「生命って何?」を知りたいなら、とりあえず読もう 『新版 動的平衡2 生命は自由になれるのか』福岡伸一 周回遅れの新書Rock

"遅読スパイラル"にハマッていたのがうそのように

あっという間に読み終えてしまった。

それくらいメチャクチャ面白い読み物である。

著者の嗜好と一致する部分が少なくないこともあるが

(バッハの曲、特にゴルドベルク変奏曲が好きなとことか)

なにより、前作に勝るとも劣らない「気づき」と「発見」のオンパレードに

年甲斐もなく瞳をキラキラ輝かせてしまった。

 

なんとかその〈凄さ〉のカケラでも伝えられないかと

特に脳内アンテナがピピッと立った箇所を、紹介していきたい。

 

まずは、遺伝子は音楽における楽譜】

ある生命体の遺伝子は、その生命体が生きているあいだ、ずっと同じように活動し続けるわけではない、というより、必要となったある一時期、あるタイミングにタンパク質合成の設計図を提供するにすぎない。つまり、私たちの身体のどこかに、その設計図を開くときに遺伝子をオンにするスイッチがあるのだ。57p

ひとつ例を挙げると第二次性徴期、いわゆる「思春期」である。

通常なら誰の身にも起きる、繁殖態勢への身体的変化だが

成長ホルモンが分泌される量もタイミングも、ひとりひとり異なっている。

つまり、全く同じ遺伝子(楽譜)を持つ個体でも、その現れ方(演奏法)によって

大きな違いが生まれる。それこそが生命の多様性に繋がっているのではないか。

・・という考え方だ。

たぶん、遺伝子は音楽における楽譜と同じ役割を果たしているにすぎない。記された音符の一つ一つは同じでも、誰がどのように演奏するかで違う音楽になる。遺伝子はある情報で私たちを規定するのと同時に「自由であれ」とも言っている。そう考えたほうが、私達は豊かに生きられるのではないだろうか。61p

 

【進化で重要なのは「負ける」こと】

今から六五五〇万年ほど前、巨大隕石の墜落?による地球規模の大異変が語られる。

大火災が発生し、衝突時に巻き上げられた塵埃が地球全体を覆い、長時間漂い続けた。そのことによって気温が急激に低下した。大型化しすぎた恐竜たち、海に大繁殖していたアンモナイト類など七割近い生物がこの変化に耐えきれず絶滅していった。     生命の進化の過程で重要なのは、実は「負ける」ということである。一度、負けることによって、初めて新しい変化が選択される。小さな身体で夜だけ活動し、穴ぐらや地中に潜んで体温の低下を防ぐことができた哺乳類たちのうち、あるものだけがこの変化を生き延びることに成功した。彼らに開かれたのは今や新天地だった。〔中略〕    現在、この地球のあらゆる場所のその生態学的地位を築いて放散した哺乳類たちは、みな、この生き残りの子孫たちである。70-1p

建築家・隈研吾の流儀「負ける建築」にも通じる価値観であると同時に

どこか我々間の生き方とも重なり合う、〈ひとつの真理〉ではないだろうか。

――"勝利"の二文字に執着し続けるプーチンの顔が、ふと浮かんだ。

 

【なぜ食べ続けなければならないか】

何度となく姿を変えて登場する「動的平衡説」のバリエーション。

周知の事実のはずなのに、読み返すたび胸が熱くなる。

私たちは、なぜ食べ続けなければならないのか。それは生体内で絶え間のない分解と合成が繰り返されているためである。食物に含まれるタンパク質はアミノ酸に分解され、体内に吸収されると、一部はタンパク質に再合成されて筋肉や臓器などを作る。   人体の構成成分のうち約二〇パーセントは二〇種類のアミノ酸が結合してできたタンパク質だ。人はアミノ酸を摂るために食べているのである。〔中略〕         では、なぜ、身体はタンパク質をタンパク質として吸収せず、わざわざ分解と合成を繰り返すのだろうか。それは、生命には「時間」があるからだ。いかなる生命も行き着く先は死である。しかし、分解と合成を繰り返し、自分の体の傷んだ部分を壊しては作り直すことで、生命は一直線に死へ向かうことに抵抗しているのである。86-7p

 

ここまでで、まだ全体の三分の一にも達していない。

残りの"驚き"は、ぜひとも自力で見つけ出していただこう。

ただし、「投げっぱなし」だと後味が良くないので

要注目キャプション(短文)のみ、リストアップした。

 

私は次のように考えている。あるアミノ酸が生命に必須となった瞬間、生物は「動物」になりえたのだと。90p

 

現在、地球上で最も多く存在している生物はトウモロコシである。97p

 

この世界のあらゆる要素は、互いに連関し、すべてが一対多の関係で繋がり合っている。世界を構成するすべての因子は、互いに他を律し、あるいは相補している。122p

 

仮に遺伝子操作によって、チンパンジーのA'遺伝子をヒトのA遺伝子にすげかえても(そして、この操作をくまなく繰り返し、DNA文字列上の二パーセントの差をすべて書き換えたとしても)、チンパンジーはヒトにはならない。              では、いったい何がヒトをヒトたらしめるのだろうか。218p

 

読み進めるにつれ、話題はより深く、より複雑に、だからこそ面白くなっていく。

とても数行程度の引用で伝えられる内容ではないため

このあたりで白旗を上げることにする。

あとは任せた。

――読まないと、きっと後悔するよ。

 

ではでは、またね。