。そうやって無理して作られているからね、オスは弱いんです。[82]

 

日本で一番自殺するのは中年男性

養老 自殺はそれぞれの国によって特徴が出ますね。自殺の原因にはまず世界的、人類的な傾向というものがあるんです。だいたい一人あたりの名目GDP(国内総生産)の増加と比例して自殺が増える。エジプトだったら十万人あたりの自殺者はほとんどゼロですよ。自殺が増えるのは社会の価値観が変わった時ですよね。

隈 ああ。

養老 貧乏が当たり前の社会から、豊かさが当たり前の社会になる時に、質的な切り替わりが起こるんでしょう。その狭間で何かが起こるんですね。

隈 東京~高尾を結ぶ中央線でよく飛び込みがありますが、不思議なことに国分寺とか、あのあたりが起こることが多く、都心ではあまり飛び込まないんですね。

養老 それか総武線の千葉側ですよ。

隈 人が死ぬ場所に、地勢が出る。

養老 まさしく狭間ですね。[83]

 

養老 人って、あんまり働くと周りに迷惑が掛かるよ。仕事というものに対しては、適度な距離がなきゃいけない。一番いい仕事をする人って、本来は仕事に関心がない人なんです。ただし、建築家は全然違いますよ。組織の仕組みの中にある人と、何かを作らなきゃいけない人は違います。        

隈 建築家も、一個一個の建物で傑作を作ろうとすると、ストレスで破綻-はたんすると思います。傑作って作ろうとして作れるものではなく、偶然を待つしかない。気楽な気分でいないと、精神的にまいってしまいます。[88]

 

仕事に本気にならない距離感

養老 仕事に対してあんまり真剣になり過ぎないように、というのが僕のアドバイス。ほかに好きなことが何か一つでもあればいい。それがない人が、自分の仕事に真剣になっちゃう。でもしょせん仕事なんて、誰かが代われるものなんです。そういうことに真剣になりすぎるって、逆にいえば使い物にならないということですからね。気を付けた方がいいです。[91]

 

長くなりすぎぬよう

折り返し点のだいぶ手前でストップをかけた。

冒頭のくり返しになるが

読んでガッカリする人は少ないと思う。

ぜひとも元本を手に取り、精読してほしい。

 

ではでは、またね。