「読まないといけない本」なんて、この世界には一冊もないよ 『バーナード嬢曰く。』(1~5巻)施川ユウキ 周回遅れのマンガRock

我が家の本棚には、グレッグ・イーガンの作品が8冊並んでいる。

だが、まともに読了したものは1冊もない。

本作『ド嬢』を手に取るたび

そんな己の"グータラ読者ぶり"を、痛感させられる。

孤高のSF勇者・神林しおりの、あの名ゼリフが飛び込んでくるから。

グレッグ・イーガンは多少よくわからなくても

すっっつごくおもしろい!!」

 

この宣言に対する、ヒロイン?町田さわ子のリアクション。

神林女史のダメ押し発言も、負けず劣らずの絶品だ。

「よくわからないけど 

 よくわからなくてもいいってコトは 

 よくわかった気がする‥‥!」

「それでいい! よくわからなくても大事なコトは伝わるモノだ。

 次はイーガンの『ディアスポラ」を貸してあげよう。

 冒頭から延々よくわからないから」

「わーーー よくわからなそーー」  (第1巻6冊目 神林しおり曰く。・2)より

 

そんなわけで(どんなわけだ?)

本書は、楽して大量の本を読んだ雰囲気を醸し出す

"なんちゃって読書家"志望の女子高生と

彼女を巡る、およそ3名の読書愛好家が織りなす

ガチンコ議論と友情(??)の物語である。

 

第1巻が発売された2014年以来

新刊が手に入るたび、頭から読み返しているから

5冊目の今回(初版発行は昨年の5月!?)で

5度目のリピートになるが

何回擦ろうとも同じポイントで笑ってしまうことはもちろん

書経験を重ねれば重ねるほど、「ツボにハマる」箇所が増えていく。

少なくとも"本の虫"を自任している読者にとっては

とんでもなく中身の濃~~い、〈読書あるあるマンガ〉なのである。

 

しかも嬉しいことに、主要登場人物のひとり神林しおりは

筋金入りの「SF者」ときているのだから

小学生の頃からSFにどっぷりハマっていたオッサンにとっては

まさしく〈あるあるの宝箱〉!

『アンドロイドは・・』のディック作品にはじまり

『たったひとつの・・』『10月は・・』『世界の中心で・・』『海底二万里

『天の光は・・』『幼年期の終わり』『あなたの人生・・』『スローター・・』

などなど、8割方のSFは既読者ならではの優越感とともに

「そうそう、まったく君の言う通りだよ!」と

本作の「神林&ド嬢」に向かって、同意のつぶやきを漏らすこととなる。

 

要するに、本シリーズで言及されている作品たちは

「読む前」と「読んだ後」で、まったく異なる存在へと変貌するのだ。

世に〈読書ガイド本〉に類するものは数多いが

ここまで"読者の気持ちに寄り添ってくれる作品"には

正直、出逢ったことがない。

それくらい、個人的には「掛け替えないマンガ」なのである。

 

にもかかわらず・・・いや、だからこそ。

これまで、たまたま読む機会がなかったグレッグ・イーガンの作品群は

〈最後の楽しみに"取っておきたい〉なんて、思ってしまったり。

とはいえ、大事にし過ぎて間に合わなく(読めなく〉なっては本末転倒というもの。

いったいいつ、どんなタイミングで"グレッグ・イーガンを体験"するのか。

意外に悩ましい問題なのかもしれない。

 

ちなみにタイトルに使わせてもらったのは

第5巻表紙。神林しおりの名言。

本編内(75冊目)だと

この発言の直後、彼女は頬を赤く染め

やっぱり 今すぐ削除してくれ」と、訴えている。

カッコイイ言葉なのに、なぜ撤回を求めたのか?

答えは、ぜひとも本文70ページで確認していただきたい。

 

ではでは、またね。