2020年11月26日(木)
最初の内はスローテンポだった時の流れも
半ばを過ぎるあたりから、一気にスピードを上げていく。
旅に出るたび、毎回感じることだけど
ホントこれって、人生とおんなじなんだよね。
ともあれ、この日も朝8時過ぎ。
青空が眩しい底冷えの京都の街を
モーニングセット目当てに、バス旅に出発する。
3日目にして、ようやくバスマップを使いこなせるようになった。
と自慢する間もなく、降りるべきバス停を乗り過ごす。
幸い、ひとつ先の東山三条で降りれたので
200メートルほど戻るだけで、目指す『やまもと喫茶』に到着できた。
初日の「イノダ・コーヒー本店」同様
ここもネット情報などで有名な〈人気店〉のひとつ。
ただし「イノダ」のような"歴史ある名店"というわけではなく
こちらは、まちなかの庶民的な喫茶店。
大きなコーヒーミルが目印のドアを開け、明るい店内に入る。
案内されたのは、一番奥のテーブル席。
手作り感のある内装や、店内に飛び交う常連客の京都弁など
確かに「観光客向け」というより、地元密着型のコーヒーショップだ。
ふたりとも、人気メニューの「卵サンドセット」と「プリン」を注文する。
もちもちの食パンに挟まれた、ボリュームたっぶりの卵は
素材の味を活かしたあっさりテイスト。
デザートに頼んだプリンも、どこか懐かしい素朴な味わいだ。
濃厚な卵の風味に、やや苦みのあるカラメルが絶妙なアクセントを利かせていた。
それにしても、新聞を広げる常連客とおかみさん?の世間話やら
店内に無造作に積み重ねられた野菜の段ボール箱やら
なんだか喫茶店の中に居候してるような気分で、妙に居心地がいい。
ついつい長居したくなるが、しょせん明日には帰る旅人ふたり。
・・さ、次いこう。次。
朝10時を過ぎ、ちらほら暖簾を出し始めた店先を通り、もいちど東山三条へ。
四角く口を開けた薄暗がりのなかへと、降りてゆく。
入口上部のパネルには『東山駅』の文字が。
そう。初めて、地下鉄を利用するのだ。
今回の旅で、是非とも訪ねたかった「名所」のひとつが、山科の毘沙門堂。
しかし、「一日バス乗車券」の利用可能範囲からは外れており
京都駅からJRを利用するか、地下鉄で大回りするしか、移動手段はなかった。
そこでやむなくこの日は、地下鉄全線も乗り放題の「京都観光一日乗車券」を購入。
移動中の景色が楽しめない、〈がまんの数分間〉を受け入れることにしたのだ。
で、乗ってみた感想は・・地下鉄。それ以上でも、以下でもなし。
確かにバスよりずっと早いけど、もういいや。
(京都薬科大学で何かイベントがあった様子。交通整理の係員まで動員されていた)
山科のゆるキャラらしき〈ナス人形〉があちらこちらの軒先にぶら下がる不思議な通り
〈山科三条街道商店街という立派な名前があった〉を歩くこと20分弱。
右手に折れる緑の遊歩道が、天智天皇山科陵の入口だ。
そこから3分ほど進み、誰かの家の軒先を通るような脇道を右に入っていくと
のどかな川沿いの遊歩道に出る。
琵琶湖の水を京都市中心部に導く山科疎水に沿った、散歩道だ。
春は桜、秋は紅葉の名所として有名なところだが
案の定ここもモミジの盛りは過ぎており、好意的に見ても「散り始め」状態。
それでも、太陽に向かって歩くルートになっていたおかげで
陽射しに赤く透けて輝く〈名残りモミジ〉の美しさは、まさに夢心地。
行き交う人の姿も、ほんのポツリポツリ。
ほとんどが、ジョギングやウォーキング、犬の散歩などに興じるご近所の方々だ。
おかげで、周囲に誰もいないときにはマスクを外し、思い切り深呼吸!
秋の木々の匂いを、心ゆくまで堪能できた。
第1日目の「糺の森」に優るとも劣らない、《秋の京都・満喫タイム》だった。
★Ara-kan旅メモ/京都Ⅶ★
この旅いちばんの、リラックスタイム!
歩くだけで心が豊かになる、自然に触れる山科疎水遊歩道。
ところどころ深く積もった落ち葉を踏みしめ
のーんびり足を運ぶこと小一時間。
遊歩道は、いきなり人通りの多い道と交差する。
「石段一杯に敷き詰められた真っ赤なモミジ」で知られる
京都有数の紅葉スポットとあって、ここだけは観光客の姿が絶えない。
(あちらに2人、こちらに4人、というレベル。好きなペースで自由に歩ける。
嵐山のラッシュアワー状態とは段違い)
ここでも、思わぬ”出逢い”が
人の流れに沿って、参道を登りつめ、仁王門を潜る。
当初、ここに来た目的は、有名な「紅葉の石段」を見ることだったが
それがどこにあるのかもわからぬまま
なんとなく流れに沿って、受付で参拝券を購入。
靴を脱ぎ、本殿や庭園を巡るルートに乗っかってしまう。
実は、お目当ての「紅葉の石段」は本殿の隣にあり、見学は無料。
わざわざお金を払って参拝することはなかったのだが
結果的には、中に入って大正解!
順路に従ってふらふら歩き、ぼんやり襖絵を眺めていたら
ひとりの若いお坊さんがそっと近づき、率先して解説を始めた。
しかも、たまたま出逢ったその部屋だけでなく、我々の行く先々にまで同行。
文字通りの「専属ガイド」を務めてくれたのである。
おかげで、普段だったら、パッと眺めて「ふーん」程度で終わってしまう
襖絵・天井画・庭園などの見学が、ずっしり厚みのある知識として堪能できた。
また、二十歳そこそこらしきお坊さんは、自分がこの寺に来てまだ日が浅いこと。
毎朝五時に起きて、たった三人で、広い社殿全てを掃除することなど。
思った以上に厳しい、日々の暮らしぶりなども笑顔で語っていた。
庭園に残っていた鮮やかな紅葉とか
社殿を出た後で観に行った「モミジの石段」も美しかったけど
この若き僧侶の”無償の案内”こそ
毘沙門堂で最も心温まる〈おもてなし〉であった。
★Ara-kan旅メモ/京都Ⅷ★
毘沙門堂の社殿を見学する機会があったら
後ろでそっと見守っているお坊さんに、ぜひ声をかけてみよう。
充実のひとときが、体験できるかもしれないぞ。
ではでは、またね。