75歳で"若く健康な身体"をゲット。だがその代償は・・ 『老人と宇宙(そら)①②③』ジョン・スコルジー 周回遅れの文庫Rock

75才になったとき

あなたの前に「2つの道」が提示される。

ひとつは、そのまま時の流れに身を任せ、寿命が尽きるまで生き続けること。

もうひとつは、若く健康な身体を再び手に入れる代わりに

10年間の〈兵役=コロニー防衛軍〉に志願する。

もちろんその後も、軍に留まり続けても

引退して"長い長い第3の人生"に歩み出すのも、本人の自由だ。

ただし志願した場合、二度と故郷(地球)の土を踏むことは許されない。

ーーさて、あなたなら、どちらを選ぶ?

 

これは、その〈後者の道〉を選んだ男を主人公に据えた

SF(ジャンル的にはスペース・オペラかな)シリーズだ。

※原題はまんま「OLD MAN'S WAR」。日本訳の元ネタはもちろん『老人と海』。

 

う~ん、75歳で兵役に志願すれば

50年前の身体(それ以上の健康体)を手に入れることできるのか・・

75歳を迎えた時の体調(生きてれば)を考えると、チャレンジしたくなるよなぁ。

などと、完全に主人公と自身をダブらせながら、読み進んでゆく。

正直、並行して読み進めていた『戦場の掟』(昨日のブログで紹介)の影響で

悲惨な戦闘シーンなどでは過剰に感情移入し

すんなり〈勝利=喜び〉の図式を受け入れられないこともあったが・・

 

その後、主人公は、多くの志願者(全員75歳)と同様

自分の遺伝子を元に速成された20代の肉体(兵士に適した身体機能を付加)へと

意識(脳内情報?)を転送。

無事、50年前+アルファの完全健康体を手に入れた。

このときに渡されるパンフレット(PDA)が、振るっている。

新しいあなた

コロニー防衛軍新兵のための新しい体への手引き〈中略〉

すでに、あなたはコロニー防衛軍から新しい体を受け取ったことでしょう。おめでとうございます! その新しい体は、コロニー遺伝研究所の科学者とエンジニアによる長年におよぶ改良の成果であり、CDFの兵士としての厳しい要求に応じられるよう最適化されています。

新しいだけではないーーよりよい体

すでにお気づきのとおり、新しい体は緑色をしています。それはうわべだけの化粧ではありません。新しい皮膚(クロラダーム)に含まれる葉緑素が、体の追加エネルギー源となり、酸素と二酸化炭素の利用効率を最大限に高めます。その結果、疲労は低減され、長時間にわたり、よりよく任務を果たすことができるのです! ①114-5P)

 

要するに、単なる50年前の体ではなく、より強靭な筋肉、スタミナ、五感能力など

(暗闇でも赤外線で"視える"眼)、優秀な兵士に必要な改良が施されている。

さらに、メンバー中で意識を共有できる「ブレインパル・コンピュータ」が常時接続。

言い換えれば、仲間同士で自由自在にテレパシーが使えるわけだ。

 

と、ここまではいいことづくめだが

もちろん、現実はそんなに甘いもんじゃない。

若い肉体に夢中になったおじいちゃんおばあちゃんがたちが繰り広げる

三日三晩の乱交パーティが過ぎたあと

広間に集まる「新兵たち」の前に、歴戦の古参兵が立つ。

「いま、この部屋には千二十二名の新兵がいる」ヒギー中佐がいった。

「これからの二年間で、このうちの四百名が命を落とすだろう」〈中略〉

「三年目には、さらに百名が死ぬだろう。四年目と五年目でさらに百五十名。十年後には――そう、諸君はまるまる十年の兵役を要求される可能性がきわめて高い――合計で七百五十名が軍務によって命を落としているだろう。諸君の四分の三はいなくなるわけだ。こうした生存率の統計値は、過去十年や二十年ではなく、コロニー防衛軍の二百年を超える活動期間が対象となっている」

場内はしんと静まりかえっていた。              (①147ページ)

はてさて、肉体25歳+α、中身75歳の新兵たちの運命や、いかに・・・!

 

いささかバラシ過ぎかなとも思ったけど、実質ここまでがプロローグ。

ページ数的にも、1巻目の3分の1を少々超えた程度だ。。

 

ともあれ、こうして大宇宙を舞台に、あまたの異種族を相手に始まる

"元老人たち"の過酷で壮絶な戦いの日々は

遥か昔、夢中になった『宇宙の戦士』(ロバート・ハインライン)を髣髴とさせる

センス・オブ・ワンダー!の連続また連続。

ときに、「あれ?・・これって、どこかで読んだかも」なんて感じることもあるけど

それについては、著者自身が第一巻巻末の『感謝のことば』で記していた。

なぜ本書の特定の部分がとてもすばらしく見えるのだろうと思っているひとのために、てっとりばやく説明しておくと、わたしがほかの作家の本でそれらが効果的に使われているのを見かけて、「こいつはすごい、パクるとしよう」と思ったからだ。意識してパクらせてもらった作家たちを紹介しておこう――  

※以下、具体的な作家名と作品名が列記されている。       (466ページ)

 

やたら著作権(それにまつわる金)に厳しくなった近年ならいざ知らず、

パクりなんて、シェイクスピアはもちろん、カエサルプラトンも使っていた基本中の基本テクニックだ。あらためて目くじらを立てる意味もない。

そもそも先人の真似を気にしていたら、小説なんか一行も書けやしない。

要は、完成した作品が、人の心を揺さぶることができるか否かだ。

 

あああ、いかん。

また話がトラバースしてしまった。

 

ともあれ、結論として、次のように言い切ってしまおう。

本シリーズは、いわゆる「宇宙戦闘モノ」の集大成にして最高レベルのSF小説だ。

『火・金星シリーズ』『レンズマン・シリーズ』『宇宙の戦士』『デューン砂の惑星』『リングワールド』『知性化戦争』『エンダーのゲーム』『ハイペリオン四部作』『ヴォルコシガンサーガ』のうち、ひとつでも面白く読まれた方なら、迷わずお勧めする。

いや、むしろ「SFなんか興味ない」と思ってる人の方がとっつきやすいかも。

だってこれ、コロニー連合への"異世界転生モノ"でもあるのだから。

ゆえに『86』『Re:ゼロから始める異世界生活』の愛読者にも、絶賛Recommend。

 

ではでは、またね。

 

※実は本シリーズ、この後も3冊ほど続編が出ている。

 全部本棚に並んでいるが、一度に通読するのがもったいなくて、ストップ中。

 ごちそうを前にじっとたたずむポチのように

 行儀よく"よし!"の掛け声(自分が言うんだけどね)を、待ち続けている。