『女の絶望』 伊藤 比呂美 -引用三昧 22冊目-

卯月-うづき――ふうふのせっくす 

「若い人っていうのは自爆みたいなセックスをします」とあたしは書いた。    「性欲というより、『アタシはココに生きている』というのを確かめるために、あなたは次々にセックスしてきたんですね、一所懸命傷つきながら、そういう時期を生き抜いてきたんだ、今はもうやってないんだから、それでいいんだ」と。         あたしにも身に覚えがあった。セックスしてんだかげろ吐いてるんだかわからないセックス、手首切ったりヤケ酒あおったりするかわりに、ま、ペニスを中に入れとこうかっていうセックス。快感なんかあるようでなくって、ないかと思うとあるんですね。だからまたやめられなくなっちゃう。 [15]                       切ないねえ、こういう「ココでこんなコトしてるのはアタシに相違ありません」ってハンコ捺すかわりにおまんこ開いてる若い女の子。五十になれば、そんなハンコ捺さなくたってセックスできるんです。そのときにゃもう白髪は生えてるしシワは寄ってるし、ちょっとやそっとじゃ男が寄りつかないようになっちゃってるんだけどもね、楽なんだ。これがまた。まだ間がありますよ、それまでいっぱい泣くんだろうなと思うとね。

 

 なんだな、今の日本じゃ、ほとんどの若い人が自分に自信がなくて、二人にしとりは、自分が誰だったか忘れちゃって、三人に二人は、人とうまくつきあえないんだなという感想を持った。                                そう思って若い人たちを見ると、驚くなかれ、見た目もみんなそんなふうだ。    日本の若い人っていうのを意識してみるのが、海外の空港です。ロスとか、ロンドンとか。荷物の出てくる回転台の前に、同じ飛行機でやって来た若い人が、あすこにしとり、ここにふたりと立ってェる。疲れてぼーっとしてるから、本性があらわれる。うしろでこんなおばさんが観察していようなんて思ってもないからね。若い女の子は、こう、背骨がなくなっちゃったみたいな、イカやタコがきょーつけしてるみたいな立ち方してます。男の子は、なんだか尻子玉を取られちゃったような顔してます。   [16]                              

皐月-さつき――おんなのぜつぼう                              

離婚はすすめるときとすすめないときがある。ま、当然だけれども。        本人が別れたがってるなと感じるときは、そっちの方向に向けて考える。      本人がどうしたいのかわかってないときは、まだなんだと思う。              子どもがいるから別れられないと思いこんでる人には、できますよ、子どもが苦労するだけで、と教えてやる。子どもはたしかに苦労するけど、まず最初に自分を取りもどしてから、こんだァ苦労した子どものために苦労してやることもできますよって。[40]                                                  

水無月-みなづき――子ゆえのやみ                       若者は、考え直しちゃいけない。「お天道さまと米のメシは」てえタンカを切って、出ていっちまわなけりゃァいけない‥‥。                     親はあきらめて、行かしてやんなさい。行かして、苦労さしてやんなさい。[67]

とどのつまり、苦労はしても、それが手に入るんなら、もういいんじゃないか。   だから、しとしきり反対してやったら、あとはもうほっときましょう。子どもががんばってるんだから、親は親で、できることをする。できることッたら、見ててやること。見ててやる。思春期と違ってこの場合は、片目はつぶる。             見すぎちゃうと鬱陶しいからね、片目だけ開けて、でもちゃんと見ててやる。    だめなら戻ってくりゃいい、やり直しはいくらでもできるのが人生だ。やり直しができるって、たいていの人は知らないんだけどもね、できるんです。          戻ってきたそのときに、ああいいよいいよ、よくがんばったね、ああよくがんばった、疲れたろ、戻っておいで、やり直しすりゃいいんだからって、いってやりたい。いってもらいたい。ちゃんと見てさえいりゃ、親にはそれができるんです。[68]                                                           

どうしかえめに見ても、子どもを追いつめてるのは親じゃないかッてえ親が何人もいましたよ。                                   必死ンなって子どものことを心配してるつもりなんだが、じつは、子どもを見てない。子どもがいったい何をほしがっていて、何を考えているのか、てえことを見てない。 自分は見てるつもりなんですが、見てないんです。ぼたんをかけ違えちゃったみたいなもんですな。  [69]                              自分は一所懸命子どものことを考えてるッて思ってるんだが、そのじつ、一所懸命に考えてるのは、自分のことなんだ。 [70]

 

文月-ふみづき――みをこがす                         やりたいことがあったら思いっきりやってみて、だめならしき返せばいいじゃないかと、あたしは思うんです。やってみて後悔するのと、やらないで後悔するのとじゃ、やってみて後悔した方が、自分のためにいいと思うんです。 [90]            それはもう絶対。二十歳の人にも七十歳の人にも、同じことをいいますよ、あたしは。                              

【女は、いくつになっても、恋愛至上主義者であることをゆめ忘れぬこと】     女は、快感も欲しいけど、それよりももっと欲しいものが必ずある。男はそれに気づいてない。たまには充たしてくれるんだけど、たまたま、知らずに、つい充たしちゃったてえやつだ。                                 それァ何かってえと、心のラブラブ。                      こにかんしては、あたしゃ、一般的なことで例外もあろうなんて軽い気持ちでは申しません。女という女は、老いも若きも、かくじつに、それをもとめている、と断言いたします。  [95]

 

葉月-はづき――へいけいのこころえ

【教訓その一】夫は、妻が太ったということを内心どんなに確信していても、妻の前ではけっして口に出してはいけません。  [107]

キレイになりたいというその欲望は、まさにわが内にあり。            キレイとは、つれあいである夫の目ではなくて、男の目ですらなくて、よその女の目を基準につくられているのだという真理を、発見しました。              くじゃくの羽や猿のお尻の赤いのは、あれァ異性を射止めるためのものでしょ。   ところがワレワレが、シミを気にしたり高い服を買ったりするのは、猿のマウンティング行動みたいなものだったんですねえ。                     わかります? つまり、どっちが上位かってえことだ。  [113]

 

長月-ながつき――ちうねんきき                        セックスてえのも、それと同じと思ってます。ね、自傷行為。           刃物ですっすっと切るかわりにですな、ペニスでえものをからだン中に入れちまう。あ、イタイ、とそこまではおんなしなんですが、こっちは痛いだけじゃなくて気持ちもいい。痛い、気持ちいい。痛い、気持ちいい、で、「いたぎもちいい」てやつです。 食べるのも、手首切りも、毛を抜くのも、じつはみィんな「いたぎもちいい」んでね、も、やめらんなくなっちゃうンです。  [124]

セックスなんてェめんどくさいことはしないで、猫かなんか抱いて、のほほんと暮らしたい。猫を抱いたり撫でたりするのは、めんどくさくないですからね。なぜかてえと、自分を変えずにすむからです。自分のまんまで猫は抱けるが、妻や夫は、それでは抱けない。 [133]

 

神無月-かんなづき――みんなのしつと

で、嫉妬の本質とは。                             はっきり申しあげますよォ、いいですかァ、聞いておどろくな。          嫉妬の本質とは、自分とのたたかい。                      自信がなくなったときに、嫉妬は起きる。あるいは嫉妬したときに自信はなくなる。 つまり嫉妬とは、自分は強くない、自分には人より価値が無いてえことを感じる瞬間なんです。 [150]

「嫉妬」とは、他人のせいで自分の力がままならなくなったときの、いかりの感情。 自分のほうが勝ってりゃ嫉妬しません。相手のほうが、年が若かったりすこゥしきれいだったり収入が多かったりすしますと、こっちの足元は揺らいじゃって、嫉妬します。心細くって、不安になって、つきつめれば、自分てものが消えてしまうような寂しさを感じるてえのは、そういうわけです。       [151]

 

"引用する箇所は中間点まで"という自主規制を破り

150ページ過ぎまで勇み足。

「嫉妬」に対する著者の定義が鋭すぎて、書かずにいれらなかった。

もちろんこの後も、深く鋭い名言・危言のオンパレード。

ぜひとも元本を手に取り、精読してほしい。

 

ではでは、またね。