2024年10月28日(月)
本来なら、空の上で機内食をパクついていたはずのお昼前。
目の前には、熱々の煮込みうどん風スパゲティが・・
理由はいたって単純だ。
朝早くシンガポールから到着、整備を済ませた後
SQ631として折り返し8時50分に羽田を出発する予定だった機体が
すぐさま代替機がシンガポールを離陸。
台北で足止めを喰らった乗客をピックアップし
本来の目的地である羽田まで飛行。
我々が乗る予定だったSQ631の代わりとなってくれる、こととなったのだが・・
それらアクシデントのおかげで、当初の出発時間は大幅に遅延。
なんと17時間遅れの25時30分発となってしまった。
もちろん、ずっと早い便や他社便に振り替える選択肢もあったけど
ロス少ない代替案はファースト&ビジネスクラスのお客様方に優先的に提供され
エコノミークラスの利用者には、上の深夜発便しか残ってなかったのだ。
朝9時前の予定が深夜1時30分になると告げた後
シンガポール航空の係員は、2つの選択肢を提案してきた。
ひとつはタクシーに乗り、いったん自宅に戻り
夜になってから再び羽田に戻ってくる。
往復ともにクーポンが貰えるので、交通量は不要だ。
もうひとつは、空港に隣接するホテルに部屋を用意するので
そこでチェックイン時間まで過ごす、という案である。
むろん部屋代は航空会社が負担し、夕食代も払ってくれるという。
ただし、ホテルのチェックインは15時以降のため
それまで時間を潰さなければならないが。
ーーふたりとも、迷わず「ホテル滞在コース」を選んだ。
実は、これまでに4~5回ばかり大幅な遅延に遭っているけれど
そのたび、高級ホテル滞在と当地での食事を無償提供していただいた。
極力高価な宿は避けているB級旅人にとっては
滅多にない贅沢なひとときが体験できる"チャンス"だったから。
そんなわけでーーーやたらと長い前置きだったが
出発予定時刻を3時間ばかり過ぎた10月28日のお昼前。
羽田空港内にある人気のスパゲティ店で30分ばかり列にならび
"失意のランチタイム"を過ごすこととなった。
11時過ぎの時点で、20人ほど行列ができていた。
普段なら面倒臭くて並ばないが、なにせ時間は腐るほどあった。
交代で行列を抜け、何を食べようかショーウィンドウと睨めっこ。
"行列店"だけあって、どれを食べてもハズレはなさそうだ。
そうそう、さっき"失意のランチタイム"と書いたけど
これはチェックイン開始の15時まで待つ事態に対するものではなく
己の〈致命的な失態〉に対する愚痴であった。
実は、もう少し注意深くしていれば
今頃はバリ島行きの直行便に搭乗しており
予定より1時間以上早く、バリ島に到着していたのだ。
あまりに悔しいので、正直書かずにおこうかと思ったのだが・・
羽田で乗る予定だったシンガポール発の機体が台北の空港に禁中着陸。
出発が大幅に遅れることが明らかになった、朝8時前のこと。
一通のメールがスマホに着信していた。
そこには、こんなメッセージが記されていたのだ。
成田空港11時発のガルーダインドネシア航空便バリ島行きに、✕✕様2名分の予約をお入れしました。今から成田空港に直行し、時間内に搭乗手続きを済ませてください。
羽田⇒シンガポール/シンガポール⇒バリ島という煩雑な乗り越えもなく
バリ島への直行便で、1時間も早く最終目的地に到着する便を手配してくたのだ。
なんという幸運!!
・・・だが、しかし。
当時、所持していたのは容量の小さい旧式スマホで
ちょっと調べ物をした程度フリーズするため
必要な時以外は電源を切っていた。
おかげで問題のメールに気づいて文面を読んだのは、朝の9時前。
ヘリでも飛ばさなければ、11時の出発時刻には間に合わなくなっていたのだ。
件の《振り替え便メール》が届く十数分前の7時30分ごろ
同じシンガポール航空から届いた「遅延のお知らせ」をリアルタイムで受信。
「こんなメールが届いてたよ、やっぱ大幅に遅れそうだな~」
なーんて相方に見せていたというのにーーー。
まったくもって、いま思い出しても胸の底がキリリと痛む大失態。
(このダメージが尾を引いて「バリ島旅記録」のなかなか書き出せなかった)
ともあれ、ようやく"ひと山"越えることができた。
寝不足の腹に煮込みスパゲティを詰め込み、さらに一息ついた14時半過ぎ。
ようやく航空会社に手配された空港直結ホテルへと向かうことに。
正面出口をまっすぐ突き進み、右に折れて長い屋内コンコースへと足を踏み入れる。
羽田空港の前にこんな場所があったのか!
何十回も訪れていながら、初めて歩くゴージャス回廊。
数百メートルに渡って、右手に選りすぐりの名店街が並ぶ(左は一面ガラス張り)
その先も広大なショッピングエリアが続いており
大理石っぽい一角のエスカレーターを昇ったところがホテルの入口だった。
シャンデリアの下にソファが点在する外国人観光客ばかりのロビーを抜け
航空会社のカウンターで手渡されたカードを、受付の男性コンシェルジュに手渡すと
7階のひと部屋を手配してくれた。
エレベーターのドアが開くと、遥か彼方まで一直線の廊下と無数のドア。
一瞬、シャイニング(古いな~)のワンシーンを思い出した。
その後、自腹では絶対に宿泊しないだろう広くてリッチな室内で
ふかふかベッドに倒れ込むこと、数時間。
気がつけば、夕食時が近づいていた。
チェックイン時に渡された食事バウチャーを確認しつつ
指定された地下一階のレストランまで降りる。
地下一階にも、多彩な店やイベント施設が広がっていた。
羽田空港の前がこんなことになっていたとはーー
大田区糀谷で生まれ育った下町ジジイは目を丸くするばかり。
シンガポール航空が手配したのは、こちらのビュッフェレストラン。
時間も早め(6時半ぐらいだったかな)だからか、客の姿はポツリポツリ。
気になる料金は、大人お1人さま5500円。
よくある"食べ放題"だが、ビュッフェスタイルにしては驚くほど味がいい。
その場で料理を作るキッチンも色々あったが、天ぷらだけでお腹はパンバンに
いくらでも詰め込める若者が羨ましくなるのは、こんなときだ。
あんまりケチケチしてもなぁ・・と、一杯1100円の地ビールで乾杯した。
もいちどホテルの部屋に戻って読書&うたたねタイム。
夜10時を合図に荷物をまとめチェックアウト。
わずか7時間のホテル滞在だったが、思ったより休めたようだ。
22時10分、閑散としたチェックインカウンターへ。
ほとんど人の姿はなく、まだちょっと早かったかな~と思ったら
どこからともなくシンガポール航空の職員たちが現われ
開始予定時間よりも早く搭乗手続きをしてくれた。
深夜発便で余裕があったのか、座席は選び放題。
例によって2人それぞれ窓側席にしてもらう。
スーツケースを預け、さてラウンジでお茶でも・・と横を見ると
責任者らしき男性が深々と腰を折り
ーーこのたびは大変なご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
気がつけば、カウンター周辺でチェックイン業務に勤しむ人々は
早朝見かけたのとまったく同じ顔ぶれ、文字通り不眠不休で頑張っていたのだ。
ガラにもなく胸が熱くなり
ーーいや、どうもご苦労様でした。
そんなありきたりな言葉しか返せなかった。
隣で平身低頭する部下が差し出す小さな紙袋を受け取り、その場を離れる。
後で中身を改めると・・虎屋の羊羹の詰め合わせ。
それも、ひとり一袋ずつ。
ーー重くて荷物になるから、バリで食べちゃおうか。
互いに困り笑いを浮かべつつ、今回のトラブルも結構楽しめた気がするのだった。
ではでは、またね。