2020年11月24日(火) 14時30分あたり
とにかく、この雑踏から逃れたい。
その一心で、洛中方面へ向かうバスに駆け込んだ。
超メジャー観光地にすっかり懲りた我々が
気を取り直して向かったのは
四条河原町でバスを乗り継ぎ
「たまこマーケット」の舞台となった商店街の入口にある
葵橋西詰で降りる。
迎えてくれたのは、心地よい川風だった。
ほんの50メートルほど東に
目に入るのは、眩しい陽射しと、青空。
そして、ギリシャ文字のΛ型に突き出した突端部分には
歩いたり、座ったり、寝転んだり
それぞれお気に入りの時間をまったり過ごす
大学生のグループやカップル、地元の家族連れなどなど。
つい先ほどまでさまよっていた嵐山とは、違う国に来たような
のどかな情景が広がっていた。
・・やれやれ。
思わず息をつき、船のへさきみたいな突端に向けて下り坂になっていく
その斜面の途中に腰を下ろす。
やっぱり、こういうところのほうが性に合ってるよなぁ。
そんな感じの言葉を相方と交わし
川を横断する飛び石をピョンピョン跳ねながら渡る
元気な女の子を、目を細めて眺めてしまう。
何をするでもなくたたずむこと、しばし。
すっかりへこたれていた心の奥で、「充電完了」のランプが灯る。
――じゃ、いきますか。
元気をくれた鴨川デルタに別れを告げ、そのまま鴨川公園を北へ。
すぐ眼前に、うっそうとした木々の壁が起ち上がる。
京都最古の社のひとつ、下鴨神社の参道・糺(ただす)の森だ。
古代原生林の名残が見られるという。
今回、ぜひとも訪れたいスポットのひとつだった。
濃厚な緑の香りを胸いっぱいに吸い込み、いざ糺の森へ。
と、その入口に、小さな神社らしき建物。
境内の中央に建つ東屋に、なぜか若い女性ばかりが、十人ほど。
手許の何か向かって、熱心に筆を走らせている。
興味を引かれ、境内の中に入ってみると・・
社殿の横に設置された棚一面に、数百枚に及ぶ丸い顔の絵が。
なんだこれ?
遅ればせながら、ガイドブックをチェックして、ようやく理解する。
ここは、河井神社。
下鴨神社の第一摂社(分家みたいなもの?)で
女性の守護神・玉依姫命を祀っている。
それが「美の神」として信仰されていることから
絵馬に描かれた顔を自分に見立て、お化粧して奉納すれば
美人になれる!(・・かも)ご利益があるのだという。
なるほど、だからみんな、一生懸命、絵馬の顔を可愛く描いていたわけだ。
今風のメイクバリバリ顔、アニメ顔、大正レトロ美人顔など
人によって「美人」の基準は千変万化。
いずれ変わらぬ〈美しくなりたい!〉という想いの伝わる一枚一枚を
見比べていると、誰かの化粧室に忍び込んでいるような気持ちになってきた。
・・どうも、失礼しました。
心の中でペコリと頭を下げ、立ち去ろうとしたとき
境内の右手にたたずむ、小さな庵に気づく。
折りたたみ式の小屋みたいだけど、なんでわざわざこんなところに?
傾げた首の先に、立て札を発見。
文面を読んで、驚いた。
なんと、この神社こそ鴨長明の出生地だったのだ。
そう――ゆく川の流れは絶えずして、しかも元の流れにあらず。
古典オンチの私ですら覚えている名言の作者と、こんなところでお逢いするとは。
さすがは京都。奥が深いぞ。
そして、いよいよ、本日のメイン・イベント。
糺の森へ、おいでませ。
・・・・いやいや、すごいすごい。
ホントに、森だったよ。
足元を覆い尽くす、落ち葉の絨毯。
四方八方から立ち上がり、頭上はるかまで包み込む木・木・木。
しかも、まだ夕方前だというのに、人影はポツリ、ポツリ。
だからマスクを取って、思いっきり深呼吸できる。
広さ12ヘクタールの〈貸し切りの森〉。
なんと、贅沢なひとときを味わわせてもらったことか。
ここに来れただけで、京都を訪れた甲斐はあった!
――と、断言しても構わないくらい、心洗われるひとときだった。
その後、下鴨神社を参拝。
境内にある甘味店「さるや」で、由緒ある申餅を賞味。
さらに北へ足を伸ばし、夕暮れ時の鴨川沿いを散策。
日没後の京都府立植物園で、秋限定のライトアップを鑑賞するなど
いろんな〈京都体験〉があったけど
この日のNo.1は、文句なしに《糺の森》だろう。
★Ara-kan旅メモ/京都Ⅲ★
疲れたときは、鴨川デルタ&糺の森で癒されよう。
あと、もうひとつ、凄いことがあった。
それは、夕食。
京都を訪ねる2~3週間前から
雑誌やネットなどで「安くておいしい京都の夕飯」を
チェックし続けていた。
その結果、ワシらの〈B級アンテナ〉が目をつけた店のひとつが
四条河原町からほど近い、『食堂デイズ』。
情報によると水木が休みのため、
もし行くとしたら、1日目(火曜)しかチャンスがなかった。
なので、植物園のライトアップを鑑賞した後は
もいちどバスで四条河原町へ。
グーグルマップ様々の助けを借りて
路地の2階に『食堂デイズ』を発見したのは、20時あたり。
ネットの人気ランキングで見つけただけあって
明るくこじんまりした店内には、最高齢でも30代かなという若い客ばかり。
このご時世に予約なしという無謀な訪問だったが
悪運強く、テーブル席が1つ空いていた。
スペイン、イタリアあたりの南欧料理がメインらしい。
コロナ騒動がなければ、数日後には訪れていたあたりじゃん。
よし、こうなったら食でリベンジだ!
・・と、勢いよくオーダーしたかと思いきや
この時点では、まだ拭いきれない不安を抱えていた。
そう。「ネットで人気の店」は若い人が選ぶだけあって
〈ボリュームたっぷり〉〈脂っこい〉〈濃い目の味付け〉など
いわゆる「若者好好みの味」になっているケースが、少なくない。
そうでなくても、ほぼ徹夜状態で京都に乗り込み
朝から晩まで移動と観光の繰り返しで、普段よりお腹はバテバテ気味。
果たしてここは、Ara-kanふたりの舌を満足してくれるのか?
ぶっちゃけ、〈気分はギャンブル〉だったのだ。
というわけで、明らかにボリューミー&コテコテそうなメニューは避けて
キャベツの前菜、安納芋バター、オムライス、地鶏のお茶漬けなど
お腹に優しそうな料理を選んだのだが・・
最初に運ばれてきたキャベツの前菜を口に入れたとたん
――これ、スペインの味じゃん!
何度か訪れたスペインで出逢った極上の味が、蘇って来たのだ。
すると身体のほうも正直なもので、どん底だった食欲は一気に大復活。
うまいうまいと繰り返しているうちに、完食してしまった。
こんな風に書くと、スペイン料理専門店みたいだが
2皿目からは、それぞれ別の味わいが楽しむことができた。
味付けも濃すぎたり香辛料で誤魔化したりせず
素材の味で勝負している。
要するに、みんな違って、みんな旨い!
ぶっちゃけ、今まで京都で食べた、雰囲気ばかりの「伝統料理」「名物料理」より
遥かに心に沁みる味わいで、しかも高くない。
もちろん山ほど食べたわけではないが
大人ふたり、アルコール+4品注文して、5000円台。
食事に関しては、あまり期待していなかっただけに
第1日目の『食堂デイズ』との出会いは、めちゃめちゃ大きいものだった。
★Ara-kan旅メモ/京都Ⅳ★
京都で食べるなら、カジュアルな洋食がオススメ!
ちなみに、ここ『食堂デイズ』。
実は、今年の11月に開店したてのホヤホヤ。
厳しいコロナ渦のなかでも、健気に頑張っている。
店内は若い人ばっかりかもしれないけど
ぜひ中高年のみなさんも、チャレンジしてみてほしい。
少なくとも我らは、次回の京都でも必ず食べに行く気だったりする。
ではでは、またね。