いくらコラーゲンを摂っても肌はスベスベにならない 『新版 動的平衡 -生命はなぜそこに宿るのか-』福岡伸一 周回遅れの新書Rock

続篇『動的平衡Ⅱ』の"順番"が回って来たため

復習の意味で、改めて読み返した作品。

だから2度目のはずなのに・・

最初から最後まで驚愕の〈新事実〉に細い目を見開きっぱなしだった。

小説のストーリーならまだしも

こんなにも衝撃的な内容を、ほとんど覚えていないなんて。

己の記憶力の衰えに、慄然とする想いである。

――ま、そんなボヤキは置いといて。

 

とにかく、凄い凄い。

全体を貫くテーマは、言わずと知れた「動的平衡」。

いまや、常識のストライクゾーンをかすめるぐらいポピュラーな言葉だ。

要するに、"生命は変わらないために変わり続けている存在である"ということ。

もう少し砕けた言葉で表現すると、次のような感じかな。

建物・道具・電気製品etc

 あらゆるものは、時間が経つにつれ、少しずつ劣化(分解)してゆく。

 生命もまた、誕生した瞬間から劣化&分解に向かって転げ落ちる。

 ところが生命は、その崩壊が極まる(=死ぬ)前に、先んじて自らを分解し

 再生してゆくことで、長期間の活動を維持しているのである

 

・・・うーん、難しいな。ええかっこせずに、引用してしまおう。

生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物と摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新され続けているのである。だから、私たちの身体は分子的な実体としては、数カ月前の自分とはまったく別物になっている261p

 

実感できないとは思うが、これが真実だ。

かつては「変化(増減)しない」と考えられていた脳細胞を含めて、臓器・骨・血管・

血液など、体を構成するすべてのモノは、少しずつ分解&排出され、新たなモノへと

入れ替わり続けているのだ

んで、その分解&排出された「古いモノ」は、どこへ行くのか?

言うまでもなく、尿と便である。

昔は大部分が"食べかす"だと思われていた便だが

いまやその半分以上が、本人の体を成していた細胞などの死骸だと判明している

 

まったくもって、この基本的事実だけでも

改めて〈命ってすげーなー!〉と感動しっぱなしなのだ。

おまけに本書では、この「動的平衡」を語る途上で

次から次へと、思わず心の膝を叩く"新事実"が明かされてゆく。

 

たとえば、誰もが感じる次の疑問。

「なぜ大人になると時間が早く過ぎるようになるのか」

答えを解くカギは、『体内時計』にある。

体内時計とは、時計やカレンダーに頼らない自己の感覚が決める時間のこと。

それを決めるのは、細胞分裂のタイミングや分子プログラムなどの時間経過。

つまり、タンパク質の新陳代謝速度が、体内時計の秒針なのだ。

そしてもう一つの厳然たる事実は、私たちの新陳代謝速度が加齢とともに確実に遅くなるということである。つまり体内時計は徐々にゆっくりと回ることになる。〈中略〉  タンパク質の代謝回転が遅くなり、その結果、一年の感じ方は徐々に長くなっていく。にもかかわらず、実際の物理的な時間はいつでも同じスピードで過ぎていく。〈中略〉つまり歳をとると一年が早く過ぎるのは「分母が大きくなるから」ではない。実際の時間の経過に、自分の生命の回転速度がついていけていない。そういうことなのである         

45-7p

平たく言うと、歳をとると新陳代謝の速度が低下し、体内時計もどんどん遅れてゆく。

その結果、常に同じ速さで流れる時間を「以前より速くなった!」と感じるのだ。

 

こんな感じで紹介していくときりがないので、もうひとつだけ。

「健康(栄養)食品に関するオドロキの真実」

どれほどコラーゲンを摂取し塗り付けたところで、肌のうるおいは取り戻せない。

今も昔も大声でアピールされている〈宣伝文句〉がある。

いわく「コラーゲンはお肌にいいからたくさん摂取しましょう」に代表される

「〇〇を食べると✖✖に効果あり」という常套句。

これ、実は、真っ赤なウソである。

コラーゲンは、細胞と細胞の感激を満たすクッションの役割を果たす重要なタンパク質である。肌の張りはコラーゲンが支えていると言ってもよい。           ならば、コラーゲンを食べ物として外部からたくさん摂取すれば、衰えがちな肌の張りを取り戻すことができるだろうか。答えは端的に否である。             食物として摂取されたコラーゲンは消化管内で消化酵素の働きにより、ばらばらのアミノ酸に消化され吸収される。コラーゲンはあまり効率よく消化されないタンパク質である。消化できなかった部分は排泄されてしまう。                 一方、吸収されたアミノ酸は血液に乗って全身に散らばっていく。そこで新しいタンパク質の合成材料になる。しかし、コラーゲン由来のアミノ酸は、必ずしも体内のコラーゲンの材料とはならない。むしろほとんどコラーゲンにはならないと言ってよい。 〔中略〕コラーゲン、あるいはそれを低分子化したものをいくら摂っても、それは体内のコラーゲンを補給することにはなりえないのである。81-2p

 

つまり、コラーゲンを含むすべてのタンパク質は、胃に入って消化された時点で

ちょうどレゴブロックのように一つ一つのアミノ酸に分解されてしまう。

だからどんなに大量のコラーゲンを摂取しようと、たんぱく質の材料が増えるだけで

コラーゲンの大量補給にはつながらない、というわけ。

コラーゲンの健康効果を謳う企業からクレームがきていない以上、これは事実である。

きっとウソ寸前の印象操作を駆使して「コラーゲン効果」を宣伝してるのだろうが

・・ほんっと、バレなきゃ何やっても許されるのか、この世界は。

 

まだ半信半疑の方には、福岡先生からのダメ押しを。

食べ物として摂取したタンパク質が、身体のどこかに届けられ、そこで不足するタンパク質を補う、という考え方はあまりに素人的な生命観である。〈中略〉       ついでに言うと、巷間には「コラーゲン配合」の化粧品まで氾濫しているが、コラーゲンが皮膚から吸収されることはありえない。分子生物学者の私としては「コラーゲン配合」と言われても「だから、どうしたの?」としか応えようがない82-3p

 

他にも「たくさん食べても太らない(太りにくい)食べ方」など

今すぐ役立つ"暮らしの知恵"がギュッと詰まっている本書だが

やはり真髄は、《生命という驚異のカラクリ》を

可能な限りの平易さで解き明かしているところにある。

秩序あるものは必ず、秩序が乱れる方向に動く。宇宙の大原則、エントロピー増大の法則である。この世界において、最も秩序あるものは生命体だ。生命体にもエントロピー増大の法則が容赦なく襲いかかり、常に、酸化、変性、老廃物が発生する。これを絶え間なく排除しなければ、新しい秩序を作り出すことができない。そのために絶えず、自らを分解しつつ、同時に再構成するという危ういバランスと流れが必要なのだ、これが生きていること、つまり動的平衡である。297p

今度こそ忘れぬよう、しっかり脳細胞(これも随時入れ替わるけど)に焼き付け

現在、続篇『動的平衡Ⅱ』を読みふけっている。

 

ではでは、またね。