フィギュア観戦が10倍"切なく"なる 『メダリスト』①~⑦ つるまいかだ 周回遅れのマンガRock

ひとことで言うと

ダメダメ(と思われていた)スケート大好き少女が隠れた?才能を発揮し

これまた挫折経験のある若きコーチと共にオリンピックを目指す――

という、様々なジャンルで見かける"あるあるパターン"の物語である。

 

・・・あるのだが。

この目もくらむような熱気と執念は、いったいどこから湧いてくるのか。

加えて、主人公がひとつひとつステップを上がるたびに

立ちはだかる課題と試練、その圧倒的なまでのリアリティったら!

 

ちょっと前まで、フィギュアスケーターを目指す少女少女たちを

"上から目線"で論じていた自分自身を、ぶん殴りたくなる。

と同時に、かくも過酷な競技に"ありったけ"を懸けて挑む少年少女らの姿を

冷静に観戦できなくなってしまった己に気づかされた。

ーーこんなふうに文字にすると、えらく大袈裟に感じるかもしれないが

偽らざる実感なのだから、仕方がない。

実際、ローティーンのノービス&ジュニア選手が

ただ一人リンクに立ち、すべてを己の身に背負ってチャレンジする数分間は

文字通り〈運命との闘い〉なのだから。

しかも彼ら彼女らは、そんな孤立無援の激闘を

10歳そこそこの小学生時代から、繰り広げていくのである。

 

頂点を目指すなら、物心付く頃には始めないと間に合わない。

 

たとえそれがスポーツ界における"常識"なのだとしても

その現実を、自分自身の過去に重ね合わせてみると

どれほど常軌を逸した英才教育なのかと、思わず天を仰いでしまうのだ。

同時に、マスコミに取り上げられるレベル(大会)まで到達した小さな勇者たちに

心からの賞賛と声援を送らずには、いられなくなった。

 

ぐだくだ前置きばかり伸びてしまったが

要するに、いいとしこいたオッサンに、それほどの「衝撃」をぶちかますほど

本作『メダリスト』の主人公・いのり

ーーわたしは金メダルを取れる人に絶対なりたい

そして、彼女の未来に己のすべてを懸けるコーチ・司

ーー俺のぶんの"一生"を使ってこの子を勝利まで連れていく!

は、誰のものでもない自分たちの"実力"で、メダルへの階段を駆け上がっていく。

 

むろんストーリーの随所には、マンガならではの飛躍や奇跡がちりばめられている。

それを「ご都合主義」「お約束」と切って捨てるのは、読者の自由だ。

しかし、そんな虚構を補って余りある「リアリティ」が、本作には溢れている。

だからこそ作品世界を超え、今この瞬間も全力で"メダリスト"を目指して奮闘する

少年少女たちの姿に、胸が、目頭が熱くなるのだ。

 

年甲斐もなく? 興奮してしまったが

たかがフィギュアスケートを扱ったスポーツ漫画でしょ

などと「達観」している方にこそ、手に取っていただきたい。

 

正直、冒頭の食いつきは、あまりよろしくない。

その後の「熱さ」を強調したいがために、とことん「マイナス」から始まるから。

しかし、2巻3巻とストーリーが進むほど

最初の「マイナス」が絶妙のスパイスとなって、効いてくる。

そうなったらもう、読者は『メダリスト』の虜だ。

ぜひとも1巻で見限らず、せめて2巻までお付き合いたただきたい。

どんどんどんどん、本作とフィギュアスケートの魅力とスゴさが身体中に染み渡り

"その先"を読まずには居られなくなるから。

 

結局、最後まで具体的なストーリーには触れず

ぼんやりした印象&感想ばかりの羅列になってしまったな。

せめてものお詫び?として

読書中に心を震わされた「勝手に名ゼリフ」を、いくつか引用してしまおう。

少なくとも本作の"フィギュアスケートに対する姿勢"が、伝わるはずだ。

 

フィギュアスケートの選手の多くは大学卒業の歳で引退する

そのあとはアイスショーに出演したり 振付師 コーチなど‥

「プロ」のスケーターになり収入を得る

・・が、それは日本代表レベルの選手の場合のみである

日本には世界屈指の選手が何人もいるが

その陰にあと一歩で世界に届かなかった選手がどれほどいるかご存じだろうか

元選手たちがスケートで食べていけるかどうかは

全日本選手権出場がカギとなる

全日本選手権」出場は選手たちの悲願

高校野球でいえば甲子園のような存在である ①p8-9

 

スケーティングは一日やそこらでものにはならない

美しい姿勢のまま一番スピードの出る自分だけの重心の一点を探して

何度も練習を重ねてずっと磨き続けていくものなんだ ①p49

 

スケートを続けるのに絶対に必要な能力はあります‥‥

それは リンクに賭ける執念です

それがこの子にはあります

フィギュアスケートは氷の上でしか練習できない‥‥

時間も費用も‥‥練習にかかるものが他の習い事の比じゃない

この避けられない問題達を乗り越えるには

本人の強い前向きな意志がどんな才能よりも必要なんです ①p59

 

俺にも勿論意見はある

でもこれを機に「選択」する事に慣れてほしいんだ

大会前のジャンプ構成だけじゃない

いのりさんにはこれから何度もこういう選択があると思う

練習に基礎・挑戦・バレエ・ダンス・陸上トレーニング‥‥

何をどれくらい取り入れて‥‥

何を捨てるか

一つ一つの小さな選択が大きな枝分かれになり

将来かけがえのない世界の一人だけの個性の選手のあなたを作るんだ ①p183

 

転ぶことを怖がらなくていい

転んだって平気な顔して立ちあがればいい

全部失敗しても 俺が何百回でも一から教え直す

そしてもう一度挑戦する それだけなんだ ②p26

 

焦らなくていいんだよ

できない事と向き合った時間は

未来でまた壁にぶつかった時の助けになる

‥‥狼嵜選手たちとのキャリアの差は変えられないけど

経験はまさに今少しずつ積み重ねられているんだ

今の時間を憎まないでしっかり大事にしていこう ②p140

 

自信は人に貰うものじゃない

俺が‥‥何度も俺自身を信用しないと

何でもかんでも武器だ強みだと思い込め

勝利への糧に変えていけ  ②p170

 

きりがないけど、このあたりで止めとかないと。

これから読む人の楽しみを奪うことになりかねない。

ぜひとも3巻以降は、一緒に楽しもう。

 

ではでは、またね。