"好き"こそが人生を豊かにする 『サブカルで食う』大槻ケンヂ 周回遅れの文庫Rock

サブタイトルは、「就職せず好きなことだけやって生きていく方法」。

この甘ったれた一文に騙されては、いけない。

何を隠そう、かく云ううたた(俺だ)も

どーせ、ちゃらんぽらんな野郎が適当に業界のことを書いた

なんの役にも立たない"芸人本"じゃないのかな~

みたいな予断を胸に読み始めた一人である。

 

というわけで、改めて訂正したい。

軽薄なタイトル&サブタイトルとは裏腹に

本書は、ものすご~く実用的で奴に立つ、《業界攻略本》だった!

 

どのあたりが「実用的」なのか

ざっくり頭からピックアップしてみよう。

 

第一章 「サブカル」になりたいくんへ 

で、こう切り出す。

いきなり結論を書いてしまいますが、サブカルな人になって何らかの表現活動を仕事にして生きていくために必要な条件は、才能・運・継続です。アハハ、根性論かよって感じですが、本当にこの3つが中心になります。                   3つのうち、才能と運に関しては自分ではどうしようもないことですけれど、「継続する」ことだけは誰にもできるじゃないですか。たとえ、才能や運がなかったとしても、ずーっと継続してさえいれば、誰でも、どんなジャンルでも、まあ中の下くらいにはなれるんじゃないかと思います。〈中略」                      そして、何かを継続してやっていくために大切なのは、やっぱり‥‥情熱ということになるでしょうね。今度は「予備校の講師かよ!」って感じですけど、やっぱりそれ大切なんですよね。                                 「俺はこれを伝えたいんだ!」「俺の好きなこのジャンルをもっとみんなに知ってもらいたい!」という感覚です。16p

 

40年以上、似たような業界で食ってきた"体験者"(俺だ)にも

上の3要素がいかに大切なのか、痛いほどよく分かる。

特に著者が最重要項目に挙げた「継続」は、自分にとっても反省すべきところ。

これまた相当量の痛みとともに、もろ手を挙げて賛同したい。

もちろん〈原動力=ガソリン〉としての「情熱」が欠けていたら

何年、何十年も続けられるわけがない。

逆に言うと、"これを伝えたい!"という情熱があるかどうか。

そいつが、自分の好きなことで食べていく、最低限の必要条件だったりする

 

んで、ここだけピックアップすると、

継続できない(=頑張れない)ヤツは成功しない!

みたいな、身も蓋もない話に流れそうだけど、ご安心を。

ここで著者は、自分がいかにダメダメな子供だったか暴露しつつ

しみじみと吐露してくれる。

実際、勉強できない、運動できない、ちゃんとした社会生活が送れない‥‥そういう「できないこと」があるからこそ遭遇できる面白いエピソードっていっぱいりありますからね。そこら辺にアンテナを張っておくと、のちのちにチャンスとなり得るかとも思います。「人間万事塞翁(さいおう)がコラムネタ」って考えましょう。22p

 

ま、こういう〈転んでもただは起きぬ〉根性があるからこそ、著者は"生き残れた"ともいえるんだけどね。

 

ともあれ、そんな風に前半は、著者自身が歩んできた道をたどりながら

自分学校で自習をすべし

「質より量」で映画を観まくる

プロのお客さんにはなるな

自分を観て欲しかったらまずバカになれ 28-37p

ーーといった"成長するための秘訣"を、次々に挙げていく。

 

なかでも、特筆したいのが 第五章 サブカル仕事四方山話

小説を書くためにラブコメ映画を観る 以降のくだり。

10ページにも満たないブロックなのだが

なんとここに 

(情熱=継続力さえあれば)誰にでもできる「小説の書き方」が

そのものズバリ、紹介されているのだ。

よく「小説なんとどうやって書けばいいのか分からないです」と聞かれるんですよ。 僕もちゃんと勉強したわけではないので自己流なんですけど、とにかく映画を沢山観ていればエンタメ系の小説は書けるんじゃないかと思いますよ。           もちろん他の小説を読むことも必要ですけど、映画の方が物語の攻勢を理解するのにはいいんですよ。よっぽど破綻した映画でない限りはきちんとしたストーリーの流れというのがあるし、それを2時間くらいで一気に観ることができますから。意外に思われるかもしれなせんが、特にラブコメ映画がオススメです。 86p

 

以下、映画を観たあと、どのように小説に仕立てていくかも、具体的に記されている。

世の中には、有名作家が著した「小説の書き方」本が、山ほど存在するが

ここまで《シンプルかつ実用的なアドバイス》には、お目にかかったことがない。

 

さらに魅力的なのが、書き上げるまでの"ハードルの低さ"。

「何を書いたらいいのかまったく浮かばない」と悩む超初心者にも、こう切り返す。

そんな時に効果的だと思うのは、まず散文詩を書いてみるということです。     自分の心象風景みたいなものを、つじつまが合っていなくていいからとにかくウワーッと掻き出してみる。これを10回くらい繰り返してみると、何となくテーマみたいなものは浮かんできます。                             テーマがぼんやりと決まったら、そこに自分の経験なり思っていることなりを重ねてみるといいですね。さらにその「自分」を別の何かに置き換えてみる。たとえばゾンビだったり、超能力者だったり、ぬいぐるみだったり‥‥。そうすると段々と物語が動き出してくるので、あとはラブコメの提携を思い出して、「変な出会い」「いい感じになる」「失敗して悩みの時期」「再会してなんとか話がおさまる」っていうフォーマットに当てはめていけば自然と小説の形にだけはなっていくと思います。88-89p

 

このあとも、

つじつまは最後に合わせればいい

エッセイは視点に注目

外に出て面白ネタをゲットしよう・・と、実用的HOW-TOのオンパレード。

正直、3~40年前に本書を読んでいたら、迷わず実践していただろう「コツ&ツボ」が

惜しげもなく披露されている。

 

いっぽう、「人気が停滞した時は」「それでも食べていけなかった時は」など

継続してもうまく行かないときの対処法にも、きちんと触れている。

そのあたりのフォローも含めて、とことん〈実用的〉なガイドブックだ。

サブカル方面」を目指す人はもちろん

そうでなくとも、なんらかの〈情熱〉を胸に秘めている方は

"騙されたと思って"、本書を手に取っていただきたい。

なにせ、巻末の特別対談を含めて170ページそこそこのコンパクトさ。

それこそ「映画一本観る時間」で、読めるから。

 

ではでは、またね。